林業支援アプリ「WoodRepo」が金沢市と能登森林組合で利用開始
このたび、システム開発の株式会社エイブルコンピュータ(石川県金沢市、代表取締役 新田一也)が開発したAIによる林業支援システム「WoodRepo」を金沢市と能登森林組合でご利用いただくことになりました。
弊社は、かねてより日本の森林・林業の現場でIT技術を活用するべく開発を行っており、画像処理技術を用いて森林の材積量を推定するアプリの開発を始めたのは、平成15年(2003年)のことです。このアプリ円空も当時、多くの方からご評価いただきました。しかし、近年進化の著しいAIを利用すれば、よりよい製品をご提供できると考え、平成30年(2018年)より、石川県農林総合研究センター、石川県森林組合連合会および金沢工業大学と協力し、画像AIを用いた林業支援アプリの開発を行いました。なお本事業は、農研機構生研支援センターイノベーション創出強化研究推進事業 (JPJ007097)の支援を受け実施されました。
今回のリリースは、前年(令和5年)にリリースした石川県版を強化し全国へ展開できるようしたものです。以前搭載していたAIは、石川県の森林のみを対象として学習していたため、利用についても石川県内にとどめていました。全国の森林に対応するには、全国の森林を対象にして学習させたAIが必要となります。このため、秋田、福島、愛知、京都および山口の林業事業体様にご協力をいただきました。これらの地域におきましても、AIは良い成績を示しました。また、これらの林業事業体様に、アプリを実務でご利用の上で、実用的であるとのご評価をいただきました。
以下では、弊社が森林・林業に関わるアプリ開発に取り組む背景やWoodRepoの特徴、導入事例について簡単にご紹介します。
森林・林業の課題をITで解決したい
気候変動の兆候が肌で感じられるようになった昨今、森林を適切に管理することはこれまで以上に重要になっています。日本は、山地が多く、かつ湿潤温暖なため豊かな森林に恵まれています。また、戦後の復興期に国内の森林資源の充実を目指し全国的にスギの人工造林を盛んに行ったため、今や豊富な木材資源を保有しています。その一方で、1960年代以降の外在材輸入自由化は、国内の森林における素材生産に大きな影響を与え、林業労働者の高齢化、森林所有者の林業ばなれをもたらしつつ今に至ります。
しかし、気候変動枠組み条約の要請やSDGs(目標17: 陸の豊さを守ろう etc.)の取り組みなど、国際的にも森林の取り扱いへの関心が高まり、森林国である日本の役割も重要となっています。また、こうした国際的背景を受けた自国森林資源の保護政策や円安により、一転して海外からの木材の輸入が難しくなってきています。こうした現状下で、日本国内の森林資源の有効活用が強く求められますが、森林・林業は、生産に長い期間を必要とする産業であり、やみくもに伐採を行えば、持続的な木材生産ができなくなるばかりか、河川の氾濫や土砂災害といった問題を引き起こす原因となります。
こうした現状では、今こそ適切な森林・林業を実現し、経営すべき森林、保全すべき森林を適切に区分しながら、木材の生産を行う必要があります。先述の通り、林業労働者の減少や森林所有者の林業ばなれが年々深刻さを増す中、特に森林・林業の活性化を実現するために重要なことが2つあります。一つは、森林の境界(森林所有者同士の土地の境界)がわからないことが多いこと。もう一つは、森林資源量を適切に見積もることです。弊社の開発したアプリWoodRepoは、これらの課題に応え、森林・林業に携わる方々の力になりたいと考えています。
森林の境界を明確にするための技術
林業が衰退すると同時に、山村の過疎化、所有者の高齢化が進み、森林の土地が誰のものなのかを明らかにすることが難しくなってきています。また、本来なら正しい境界を示すはずの公図も、対象が森林の場合は、詳細な測量に基づかず不正確な場合が多々あります。このため、森林施業を実施するにあたり、プランナーの方々は、公図以外にも森林計画図(都道府県から提供)や航空写真など様々な資料を突き合わせながら(しかも紙ベースで!)、境界を推定する作業を余儀なくされています。
このような課題に対応するため、WoodRepoでは、
1) 境界のヒントになる樹種ごとの分布図を作成するとともに、
2) アプリ上で境界の作図作業ができる環境を
提供しています。
1) 境界のヒントになる樹種ごとの分布図を作成
WoodRepoでは、UAV(ドローン)で撮影した空中写真から作成したオルソ化画像をアップロードすると樹種を自動で判定し色分けした画像を表示します。
右の図は、石川県の森林の例です。赤い部分がスギ、黄色の部分が広葉樹など樹種が判定されています。
AIが樹種を自動で判定し色分け表示
2) アプリ上で境界の作図作業
所有者ごとの土地の境界(推定)を公図や元に作図したり、GISファイルを取り込んで描画したりすることができます。さらに、先述の樹種ごとの分布図を参考にして、境界線を修正することができます。
樹種の分布図を参考に境界線を修正可能
樹種の分布図以外の画像を利用することも可能です。右図では、航空写真を読み込んで重ねて表示した例です。航空写真を利用すると過去の状態が読み取れるので、例えば、植栽当時の航空写真であれば、はっきりと境界を判定することができます。他にも都道府県が提供する森林計画図の利用も有効です。
読み込んだ航空写真を重ねた表示
木材の材積量や原木等級(品質)の推定
木材の生産は長期に渡るので、適切な伐採量を設定しながら持続的な管理をする必要があります。短期的に見ても、その森林を伐採した場合にどれくらいの木材が産出されるかわからないとどれくらいの作業が必要なのか、売上とコストが見合うのかなど様々な判断ができません。
写真からAIが推定したデータを活用
このため、森林の材積量を推定することは林業の発祥の時から重要な課題でした。今でこそ、材積量を推定するために様々なソリューションが提供されていますが、つい最近まで、森林の樹木を1本1本、巻き尺などを用いて直径を測り、材積量を推定していました。このような調査作業は非常に時間がかかります。林業現場における人手不足のおり、材積量の推定を効率的かつ迅速に行うことが求められています。
また、商品として木材を扱う場合、材積量だけでなく原木等級(品質)の推定も重要です。一般に木材の素材は、A材(用材:建築や家具などに用いる)、B材(合板や集成材の材料となる)およびC材(チップの原料など)に等級づけされます。これらの価格差は非常に大きいので、材積量と原木等級を組み合わせて考えないと経済的に合理的な判断ができません。
WoodRepoは、林内で撮影した360°カメラ画像をアップロードすると、撮影された場所の周囲に材積がどれくらいあるのか、原木等級の割合はいくらかをAIによって推定します。
右の図は、WoodRepoに360°カメラ画像をアップロードした様子です。撮影した場所にマーカーが表示され、マーカーをクリックすると詳細な情報がポップアップに表示されます。
AIは、材積量や原木等級(品質)だけでなく、樹高や直径など、6項目の値も推定します。また、マーカーごとの推定値を集計し、所有者ごとの積算値や平均値も計算します。
360°カメラ画像から材積量や品質を推定
市営造林事業での立木評価に利用(金沢市)
弊社の位置する金沢市は、金沢城や兼六園など観光地として有名ですが、実は、市の面積(46,881ヘクタール)のうち60%が森林です。このように大きな面積を占める森林の多面的な機能を発揮させるため、平成15年には、金沢市森づくり条例を制定するなど森林の整備に力を入れています。また、市内の森林のうち、スギなどの人工林は約5,000ヘクタールとなっていますが、その40%の約2,000ヘクタールは金沢市と森林所有者との分収造林によって成立した市営造林地です。この面積は、市営造林としては全国的に見てもかなり大きいものです。
市営造林事業は、昭和40年(1965年)から始められたため、60年生程度になるスギ林も存在し、積極的に主伐等の収穫作業を行なっていく必要があります。しかし、同じ市営造林地といっても経営に向く森林、保全すべき森林など適切に判断を行なって施業を行う必要があります。このため、令和5年度に市内森林全域を対象に航空LiDAR計測を行い、その結果を受け、市営造林地に対してゾーニングが行われました。ゾーニングの結果、経済的な施業が可能とされた森林については意欲のある事業者に売り払われることとなります。
ただし、売り払いに先立って、森林の材積量や原木等級(立木状態)を見積り経済的な森林評価をしないと値段が決められません。材積量は航空LiDARのデータから推定されますが、原木等級の推定は実際に木を見て評価する必要があります。面積が大きいだけにこれは今後かなりの負担になることが予想されます。このため、金沢市の担当者様に弊社のWoodRepoの材積・材質の推定機能にご興味を持っていただき、本年度からご利用いただくこととなりました。特にWoodRepoでは、材質の評価機能を持っており、立木状態での評価が必要な取引において有効なのではないかと期待されています。
材積の推定方法のスクリーニング(能登森林組合)
WoodRepoでは、森林の材積量の推定を、林内で撮影した360°カメラ画像をもとにAIを利用して行います。しかし、材積量を推定する製品やサービスは、他にもさまざまなものがあります。有人あるいは無人航空機からのLiDAR計測や地上設置型のLiDAR計測、UAV(ドローン)で撮影した空中写真の画像処理による推定など、いずれも材積量の推定を目的としていますが、コストやメリット、デメリットに違いがあります。どの方法が、最も良いかは一概には言えず、林業の規模や施業のスタイルなどによってマッチするものが異なるでしょう。
本年度、能登森林組合は石川県森林組合連合会と協力して、森林施業のために必要となる材積量を推定するには、どの方法が良いのかについて評価を行うことなり、弊社のWoodRepoについても評価の対象としてご利用いただくことになりました。森林組合は、日本においては森林施業を支える重要な役割を担っており、WoodRepoがどれだけ有効か明らかになることを期待しています。また、結果を確認することにより、さらなる技術の改良を目指したいと考えています。
むすび
今後も、森林施業に関わるユーザーの皆様と連携しWoodRepoの機能を向上させ、持続的な林業の実現に貢献したいと考えています。また、これまでWoodRepoの開発や改良にご協力いただきました皆様に心より感謝申し上げます。
弊社では、さまざまな人材を募集してします。今回ご紹介した「WoodRepo」など弊社プロダクトにご興味のある方はご連絡ください。
株式会社エイブルコンピュータ採用情報 : https://ablecomputer.co.jp/recruit
お問合せ先
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