鈴野浩一とカリモクが見出す魚梁瀬杉の価値 - KIDZUKI
Category木と作る
2024.03.22

鈴野浩一とカリモクが見出す
魚梁瀬杉の価値

天然魚梁瀬杉発掘プロジェクトに参加するもうひとりのクリエイター、トラフ建築設計事務所の建築家でありKIDZUKIのコンセプトディレクターである鈴野浩一さんのプロジェクトもはじまりました。それは彼が設計する施設の一部に、魚梁瀬杉で作ったプロダクトを設置するという計画。制作を担う日本を代表する家具メーカー〈カリモク家具〉とともに馬路村を訪れ、魚梁瀬杉の未来を構想します。

家具づくりの視点から捉える木

2024年1月。プロジェクトチームは再び高知県・馬路村へ。同月個展にて魚梁瀬杉で制作した作品を発表した高橋成樹さんに続き、鈴野浩一さんの制作もいよいよはじまります。魚梁瀬杉の在庫を前に、プランの検証と材料となる魚梁瀬杉の選定を、制作を協働するカリモク家具の代表取締役副社長の加藤洋さんとともにおこなうことが今回の訪問の目的です。

初めて馬路村を訪れた加藤さん。到着後まずは天然魚梁瀬杉が自生する千本山へ。現在は保護林となった樹齢150年以上もの天然魚梁瀬杉と初めて対面しました。

「木の視察は日本各地でおこなっていますが、普段訪れるのは広葉樹の森ばかりです。このような真っすぐで巨大な天然のスギは北米やヨーロッパでしかみたことありませんでした」

そしてこの壮大な天然林を前に、これからはじまるプロジェクトはもちろん、家具づくりにおいてほんとうに大切なことは何か、想いを巡らせます。

「とても立派な素材ですよね。でも家具づくりをする人にとって良い材が、立派な素材かというと必ずしもイコールでは結びつきません。こういった天然林がそびえる山に来ると、人間の都合で考えることがおこがましいと思ってしまいます。天然の魚梁瀬杉が保護の対象となっているいま、在庫分の天然魚梁瀬杉だけでなく、これから育っていく人工林とも一緒につくり続けられるようなシナリオを描かなければいけない、と思っています」

構想から実現へ

鈴野さんが計画しているのは、今年5月に東京に完成するアウトドアブランド〈ARC’TERYX (アークテリクス)〉のクリエーションセンターの屋上スペースに設置するベンチです。魚梁瀬杉の存在感がダイレクトに伝わる象徴的なデザインが、ここで働く人たちの憩いの場となるのです。

初期に提案しカリモクと制作を検証していたプラン
魚梁瀬杉と出会い提案したプラン
ブラッシュアップを続け決まった最終プラン。シャープでありながら、魚梁瀬杉の風合い、存在感も引き立つデザインに。

「最初は、綺麗に製材された集成材を使用して屋上ベンチを考えていました。しかし、天然の魚梁瀬杉に出会い、その迫力ある美しい輪切りの木をリング状に並べ、浮かせるように固定して皆が集えるベンチを作るプランに変更し提案をし直しました」と鈴野さんは魚梁瀬杉との出会いからプランを変更。しかし、最初の案はクライアントから却下されてしまったのだそう。

「輪切りの魚梁瀬杉のそれぞれの形は保ちながら厚さを揃え、数珠繋ぎのように配置した案を提案したのですが、”自然の形が強すぎる”という理由でクライアントからは却下されてしまいました。それで次に内径を綺麗な正円でカットした案を提案し、採用されました。この方法では、正円の人工的なシャープなラインが自然の有機的なカーブを引き立て、個々の木が一体化したような大きな木のように見える効果が生まれると考えました」

このプランに使用するのは、すべて輪切り状の魚梁瀬杉。厚さを120mmに揃え、サークル状に12枚をレイアウトする構想です。倉庫内で図面をもとに検証し続ける鈴野さんと加藤さん。”厚みを均一にするための加工がカリモク設備でできるかどうか”、”塗装をどうするか”、”魚梁瀬杉1枚1枚の個性を活かしながらも美しい正円にレイアウトしたい”など、さまざまな対話を重ねながら、木を選定していきます。

魚梁瀬を、人が集まる場所の中心に

長年倉庫の奥の奥に眠っていた魚梁瀬杉が次々に運び出され、10数枚の輪切り状の材が10年以上ぶりに倉庫の外へ。その後森林組合の土場まで運び出し、チーム総出でこの日のうちにレイアウトの検証までが実施されました。

こうして、図面の上ではなかなかイメージを掴みづらかった今回のプランは、たった一日でリアルなスケールで目の前に現れ、一同圧倒された様子。そしてここから魚梁瀬杉はカリモクの工場へと運ばれ、精密な加工制作作業がはじまります。現状は荒々しくダイナミックな木の塊が、完成に向けてどのように洗練されていくのか。実際に腰をおろしながら鈴野さんは期待を膨らませます。

「今回のプロジェクトでは、カリモクが本来得意とする集成材ではなく、大きな無垢材での加工となるため機械に入らないことや、全部手作業になり膨大な時間がかかるから難しいであろうということなど、現場で加藤さんから聞いて実は不安になっていたんです。しかし、すぐに対応可能との連絡を受け、安心しています。普段の仕事とは異なるこの大木も、楽しんでいただけているようです。加工した魚梁瀬杉をカリモクの工場で確認する日が楽しみです」

同プロジェクトに参加する高橋成樹さんも現場にかけつけた。

これまで幾多のデザイン、家具制作をおこなってきた鈴野さんとカリモク家具ですが、この魚梁瀬杉との出会いをきっかけに、彼らにとってまた新たな挑戦がはじまりました。次回一同は、カリモク家具の工場へ。いよいよ制作プロセスへと続きます。

天然魚梁瀬杉 発掘プロジェクト
プロジェクト概要および関連記事はこちら

PEOPLE

鈴野 浩一

鈴野 浩一

Koichi Suzuno

トラフ建築設計事務所主宰、KIDZUKI クリエイティブチーム・コンセプトディレクター 。1973年神奈川県生まれ。1996年東京理科大学工学部建築学科卒業。98年横浜国立大学大学院工学部建築学専攻修士課程修了。シーラカンス K&H、Kerstin Thompson Architects(メルボルン)勤務を経て、2004年トラフ建築設計事務所を共同設立。

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Photos Kohei Yamamoto
Writing KIDZUKI

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