ナノメートルアーキテクチャー “困った木”から見る木を取り巻く問題 - KIDZUKI
Category木と作る
2024.02.01

ナノメートルアーキテクチャー
“困った木”から見る木を取り巻く問題

「そもそも木は材料としてしかみていなかったんです」と語るのはナノメートルアーキテクチャーの2人。 木への向き合い方を変えたのが大湫神明神社で、災害によって倒れてしまった御神木を再生するプロジェクトでした。それがきっかけで浮かんだ“困った木”というワード。始まりの地、大湫神明神社を再訪した野中あつみさんと三谷裕樹さんに、大阪・関西万博に向けて本格始動した“困った木”プロジェクトのいまを伺いました。

2人が考える“困った木”とは?

大阪・関西万博でナノメートルアーキテクチャーが担当する「サテライトスタジオ」は、積み上げられた木の切り株たちが、円盤状の大屋根を支えるというもの。そして、そこで使われる木たちは、現代社会において行き場のなくなった“困った木”たちです。実は、万博で展開するにあたって、最初は“困った木”プロジェクトに引っかかりのようなものを感じていたと、野中さんと三谷さんは言います。

「万博といえば煌びやかで最先端の技術を見せてくれる場所というイメージがありました。昭和45年に開催された大阪万博は、まさにそういう場所だったと思うんです。丸太を積んでいる私たちの建築というのはパッと見、時代に逆行しているように映るかもしれない。原始にもどっているというか、最先端というところと噛み合わないかもしれないなと思っていたんです」

しかし、大湫神明神社のプロジェクトが成功できたのも、最新の技術で内部の状況をモデリングできたからこそですし、“困った木”プロジェクトで日本中から木を集めることができるのも輸送網が発達し、広く募集することができたのもSNSなどインターネットの恩恵があったから。さまざまな最先端を活用しているということに気付いたと言います。

「いまでは、考え方としても未来的なのかなとも思っています。今後は、木に限らず端材のようなものをどんどんリユースしていかなければいけない時代が来るはずです」

そもそも2人が考える“困った木”とはどんなものなのでしょう? “困った木”というと、木がもたらしたなんらかの事情によって、困ったことになっている。そんな風に捉えがちかもしれませんが、実際にプロジェクトを進めてみて2人が感じたのは「実は困っているのは人ではないのだ」ということ。本来だったら今も大地に根を張っていたかもしれない。あるいは建材や家具になっていたかもしれない。でも、さまざまな(人間側の)事情から、行き場のない木がたくさんあるということに気付いていったそうです。

「困るという字を見てみても、中に木が閉じ込められていますよね。捉えかたによっては人工的ななにかに囲まれて行き場を失っているようにも見えてくる」

それを踏まえた上で“困った木”を自分たちの中で再定義していきます。その過程で“困った木”とは、いずれも人間が作り出したシステムが原因となっているものばかりだったのです。

“困った木”ではなく、実は“木が困って”いる?

1年ほど実際に“困った木”を集めてみて「これは困ってる、こっちは困っていない」という指標のようなものが2人の中でも出来てきました。

「例えば、“困った木”を集めていると、値段を付けて譲ろうとしてくれる方もいらっしゃいます。それは当然と言えば当然なんですが、そうなると私たちからみると困っていないんです。それは商品として売れるものなので、価値がある。困ってないんです」

“困った木”として話が多く来るのは、高層マンションを建設するから切られる木、道路の拡幅によって切られる木など、本来は町の中に自然を感じられるようにと人間の手によって植えられた木たちです。もともとは人間が欲しくて植えたはずなのに、あるとき突然邪魔だと言われてしまう。

「一見、人間が困ったから切っているように見えますが、よく考えてみれば人間の都合によって、木が振り回されています。困っているのは木です。それと同時に同じ木でもフェーズによって“困った木”かそうでないかが変わってくるということにも気付きました。例えば街路樹が倒れた瞬間は“困った木”です。でも、そういった街路樹はすぐさま撤去されてチップ化されるということを知りました。そうやってチップ化されてしまえば、役目を持っているので困っていないんです」

困った木なのか、そうでないかは、その木の現在の立ち位置が重要になってくるということが分かってきました。だからこそストーリーが大切になってくると2人は言います。プロジェクトを通じて、木に込められた物語を丁寧に拾い上げていくことを大切にしているのです。

「例えば、戦後のタイミングで国の方針として大量の木が植えられたんですが、国産材の需要が思ったよりも伸びなかったんです。そうなると産業として成り立たないので、手入れができず放置された結果、ただただ成長してしまった木が日本中にたくさんあります。なぜその木が困ったことになっているのか? それを深く知ることで、困っていない方向へと変えられる可能性があると感じています」

“困った木”のストーリーを集める過程で、日本の林業の窮状も知り、流通などの問題も見えてきたと言います。より深いところで木というものを知ることができてきている実感があるそうです。

“困った木”がいなくなる世界へ

ただ、当初の予想とは裏腹に、待っていてもなかなか“困った木”の情報やストーリーは寄せられなかったようです。

「“困った木”というものに該当しないと思っている人が多い印象です。もっといろんな話が来るかと思っていたんですが、はじめはぜんぜん来なくて。それで自分たちで困った木の定義を広げてホームページに掲載したり、各所に問い合わせたりしてみたら『こんなのでもいいの?』という回答がくるようになりました」

そもそも2人のプロジェクトには“困った木”を構造体にするというハードルがあります。柱、といえば真っ直ぐな1本のもの、という固定概念があるので、当然と言えば当然の話です。

「でも積み柱だから、意外と使えるんですよ。構造設計者と相談しながら丁寧に選別していけば、使えるものは結構眠っています。そんな感じで徐々に、ですね。“困った木”にすらなっていない埋もれた木がけっこうあるんです」

写真提供:ナノメートルアーキテクチャー

木は自然に還っていくものですし、チップ化されれば燃料にもなります。適材適所とは良く言ったもので、どんな木にも、本当は行き先があるということが分かってきました。

「積み柱として活用する以外にも、さまざまなアプローチの方向がきっとあるはずです。“困った木”、ということで集めていますが、目的としては人間都合でそうなってしまっている木を、困ってない状態へとフェーズを変えてあげることだと思っています」

これは、社会問題にたいするひとつのアプローチの形とも言えます。万博で2人が作る積み柱というものが、新しい構造体として成り立つということが広く知られれば、木の使い道の幅もおのずと広がっていきます。従来の製材前提ではない木造建築の新しいカタチが生まれるかもしれません。2人が、今後よりたくさんの“困った木”を見つけ、建築という方向から、それらの行き場を見つけてあげることができ、同時にそれを発信することができれば、それこそ、この世から“困った木”がなくなる日が来るかもしれません。事実、この構想のきっかけとなった大湫神明神社の大杉も、ナノメートルアーキテクチャーをはじめ街の人々、多くの協力者の想いと実践のもと、一度倒れて困った木の状態から救われ、今は再び皆に愛され誇らしい存在となっています。日本各地の“困った木”たちが集まって、立派な柱になったとき、ちょっとだけ世界の仕組みが変わる。そんな期待感が、このプロジェクトにはあります。

今後は、それぞれの“困った木”たちが語るさまざまなストーリーをご紹介していきたいと考えています。それを知ることで、少しでも多くの“困った木”を困っていない木へ。2人のプロジェクトは万博で終わりではなく、当初の予想よりも遠大なものになっていきそうです。

大阪・関西万博の建築プランや大湫神社プロジェクトについてのインタビューはこちら

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nanometer architecture

野中あつみと三谷裕樹が2016年に設立した建築設計事務所。名古屋市に拠点を構える。主な作品に、リニモテラス公益施設、茶山台団地のリノベーションなど。現在、大阪・関西万博サテライトスタジオ、SOUPタウンプロジェクトなどが進行中。

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Architect nanometer architecture
Photos momoko japan
Writing Takashi Sakurai

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