岐阜県飛騨市を拠点に、木や森の価値を見直し地域の人たちとともに新たな発想でチャレンジを続けている“飛騨の森でクマは踊る”、通称“ヒダクマ”。一緒に森へ入りその想いに触れ、人々との交流を体験した前編を経て、後編では、実際にヒダクマが手がけたプロジェクトの地を訪れます。彼らのアウトプットから、改めて広葉樹のおもしろさを教えてもらいました。
小さな広葉樹を大きく使う。飛騨市役所応接室のプロジェクト
森、そして広葉樹にあたらしい価値を見出したい。そう考えるのはもちろんヒダクマだけではありません。2020年、小径広葉樹の販路拡大と資源循環を目指す連携組織「飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアム」が設立され、飛騨市をはじめ、飛騨の森林組合ほか林業者や製材所、家具メーカーが参加。ヒダクマも本プロジェクトに参画し、飛騨地域全体で積極的に「広葉樹のまちづくり」を推進する活動が次第に活発になっています。大切なのは、広葉樹を起点に街や人に開く場所を作ること。2020年に完成した飛騨市役所のプロジェクトもそのひとつです。
手がけたのは飛騨市役所内の応接室。ヒダクマと矢野建築設計事務所が共同で本プロジェクトを統括し、リニューアルを計画しました。「象徴的な広葉樹の大きな面で、応接室と森とまちをつなぐ」をコンセプトに、飛騨の広葉樹の特徴でもある小径木を大きく転換することにチャレンジしました。
第二の拠点はまちづくりの拠点。『森の端オフィス』
そして、まちづくりとともに、「森林資源循環と広葉樹のポテンシャルを具現化した建築を作りたい」と、ヒダクマがずっと構想してきたことを、昨年ついに自分たちのオフィスで実現しました。『FabCafe Hida』に続く彼らの拠点。それが『森の端オフィス』です。
躯体や建具、家具、断熱材にいたるまで、すべて飛騨の広葉樹を使用し、実際に森に入って立木の状態から木を選んだといいます。西野製材所、柳木材に隣接した森の近くに位置し、森のこと、木の流通のことをリアルタイムで捉えることができ、「飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアム」が掲げる「広葉樹のまちづくり」のために地域全体でさまざまなプロジェクトを推進するための拠点として、皆のエネルギーが溢れる場所になっています。
「広葉樹で建築を作りたい。ずっとそう思っていました。でも、針葉樹の対比として作りたかったわけではありません。僕らをはじめ飛騨では、さまざまな広葉樹の利用価値を模索してきているわけですが、もっともボリュームのある木の活用法はやはり建築という分野というのが現状。だからまず、その建築という主戦場で広葉樹の価値を問いたかったのです」と、ヒダクマの代表、岩岡孝太郎さん。ほとんどがチップとなってしまい、製材されて使われるのが4%という広葉樹。価値化されていない96%の中から可能性を見出しそして実現させたこの場所には、木という「材」ではなく、「自然」がそのまま息づいており、広葉樹の未来のあらたなスタンダードを感じさせます。
木の“地産地消”。そしてその先へ
「『森の端オフィス』は飛騨だからできたのかもしれない。だから“この地でつくり、この地の人のためになる”ことが一番の価値だと思います」と岩岡さんは付け加えます。広葉樹のあたらしい価値、あたらしい未来に向き合っていくことは、同じ志を持った行政、林業関係者、地域の人たちがいたからだと考えています。
「この広葉樹の建築は、この街の中で生まれて、この街でメンテナンスされ、この街で循環していきます。木と人の手の繰り返される相互作用ができてはじめて、この地域に土着する建築であると実感し、評価されるものであってほしいと思うんです。だから、僕らの事例が他の地域でそのまま実現するかどうかはまだわかりません。木の地産地消だけではダメで、文化的なことやクリエイティブなことも取り込みながら生き続ける建築がもっと各地域の森から生まれるといいですよね」
ヒダクマが携わるプロジェクトは飛騨だけでなく、各地で行われています。それを知り、見て、体験することを通して、今自分のいる場所で自分には何ができるか、何が大切かを考えていくことがあたらしい一歩かもしれません。突然何かを変えることは難しい。でもまずは、「彼らと一緒に森に行ってみよう」。