連載『トラフと森へ』 第2回 「森のサウナ」 - KIDZUKI

トラフと森へ。連載第2回は、鈴野さんと一緒に徳島県神山町にある「森のサウナ」を訪ねました。 木は、森は、なぜ心地よいのだろうか? 人間はなぜ木にポジティブな感情を抱くのだろうか? 木の原初的な魅力に気づくための「木トリップ」は、鈴野さんがかねてより待望していたベストロケーションサウナ。 あくまで写真でしか見たことのなかったこの「森のサウナ」の本当の魅力。 それは、サウナの向こうにある、人と森の循環のストーリーでした。

北欧や東欧のサウナを訪ね歩き、森とサウナの関係性を探る旅へ

徳島県神山町。先進的なチャレンジを行う「限界集落」として、この町の名を一度は耳にした方も多いかもしれない。神山に移住した多くのエンジニアやクリエーター、起業家らと同様。この町の魅力に取り憑かれ、約10年ほど前に移り住んだひとりが「森のサウナ」のオーナーである齊藤郁子さん。一組限定で運営される宿のオーナーであり、神山の森づくりにも積極的に関わる活動家としての顔も。朝早く宿を出発し、KIDZUKI取材班のレンタカーをバイク(スーパーカブ)で5分ほど先導してくれたその先に、美しい森が見えてきました。

齊藤郁子(以降SI):「この森は間伐してから8年経っているので、すでに良い感じに中低木が生えてきています。森に入り始めた当初はまずは道作りから。今歩いているこの山道も当時は倒木と竹だらけで。最初に竹を400本切って、燃やすところから始めたんですよ。……ほら、向こうに少しサウナが見えてきましたよ」

鈴野浩一(以降SK):「あ、本当だ。見えてきました。この手前にある沢を水風呂にするんですか?」

SI:「はい、今見えているのが第一水風呂です。その少し高いところにあるのが第二水風呂(笑)。さらにもっと上流にある第三水風呂と呼んでいる場所もあって、少しワイルドですが最高の水風呂ですよ」

SK:「滝に打たれたら気持ちよさそうだなぁ。こういった水源も管理されているんですか?」

SI:「はい、当初はいまほど水の流れも活発ではなくて、時間をかけて倒木を片付けたり弱った木を伐採したり、面倒を見ることでこの状態に。途中、水が枯れたこともあったり、とても苦労しました。私はここで水浴びをしながら、喉が乾いたらそのまま水を飲んじゃいます。それほど綺麗な湧き水ですよ。あとでロウリュ用に天然水を汲みに戻りましょう」

森に湧き水を引いてくることも森づくりを開始した当初の齊藤さんの仕事だった。時間をかけて、ゆっくりと森の手入れをすることで、勢いのある水流と豊かな沢で構成される水資源を獲得することができた。サウナの周囲の湧き水を汲み、農園や庭で育てたフェンネル、レモンバーム、アップルミントなどを加えたロウリュを味える。また、サウナには欠かせないヴィヒタも周辺の植物(センリョウやナンテン、チャノキ等)を採って、その場で用意する。

SK:「サウナを作ろうと考えたときに、ヨーロッパにある森のサウナを訪ね歩かれたとお聞きしました」

SI:「はい。まずは2014年にフィンランドへ。そしてそのあとバルト三国を訪れて森とサウナの関係性や、サウナの楽しみ方を体験しながら、イメージを固めていきました。すごく楽しい旅でした」

SK:「そもそもなぜサウナを作ろうと考えられたんですか?」

SI:「森の再生に取り組んでいくと、必然的に間伐材が大量に生まれます。それらを町に運んで木材として使用するのですが、それだけでなくこの森のなかで消費することが理想だと考えはじめました。サウナのために人が森に入り、薪を割り、それを燃やして暖を採り、灰をまた森に還す。そうすることで、土壌を活性化し、次の循環が森に生まれてきます」

自らの手で小さな循環をつくり、足元をしっかりと未来へつなぐ

SK:「郁子さんは、元々は東京で働いていたんですよね? なぜ神山に移住されたんですか?」

SI:「はい、会社員です。某IT企業のEC部門に勤めていました。今では信じられないかもしれないですが、頑張ってお金を稼いで、都会にたくさんある洗練された選択肢のなかから、旅行や食などでいっぱいお金を使う。かなりの浪費家でした。そんなときに世界一周旅行をするようなアウトドア仲間が神山に移住するという連絡を受けて、初めてここを訪れたのが2003年でした」

SI:「そこで、神山の自然に会い、地元の楽しい人々に出会い、何度も通うお気に入りの場所になっていきました。とは言いつつも、私は大きなシステムの一部として、都会の暮らしを続けながら過ごしていたのですが……。2011年に東日本大震災という転機が訪れました。さまざまな社会不安が広がるなか、社会を批判するのではなく、小さくても持続可能なモデルを作り出そう。そう思い、以前から気になっていた神山への移住を決めました」

SK:「それで拠点となる建物を改装されて、レストランを始められたんですね?」

SI:「東京で意気投合したシェフの長谷川と一緒に。元造り酒屋の物件を紹介してもらって、最初は東京と神山を行ったり来たりしながら改装していきました。こちらに来たときは、工事中の物件にテントを張って暮らしました」


齊藤郁子/株式会社オニヴァ 代表取締役。大阪府出身。10年前に神山町へ移住。元造り酒屋を改装し”カフェ オニヴァ”を開業。スタッフ一同で訪ねた生産者のオーガニックワインを提供。持続可能なライフスタイルの模索のため、年間160日のみ営業し、山林や耕作放棄地の手入れを行い、間伐材で、暖房/給湯/一部の調理を行う。2020年からは一組限定の宿”B&Bオニヴァ& Experience”へと経営を転換し、木育体験のできるオニヴァ農園を展開中。

SK:「そうして始めたレストランもかなりチャレンジングな運営方針だったそうですね」

SI:「当時この商店街には飲食店が一軒もなかったんです。オープンすると、たくさんの方が来てくれるようになり、嬉しくて最初の数年はしゃかりきになって、忙しく働いたんですが。東京モードで。でも次第に、私達は神山の人のようになるためにどうすれば良いか、とみんなで話し合うようになったんです。そこで出た結論が、時間が足りない、でした。そこで少しずつレストランの営業日数を減らしていきました。最終的には年間160日、夜だけの営業に落ち着きました。。今は一組限定の宿になり、その宿泊客のためだけにお料理を提供しています。売上は減りましたが、逆に効率は上がりました。何よりもお客さんとしっかり対話できたり、好きな食材やワインに気づけたり。またスタッフ個人でのプロジェクト活動もできるようになった。そうやって時間を取り戻してみると、今まで見えてこなかった大事なことに気づき始めたんです」

SK:「森づくりもそのうちのひとつですか? この森は最初から所有されていたんですか?」

SI:「レストランの物件を購入する基本条件が、森もセットで、という条件でしたので。元造り酒屋の建物と、森と軽トラックが3点セットでした」

SK:「それもまたユニークですね。でも理にかなってるような感覚もあります」

森と対立する経験を経て、観察し、ゆっくりと共生する関係に

2019年に完成した「森のサウナ」。北欧や東欧を旅することで、森とサウナが共存する現地の文化を直接体験した齊藤さん。セルフビルドで作り上げられた木造のサウナ小屋は、その周囲に急峻な崖とそれを伝って流れる沢がある。沢の溜りはサウナで暖まった体を冷ます水風呂としてちょうどよい深さがある。

SI:「とにかく最初は森と対立しましたね。たくさんの人に手伝ってもらって一気に伐採しようとして。今日は何本伐るとか、何平米伐り拓くぞみたいなことを目標に掲げて。で、伐ったと思ったら植林をして……。そうなるともう喧嘩だから、向こう(森)もそれだったら草で覆い尽くしてやる、と次に来ると2mくらいの草で覆われていたりして。絶望感にかられました。そうやって、やらかしまくって学んでいった経験を経て……。ある時から森を観察しながら、関係性を保ちながら穏やかに伐るようになった。そうすることで邪魔にならない穏やかな草しか生えなくなりました。適度に草が生えることによって、砂が流れなくなった。弱った木を見極めて適度に間伐して、森に光を当てると、植林しなくても木が生えるようになった。大切なのはとにかく待つことだったんですね」

SK:「先ほど聞いた時間の話に行き着きますね」

SI:「なんだか森に申し訳ないことをした思いです。みんなに時間がないのが、今の貧しさだと思います。人はたかが100年くらいしか生きられないけど、木には2000年生きるものもある。だから植物との関係性をしっかりと結び直す必要性を感じるんです。私たちもその一部になって再生しはじめた森には、フクロウの親子が住みついたり、野鴨やアナグマも住み始めました」

SK:「目先だけの利益や、自己顕示欲から、もっと大切なものに目を向ける必要があるんですね。こうして森のサウナを全身で体験することで、自然のスケールと人間のスケールのすり合わせができますね」

SI:「都会生活者の多くは、時間をお金に換えてきました。当然ながらお金は使ったら無くなる資産です。私が神山で見つけた資産は、もっとクリエイティビティに溢れていました。コミュニティ、筋力、知恵、技術、土の力……。これらは使ったら増える資産です。豊かに増えていく、そしてシェアが出来るんです」

SK:「お金といえばレストランでは薪通貨っていう制度もあったようですが、とてもユニークですね」

SI:「薪は床暖房や給湯、薪料理の燃料にするために使っています。いまでは私が薪を提供する側になったので取りやめたのですが、ひと抱えの薪をエスプレッソ一杯と交換できる仕組みでした。神山は林業で栄えていった町です。薪をもってくると、薪だけではなく、その人の森の話を一緒に聞けるようになりました。単なる物々交換ではなく、知恵や技術も一緒にシェアしてもらえたんです」

SK:「持っているものを誰かと奪い合うのではなく、分け与えるような風土って素敵ですね」

SI:「最近、もっと画期的にライフスタイルが変わるといいな、と考えています。みんなが森を持てるような社会です。結局人は、山の資源を交換していけば生きていけるはずっていうのがだんだんと分かってきて。最近増えてきた二拠点生活も、人のいるところと森の二拠点を住処にすれば理に適っていると思います。都市部に住んでいても、森や水源を守っているようなスタイル。そうすることで、不安と消費を客観視できるようなスタンスが取れるようになると思うんです」

SK:「すごく共感します。片方に森がある生活があると想像しただけで、それだけで安心感が湧いてきます。ところで、人は木や森に包まれるだけでなぜ居心地が良いと感じるんでしょう?」

SI:「この惑星に動物が生まれるずっと前から植物は存在しているので、植物は私たちの大先輩です。私たち動物の生命を包み込んでくれている植物への感謝の気持ちが、心地よさやポジティブな感情となって現れてくるのではないかと私は思っています」

SK:「なるほど。そもそも木や森の積み上げてきてる時間が圧倒的に違う、と。しかも、人間は向く方向を間違えてしまっていて、本当に大切なことに時間や意識を注げていない。もっと森に入って、ゆっくりとライフスタイルを見つめ直さないといけませんね」

SI:「時間が足りないから、国内にはこんなに食材が溢れていることにも気づけていない。そして、みんなが美味しいもの食べていない。もっと生命力豊かな食材を食べてほしいという思いから、昨年から別の森に約3ha(ヘクタール)の農園も始めることにしました。田んぼを始めて、肥料も動物の糞や草や落ち葉を利用するなど、すべて敷地内にあるもので。地下エネルギーに頼ることのない自然がデザインしたやり方です。稲作以外にも茶畑、畑、養鶏、養蜂を少しずつ始めています」

SK:「農園がある森にも、あたらしくサウナを作っていると聞いたんですが、本当ですか?」

SI:「森のサウナの周りの切り株が腐っていないことからヒントを得て、切り株を基礎にした、森が呼吸を止めない建築へのチャレンジです。先生に付いてもらって教えてもらいながらやっているのですが、そちらの森も重機なども入れられない地形なので、外から運び入れず、チェーンソーと斧のみでそこに生えている木を加工して建てるログハウスづくりを選びました。製材もいらず、ネジやビスも使わず、3.5m材なら二人で十分持ち上げれるし。4.5畳弱のサウナ小屋が完成予定です」

SK:「郁子さんの考え方と一緒に、次々と森づくりが広がっていく様子が目に浮かびます。次回はそちらのサウナにもお邪魔したいですね」

TORAFU NOTE

過去にプロジェクトをいくつかご一緒した徳島のBUAISOUに教えてもらった「森のサウナ」は、新建築2020年1月号で見て以来、ずっと訪れたいと思っていました。そして訪れてみて初めて知るストーリー。森を健全にしようと、光を地表に届くように間伐し、間伐した木を薪にして燃やし、灰にし、その灰を撒くことで植生が豊かになり、循環が起こる。それを促進していく起点としてサウナを考え付き、エストニアのサウナなど見て周り、セルフビルドで作り上げたという。サウナが目的ではなく、森があり、森をよくするエンジンとしてのサウナ!!  オーナーの齋藤さんの「使えば使うほど増える資産」という言葉が刺さった。東京ではお金など、使えば減るものだが、ここ神山にきて、知識や経験、筋肉、仲間など使えば使うほど増えるという。まさにそれを体現しているライフスタイル。サウナ後にそのまま、天然の川に飛び込み、ととのいました。
鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)

PEOPLE

鈴野 浩一

鈴野 浩一

Koichi Suzuno

トラフ建築設計事務所主宰、KIDZUKI クリエイティブチーム・コンセプトディレクター 。1973年神奈川県生まれ。1996年東京理科大学工学部建築学科卒業。98年横浜国立大学大学院工学部建築学専攻修士課程修了。シーラカンス K&H、Kerstin Thompson Architects(メルボルン)勤務を経て、2004年トラフ建築設計事務所を共同設立。

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INFORMATION

Artist 齊藤郁子
Photos Kouhei Yamamoto
Text KIDZUKI

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