チーム ティンバライズが目指す多様な木造建築の街並み - KIDZUKI
Category木と作る
2024.04.08

チーム ティンバライズが目指す
多様な木造建築の街並み

2000年の建築基準法改正で木造の耐火建築が建設可能となり、木造建築の可能性は大きく広がりました。これまで3階建ての住宅までを想定してきた木造市場は、中高層建築の実現に目を向け始めます。もちろんそのためには耐火性能を担保する技術開発が欠かせません。そうした背景から2001年に、中高層木造建築、耐火木造建築の可能性を模索する有志の研究会が立ち上がりました。それを母体とするのが、2008年に設立されたNPO団体、team TIMBERIZE(チーム ティンバライズ・以下ティンバライズ)。「木」を新しい材料として捉え、木、建築、都市の近未来像を技術的な裏付けとともに描いています。

建築の側から自主的に働きかけることのできるチャンス

「建築は依頼があってはじめて作られるものですが、それを建築の側から自主的に働きかけることのできるチャンスだと感じたのです。東京のような都市でも木造の街を作れるようになったのだから作ってみませんかと問いかけたい。面白いことをやろうという動機から、最初の研究会がたちあがりました」と、設立時に理事長を務め、現在は理事の一人である腰原幹雄さんは振り返ります。さまざまなプロの視点が集まるティンバライズでは、法解釈、構造や防耐火の技術的な検証を重ねてきました。具体的な計画によって検証すべき要素も浮き彫りとなり、2013年に木質の建築『下馬の集合住宅』(東京都世田谷区)を実現。こうして木質のビルという建築は夢物語から現実へと変わりました。

『下馬の集合住宅』 1階部分(商空間)は2時間耐火のRC造、2〜5階(住空間)は1時間耐火の木造。火災時の崩壊防止を担う部材(柱・床・屋根・壁)を被覆し、地震時の水平力による崩壊防止を担う部材(斜め格子)を無被覆として、木を現しにした一般被覆型の耐火木造を実現。(設計:小杉栄次郎、内海彩/KUS + team Timberize 撮影:淺川敏)

「これまで世の中になかったものを作り上げることで、新しい価値を生み出そうという意識も高まります。とはいえ当初は歩みもゆっくりで数年に一度実現できるという間隔でした」と腰原さん。一方で、初作の完成で世の中が劇的に変わるのではないかという期待は外れたとも振り返ります。新しい技術に注目するのは技術開発に興味をもつ人物に限られる……そこで技術を喧伝する展覧会を行い、建築関係者、林業関係者、そして一般層へ働きかけることにしました。こうしてティンバライズは技術的な検証に加え、木質化の普及という活動にも幅を広げていきます。

ティンバライズ創業時の理事長であり現在も理事の一員である腰原幹雄さん。 東京大学生産技術研究所教授、高知県立林業大学校 特別教授を務める。
ティンバライズの現理事長の安井昇さん。桜設計集団一級建築士事務所代表、早稲田大学理工学術院総合研究所招聘研究員、高知県立林業大学校特別教授を務める。

現在の理事長を務める安井昇さんは、設計が難しいと考えられがちな木造への心理的なハードルを取り除きたいといいます。

「木造と鉄骨造やRC造の両輪で都市木造を実現していきたい。木造の設計は難しいと言われますが、だからこそ特化型の技術よりも普及型の技術に目を向け、木造の普遍的なあり方を提案しています。建物から街並みへ。単独ではなく木質化されたビルが建ち並ぶことで風景は変わります。だからこそビル作りに関わる幅広い人々の意識に訴えたいのです。林業や加工の視点から木質化を目指す団体など、同じ志をもつ他の団体とも共同イベントを開催していますし、特に若い世代に木造の価値観を変えてほしいとセミナーの開催にも力をいれています。施主、林業従事者、建築関係者が楽しみながら都市の木質化を進めて行く未来を目指したい」

広い視点をもって木造と捉えていきたい

ビルと呼べる規模の木の建築が普通に建っている風景から伝える、木造の新しい価値観。それは、彼らの手によって東京でいち早く実現されました。スタジオ・クハラ・ヤギ+ティンバライズの設計による『国分寺フレーバーライフ社本社ビル』(東京都国分寺市)は、国内初の7階建の耐火木造ビルです。「木質ハイブリッド集成材」というすでに存在する木造耐火部材の特徴をフルに活用するために、1〜3階を鉄骨造、4〜7階を木質ハイブリッド造という構成をスタジオ・クハラ・ヤギが考案し、ティンバライズは木造における構造的・耐火的知見を提供しています。この建物の特徴は、柱や梁に鉄骨を使い、それを木で被覆することで耐火性能を持たせていることにあります。そしてすでに開発済の技術を改良することで、誰でもどこでも木造ビルを建てやすくなるような普及型のモデルを目指したのです。

フレーバーライフ社の本社ビル外観。同社は、精油、アロマテラピー関連商品の企画製造販売などを行う企業で、1Fの直営店舗やオフィスなどからなる施設として計画された。

腰原さんは、「構造的には鉄骨造ですが、少し広い視点から木造と捉えることができるのではないか」と話します。鉄骨は熱で変形するため、火災発生時にそれを防ぐ耐火被覆ボードで覆うことが一般的。これを木に置き換えたのが4〜7階に採用された木質ハイブリッド造です。木は燃えても内部に熱を伝えにくく、水蒸気が発生するため、木で被覆された鉄は健全に保たれます。燃焼が進むと木の熱を鉄骨が適度に吸収し、燃焼も鉄骨へ到達する前に止まるという仕組みです。

耐火建築では、通常の火災で火熱が一時間加えられた場合においても倒壊を防ぐ1時間耐火が求められます。『国分寺フレーバーライフ社本社ビル』ではカラマツの集成材を採用し、耐火性能を検証する実験では1時間半にわたる耐火性能という結果を残しました。また、低層階は鉄骨造であることから被覆材に求められる条件も異なり、境界部分の耐火性能はコンクリートスラブのコンクリート厚を調整することなどで法が求める数値以上の仕様に変更をしています。エッセンシャルオイルの製造や製品管理などの高い安全性が求められる機能を低層階に配置しました。

そして、上層階はガラスカーテンウオール越しに木質フレームが見えるようにし、下層階では外装に地元の東京多摩産材の杉ルーバーを取り付けるといったシンプルなファサードデザインを意識。技術だけでなくデザイン面においても普及型モデルを目指していることもまた、彼らの手がける木造ハイブリッドビルにおいて欠くことはできません。

元来無骨な表情をもつ構造に仕上げ材を用いず、被覆材そのものが人の目に見えて気持ちのいい木とすることは大きなメリットと言えるでしょう。ここでは主要な構造に木を使うことから、1階店舗の内装を除いて柱梁以外は特に木質化をしていません。もともとクライアントはその事業の性質から自然素材への関心が高く、木造でビルを建てられないかと考えていたといいます。さまざまな人へと相談するうちにティンバライズへ繋がりました。

2023年に竣工したばかりの『江北小路』(東京都足立区 / 施工:三菱地所ホーム株式会社)は、東京都が進める防災事業の一環としてコミュニティを維持しつつ木密地域からの移転を促す事業として計画された共同住宅です。こちらもスタジオ・クハラ・ヤギ+ティンバライスの設計によるもので、木造・木質の準耐火構造3階建ての1階にテナントスペース、2〜3階に多世代向けの住宅16戸をもちます。1階には周辺の外部環境と連続する中庭を設け、共用部分をそこに集約することで住民同士の交流を促します。ここでは汎用性と自由度の高い1階テナントスペースを実現するために、カラマツ集成材厚板パネルの壁、スラブ、鉄骨逆梁からなる新しい木造の構法であるFMT構法を採用し、柱や壁の少ない空間を実現しました。一方で住戸が並ぶ2〜3階は在来軸組工法にカラマツCLTパネルのスラブを組み合わせています。外壁は東京都多摩産のスギ材を使用。空間の質に合わせ、木造の多様な表現を織り込んだ計画といえるでしょう。

またここでは既存のコミュニティを継承するという課題もあり、コミュニケーションを誘発する共用空間のほか、玄関扉を半透明のガラス戸にするなどで互いの気配を感じながら見守り合う空間を目指しました。スタジオ・クハラ・ヤギの八木敦司さんは「本計画地は東京の郊外にある住宅地でありビルディングタイプもさまざま。地域の方々が集まってくるような魅力ある拠点を意識しました」といいます。一方でティンバライズのメンバーであり、これまで都内で3棟の耐火木造共同住宅の設計を手がけてきた内海彩さんは「木は人間の時間軸に近い感覚で変化していくという点が、実は大事なことではないかと考えています。その変化に私たちの記憶が刻み込まれていき、町の記憶が刻み込まれていく。そのように都市の中で時間が積層していく素材で造られた場所や建物があることが、人々の拠り所になっていくことへ期待をしています」と言葉をつなぎます。

木造建築の「楽しさ」とは?

木造建築には「楽しさ」がある。安井さんと同じく、ティンバライズ副理事長を務める山田敏博さん、そして理事の一員である久原裕さんとも対話を重ねます。

「住宅は木造、非住宅のビルは鉄骨造やコンクリート造でつくることが常識とされてきた価値観を崩したい。いろいろなビルディングタイプで、木造の可能性を検証しています。いまという時代にこそ生まれる木造の街の風景を目指したいですね」と山田さんはいいます。かつて日本の風景を作りだした木が現在の技術で再び街づくりに使えるようになったいま、世界のどこの都市とも違う風景が作れるのではないかと構想しています。さらに久原さん、安井さんも、木という素材の面白さについて続けます。

「鉄とコンクリートだけの街並みではなく、木造も混じり合った街の風景に面白さを感じませんか。街並みを構成する素材が、人々に身近な素材である木材となることで都市への親近感も湧いてくると思います。それはまた街が自分のものであるという意識を人々に抱かせ、ひいては市民が街づくりに参加できるという意識をも生みだしていくはずです。木造は竣工時から成長の過程を見据え、発展の余地を残して計画することができます。僕らの興味はそこにあるといっていい。木材は素人でも加工が容易で、後から追加で手を加えることもできる素材。建築はものづくりでありながら、同時にそこでことを起こすことづくりでもあります。グローバリズムで世界の都市が画一化、均質化するなか、日本のオリジナリティを木で表現することができるのではと思っています」(久原)

「日本では小学校から衣食を学ぶけれど、住を学ぶ教育が行き届いているとはいえない。だから人々のなかに『この空間が気持ちいい』と言語化するような住空間に対する主観が育たないのではないかと思う。だからこそ木質化された建物は、その接点という大きな役割もあるのではないでしょうか」(安井)

ティンバライズは最近、とある団地の集会所の建て直しとともに、そこに植わっていた樹木で本棚を制作する子ども向けのワークショップを行いました。こうした体験は自分の住む場への関わりを生み、親近感をもたらすきっかけとなるでしょう。設立当初は想定しなかった活動も増え、人々が街へ主観的に参加する活動をもっと増やしていきたいと意気込みます。

「住宅にいろいろな選択肢があることを知れば、人々はもっと主観的に楽しい空間を求めるようになります。もちろんそのなかに木造を求めない人がいてもいい。木は誰でも受け入れやすい素材。だからこそ建物や町に興味を持つきっかけとして非常にいい存在です。誰もが、自身の、建物の、都市の価値観を持てば、いろいろな建物ができて街ももっと楽しくなるでしょう」と安井さんは木材の楽しさをさらに強調します。

「団地の木でつくろう!みんなのDIYワークショップ」。スタジオ・クハラ・ヤギ+ティンバライズの設計による横浜市の洋光台南第一住宅(築50年の団地)内の木造の集会所(2021年3月に竣工)。ティンバライズでは、この集会所を建設するために伐採した敷地内の木で団地の子どもたちと一緒に本棚とブックスタンド、マグネットを制作するワークショップを企画・運営した。(写真提供:team TIMBERIZE)

そこに腰原さんは、一言で木造といっても、人によって思い浮かべる構法は違うのが現実だと指摘し、さらに木の多様な可能性を探っていくことこそがティンバライズのスタンスだと続けます。一方で近年の木質化普及のなか、問題解決の手段としての木材活用がことさら強く打ち出されている現状には疑問を呈します。

「伝統的な木造工法は木をうまく活用することにこそ、その存在意義があります。その精神はいまも変わらない。たとえば山にとっておきの木があるなら、それを長く愛される魅力的な建築に用いることで地域のシンボルとなる建築を作ろうというのが素直な考えではないでしょうか。未来の文化財たりうる木造建築を実現しようと考えたい」

材としての木には、集成材、CLT、小径木、大径木など、それぞれの材にそれぞれの利点があり、それらを適材適所に用い、時に組み合わせて使おう。だからこそティンバライズは名称にティンバーを冠したとのこと。人の手で加工された木という意味合いを持つティンバーには、「人の手を加えた自然界の材料を建築に使おうという活動。手を加えることで新たな需要を生み出すことが大切で、その木はどんなものでもいいし、どんな手の加え方でもいい。新しい時代のニーズに応える使い方こそが大切なのです」との思いが込められました。いまティンバライズの会員にはさまざまなバックグラウンドをもつ人物がいます。建築を、都市を、そして文化を次なる時代へと繋げる材として、彼らは木のさらなる未来を橋渡しする活動をこれからも続けていくことでしょう。

INFORMATION

Company team TIMBERIZE
Photos Kohei Yamamoto
Writing Yoshinao Yamada

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