森と人と、ヒダクマと。 “飛騨の森でクマは踊る”前編:彼らの想い - KIDZUKI
Category木を知る
2023.02.14

森と人と、ヒダクマと。
“飛騨の森でクマは踊る”前編:彼らの想い

木のこと、森のこと、地域のこと……日常の中から新しい価値を生み出すべく、広い視点と新しい考えをもって前進しながら、チャレンジし続ける人たちがこの飛騨の地で気持ちのよい循環を促しています。それは、“飛騨の森でクマは踊る”、通称“ヒダクマ”という活動体。向き合う先にはさまざまな課題はあれど、「まずは一緒に森に行こう」と、やさしく手を差し伸べることからはじまる彼らの想いと活動を、前後編2回にわたりお届けします。

飛騨の街に開いた『FabCafe Hida』というプラットフォーム

岐阜県の最北端に位置し周囲を3,000mを超える山々に囲まれた街、飛騨市。総面積の93%を森林が占めており、日本を代表する家具の産地として、家具メーカーをはじめ木工の作家、職人が集まる街です。隣町である高山の奥座敷とも呼ばれ、江戸時代には城下町として栄えたこのエリアには、白壁の土蔵や瀬戸川を泳ぐたくさん鯉、祭りの文化など、いまでも風情ある佇まいが各所に残っています。ヒダクマがこの地に根ざすことを決めたのは、今から約7年前。“コミュニティを育みながら、森と地域、デジタルものづくりへの扉を開くカフェ&ステイ”である『FabCafe Hida』をオープンさせたことで、彼らの想いや活動はぐんぐん広がっていきました。

築100年以上の古民家を改装して完成した『FabCafe Hida』。カフェ、デジタルファブリケーション、宿泊施設を兼ね備えた地域の交流の場でありヒダクマの活動の中心地。飛騨の森や街の文化を学ぶワークショップやイベントも随時開催している。

FabCafe(ファブカフェ):現在世界13都市に拠点を持つクリエイティブコミュニティ。人が集うカフェに3Dプリンターやレーザーカッター等のデジタルファブリケーションを活用し、“デジタル”と“リアル”の壁を自由に行き来しながら次世代のものづくりのプラットフォームとして体験の場を提供している。https://fabcafe.com/jp/

ご近所から、県外から、東京から、外国から……。とにかく『FabCafe Hida』には絶えず人が訪れています。ものづくりや研究のための制作を行ったり、メーカーの開発チームが木工のリサーチやワークショップを開催したり、海外の建築学科の学生たちが来日しサマープログラムを実施したり。個人、企業、教育機関などジャンルの垣根を超えて、これほどまでさまざまな人たちがこの飛騨を目がけてやってくることに驚かされます。

1グラム1円で広葉樹の量り売りを行う「蔵出し広葉樹」は森の循環とクリエイターと生活者をつなげるFabCafe Hidaのサービス。
『FabCafe Hida』の奥には、蔵だった場所に造られたヒダクマの木工所。

「この『FabCafe Hida』は、外からいろんな人に来てほしいというだけの場所ではないんです。もともとよそ者であった僕らヒダクマが、“はじめまして”という想いを込めて、この地域の人たちに開いた場所にしたかったというところが大きいですね。僕らはこんなことができるし、あなたはこんなことができるんですね、っていうここでの出会いがひとつずつ活動に繋がっているんです」と語るのは、ヒダクマ代表の岩岡孝太郎さん。

ものづくりの拠点という範疇を越え、飛騨という環境とヒダクマの活動に共鳴しているからこそ人々が集まってくるのだということを、ここを訪れると実感します。

「森は木材ではない」。その価値を知るということ

家具や空間のプロデュースや制作、商品やサービスの企画開発、合宿や研修といった滞在体験の設計・運営など、ヒダクマの活動は多岐に渡ります。そのすべての中心は「森」とそこで暮らす「人」の営み。ヒダクマのことを知るにはまず、その活動の原点を確かめるべき、と彼らと森を訪れました。

「森ってものすごく、自然そのものじゃないですか。多くの人たちがその森の価値に賛同するようになるためには、森の楽しみ方や、森から受けている恩恵、いかに僕たちの暮らしの安全が森によって守られているかといったことを少しでも知ることなんですよね。”森にはこれだけの利用価値がある”ということを感じ、いろんなことを発見するために僕らは山に入っています」と岩岡さん。

今回訪れたのは、ヒダクマの社有林とは別の森。山主である岡田さんが自ら木を切り道を作り、森を育てている。ヒダクマによるサウナの構想もあるのだとか。

飛騨の森は7割が広葉樹。高度経済成長に伴う輸入材の増加、戦後植林された針葉樹の人工林の間伐や利用に向けた取り組みの促進など、さまざまな要因により国内の広葉樹林の使用は低下。深刻な管理者不足もあり、後退する森が増加するという歴史を重ねてきました。現在、広葉樹の利用先はそのほとんどが木材チップであり、家具など製材として使われるものはたったの4%。それは、飛騨だけではなく国内の広葉樹林が抱える課題です。

ヒダクマ代表の岩岡さん(左)と山主の岡田さん(右)
立派な巨大ナメコなど天然の食用キノコもたくさん生えている。

「森は木材ではない」

ヒダクマは活動理念にこの言葉を強く掲げています。さまざまな樹種が美しい風景を織りなし、多様な野生動物が息づく広葉樹林。その行き着く先は、果たしてチップだけなのでしょうか。かつての広葉樹林は、炭や薪、肥料など人の暮らしに密着し利用されてきた、いわゆる里山林として継続的に人に管理されてきました。その時と同じ生活に戻すことは難しいかもしれないけれど、現代の知恵と技術をもって活用すれば、木や森は可能性だらけなのではないだろうか。そんな想いでヒダクマはチャレンジを続けています。

「森の価値も森を取り巻く問題も、プロダクトや場所など、僕らのアウトプットだけでは、一般の人、つまり消費者には伝わりません。だからまずは森に連れて行く、ということを僕たちは積極的に行っていて、森に行きやすいプログラムやイベントも開催しています。その結果として登山が好きになったり、友達を誘ってまた来るだけでもいい。森は木材の生産だけの場所ではないので、いろんな楽しみ方や活用の仕方があっていいということを伝えたいんです。林業だけで完結する地域ではありません。森をきっかけに、ある人はツーリズムを作ったり、ある人は教育に関わることをはじめたり、ある人はサウナを作ったり。さらにはそのかけ合わせが生まれてもおもしろいかもしれない。だから、森は木材ではないんです。林業だけでなく、その周辺も巻き込みながら森の未来を作っていけたらという想いで活動しています」

落葉の形や色もさまざま。このように多種多様な樹種があることは飛騨の森の特徴であり、供給面では課題となる。

着実に輪が広がる、飛騨の森への「想い」

「僕自身いろんな地域に行きましたが、飛騨は文化や歴史を伝承しつつも育てている、という印象がとてもあります。特に祭り(ユネスコ無形文化遺産の飛騨古川祭)がそうですね。やることは毎年同じでも”それは間違っているぞ”とか、”新しい方法はこれだ”とか意見があり、先輩方がそれをしっかり見てくれている。みなさん“想い”っていう言葉をよく使うんです。そういう気質がヒダクマの活動としての広葉樹の林業やコミュニティづくりにも反映していると感じています」と岩岡さん。飛騨に暮らす人、この地域ならではの仕組みがあるからこそ実現できることも当然ありますが、彼はもっと広い視点で捉えています。

西野製材所の西野真徳さん。飛騨の中でも数少ない広葉樹の製材所として、その多様な活用方法を模索、実践をしている。
柳木材の柳和憲さん。小径木や曲がり木などにも価値やその利用法の可能性を見出すなど、日々チャレンジを続けている。

「僕らがまったく根を張っていない森でのプロジェクトを依頼されることもありますが、どんなアウトプットでどんなプロセスを作ったら、その森に関わる地域の人たちが新しいチャレンジのために、次の一歩を踏み出せるんだろうということを考えています。”こんなこともやっていいんだ!”って気づいてもらって、その瞬間だけでなくもっと長期にわたって効果が残せるようなことを生み出したい。そんな想いで、いろんな森に入っています」

ヒダクマの思想は、この飛騨の地で少しずつ周囲の賛同を得、そして着実に実践者を増やしています。後編では昨年オープンした彼らの第二の拠点や、飛騨の街に広がる実績についてご紹介します。ヒダクマの活動の根幹を知ると、きっとよりいっそう彼の考える森の価値に気づくはずです。

INFORMATION

Company 飛騨の森でクマは踊る
Photos Kohei Yamamoto
Writing KIDZUKI

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