製材所ドキュメント 四万十ヒノキをつなぐ、ということ - KIDZUKI
Category木を知る
2022.08.31

製材所ドキュメント

四万十ヒノキをつなぐ、ということ

高知県四万十市。美しく雄大な四万十川が流れるこのエリアは、その地形や気候からその代名詞とされる「四万十ヒノキ」を中心とした林業が栄えることで、山を、暮らしを潤してきました。しかし平成の約30年間でその状況は一変。1軒の製材所が直面している様々な課題と「木の本質」という原点にあらためて立ち返ることによるあたらしい希望。もしかしたら、日本の木の未来がここに凝縮されているのかもしれません。

「製材所」は今、さまざまな課題に直面している

四万十ヒノキは、うっすらピンクがかった色合いと、爽やかな香りが特徴。四万十川流域でのみ育つ、日本を代表する良質なヒノキのひとつです。そんな四万十ヒノキに限らず、すべての木が木材として流通するための重要な工程に「製材」があります。伐採した木を角材や板材に加工したり、丸太や原木を切削加工して寸法を調整する工程で、それを行う場所は「製材所」と呼ばれます。KIDZUKIでは高知県四万十市で昭和から製材所を営む佐竹木材にドキュメント取材。あまり注目をされること自体が多くはない製材所という存在ですが、林業にとって必要不可欠なプレーヤー。そんな製材所だからこそ、林業の隆盛をつぶさに観察してきたとも言えます。林業にとって困難を極めたという平成の約30年を超え、令和を迎えた現代に佐竹木材が考える「木」の未来とは? 四万十ヒノキを後世につなぐ、その先にあるものとは何でしょうか?

ヒノキという材の特徴は、色などの見た目にも現れるように油分をしっかりと含んでいること。どっしりと重たいが、その分丈夫な材である
高知県四万十市にある製材所、1976年創業の佐竹木材
佐竹木材の3代目、専務取締役の佐竹翼さん

「製材に限らずですけど、ここ四万十エリアの林業が抱える一番の課題はなんと言っても後継者問題です。現在6件ある製材所のなかでも、跡取りがいるのがうち(佐竹木材)を含めて2件しかない。息子さんはいるけど、製材という仕事は不景気だから、と継がずに公務員になったりね。こうして産業自体が小さくなってしまうと、それに伴って製材に使われる専用機械の在庫や部品のスペア不足なども相まって、あらゆる価格が高騰してきている。機械屋さんもなり手が少なくて、迅速に修理もできなくなっている。製材所だけでなく、その周辺産業も含めて高齢化が進んでいるんです」

「経営が安定しないから代替わりができないんだ、という負のスパイラルに直面している日本全国の製材所は多いと聞きますけど、佐竹木材もちょうど代替わりの過渡期を迎えています。木材バブルがはじけて、コロナ禍となり、ウッドショックもあるという背景で、あまり経営効率を落とさずに、次の時代へ向けて移行していく方法は何だろう? と試行錯誤している途中です。父の時代までのような、純粋に『個の技術』を継承するだけでは難しいと感じていて、モノづくりだけに邁進して個で打開するというよりは、知識と経験を戦略化するようなマーケティング感覚も必要。イメージでいうと組織で取り組む時代だと思うんです。ただその一方でロボット化したり、無人化したり、といった人の知恵や、人のコントロールを介さない製材のあり方にも疑問を感じているという思いもあります」

平成の約30年間で、製材所の機能も一変した。乾燥機を導入して、プレカットを推進するなど、製材所が急速に工業化・建材化を図った時代。生きているはずの木なのに、プラスチックなどと同等に平準化された素材として扱うような風潮がそこにはあったという


四万十エリアで推し進められる「100年の森計画」とは

「製材だけでなく、木の供給にも課題はある。高知県では林業大学校で学びたい、山師になりたい、という人材の育成に以前から注力してきていた。その成果もあり、実際にその後森林組合に入り、山を育てる、といった林業の担い手は一昔前と比べて増えてきているんです。ただ、森に生えている木の成長量のほうがどうしても早いので、伐採が追いつかないという課題を抱えているんです」

「台車乗り」と呼ばれる、木を挽く作業。佐竹さんにとってこの時間が一番の楽しみであり、自らの知識と経験を答え合わせするような作業であり、「丸太と真剣勝負する場」なのだという

「ただ、伐採が進まないからといって、一概にそれが問題なのかというと『違う』と思う部分もある。日本全国の国産材需要に量で応えられていないとしたら、それは問題だと思う。しかし需要とは関係なく、エリア同士の供給量を競うシェア争いのために量が求められると感じることも多い。であれば、四万十エリアには別の選択肢もあると思っている。それが四万十市役所や四万十市森林組合と共に6、7年前からアクションを起こした『100年の森計画』です」

「入った森はすべて伐採し、はげ山にするという『皆伐』ではなく、『間伐』しながら大きな木を育てる方向にシフトするという計画です。僕の子どもの代になって、高知エリア、四万十エリアにだけ大きな木が残ったよね、というのも選択肢として有りなんじゃないだろうか、と思うんです。もしかしたら20-30年後、それが四万十エリアの宝になるかもしれないな、と。どこを見渡しても樹齢100年を超えた木が生えてるよ、っていう状況になったときに寺社建築でも何でも対応できる可能性を彼らに残してあげることができる」

「木を見せる建築」が未来を切り拓く

佐竹木材のスローガンに『木を使い、山を育てて、地球を守る』という言葉があります。森を適正に伐採し、その木を積極的に使い、適正に育てていく。そうすれば、この地球全体をメンテナンスしていける、ということを今後事業継承していくなかでも、しっかりと伝えていきたいそうです。

「山とは切っても切り離せない暮らしをしている僕らは、始まりから山視点で考えちゃいますよね。山から水が流れて川、海になって、それがまた雨になって山に返ってくる。その過程で農作物ができて、豊かな暮らしが営まれていく。そのためには山にお金をかけて、適切に木を採って、木を使っていかなくてはならない。近年は積極的に木を使う機運ができてきたので、今だからこそ我々からも違うアクションを起こしていかないといけない」

「たとえば公共建築って木造は高いといってなかなか採用されないわけですけど、取り壊すところまでを考えたら、ライフサイクル全体のコストは決して高くないんですよね。公民館なり体育館なり、みんなに注目されやすい公共建築で木が頑張っていると、誰にとってもわかりやすい。そうした「木を見せる建築」をもっとやっていこうよ、と高知県の職員の方にもはたらきかけていたりしました。そんな矢先に、三菱地所ホームの注文住宅〈ROBRA〉の相談が舞い込んできたんです」

「ROBRAに使われる幅広のラミナー材(集成材用の原板)は、丸太でいうと32cmくらいのものを扱う必要があるんですが、日本全国を探しても、それを扱える製材所を見つけられなかったそうです。つまり、自動化が進んだあたらしい機械では製材しづらいような規格。テクノロジーの時代に、我々が昔から使用する『台車』と呼ばれる『人が操る』機械からじゃないと取れない材がROBRAで必要になった。工業化を追いかけてこなかった製材所だからこそ、設備投資をすることもままならなかった製材所だからこそ、求められる道もあるんだ。残り方として有りなんだ、というあたらしい感覚を覚えましたね」

代々継がれてきた山にこだわり、四万十ヒノキにこだわり、人にこだわってきた地方の製材所が、現代における先端テクノロジーを擁した木造住宅と出会う——。

「ROBRAの発表会の冒頭に『石の時代から、木の時代へ』という言葉があって、それを聞いてものすごく感動した。四万十ヒノキをつなぐという意味でも、製材所のあたらしい可能性を拓く上でも、自分たちにももっとできるんだよ、という自信につながるような言葉に聞こえた。私たちはまさしく今、木を取り巻く時代の大きな転換点に立っています。そのためには、先代から受け継いだものをしっかりと守る一方で、自分の代で100%を102%にするためのチャレンジをする。環境のことや、木の本質に常に立ち返りながらも、恐れずに変わる気持ちをたった数%でも持ち続けるのも、また重要なんです」

INFORMATION

Photo Kohei Shikama
Writing KIDZUKI

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