木を育て、木を伐り、木を材として扱い、活用する。これまでたくさん出会ってきた「木と働く」人々。しかしそれは、林業従事者だけには限りません。2023年11月よりはじまった『三菱地所ホームの青空オフィス YAMANASHI BASE』での新たな試みも、あたらしい木との働き方のひとつ。その最初の活動現場を訪れました。
「企業の森づくり」という活動
山梨県の北西部に位置する北杜市。八ヶ岳や南アルプス、金峰山など美しい山岳景観に囲まれたこの地は、日本一日照時間が長く、豊かな水と緑に恵まれています。その一画、同市須玉町の2ヘクタールの山林に今回訪れた『三菱地所ホームの青空オフィスYAMANASHI BASE』があります。
最近では日本各地で活発におこなわれている「企業の森づくり」。自社で所有していない企業や団体が、国・公有林や民有林でおこなう森づくりをサポートする活動を指し、その背景にはSDGsやカーボンニュートラルの推進などさまざまな背景があり、その関わり方や思想は多様化しています。
この『YAMANASHI BASE』は、北杜市と金ヶ岳山外二字恩賜林保護財産区、有限会社藤原造林との間で「森林整備協定」を締結し活動がはじまり、三菱地所ホームの社員が参加する森づくりへと至りました。主な活動目的には、社員自らが植林し国産材を未来に届ける「サステナブルな社会の実現に向けた活動」、森林保全に関与することで推進する「CO2削減に向けた活動」、そしてパートナー企業である藤原造林との協同活動により、生産者とメーカーの相互理解と知見を深める「社員の森林教育」があります。
木を扱う会社でありながらも、なかなか木に直接触れる機会が少ないという社員も多い中、設計や企画などさまざまな部署から29名が集まり、『YAMANASHI BASE』での最初の植林活動がおこなわれました。
植林したその日から考える未来の森
「ささやかな取り組みではありますが、私たちがこの森林を再生することで、社会や地球環境に貢献することを目的としています。木を生業にしている三菱地所ホームの社員ですが、実際は木が育つ姿を目にすることはなかなかできないですし、普段東新宿のオフィスで仕事をしていると木を見ることすらありません。しかし、我々の生業を支えている源流はこの山にあるということを理解し、未来につなげていくことが大事だと思っています。今日植えた木が出荷をされる時、当然私はもう生きてはいないわけです。でもそういうものなんです。植林して3年生の木はほんとうにまだまだ細くて小さいですし、50年生の木でも両手で抱えられるレベルです。ですから、長い営みの延長線上に私たちの仕事があるということを、今日肌で感じてほしいと思います。今日がその第一歩です」
三菱地所ホーム代表取締役社長の細谷惣一郎氏は、参加社員の皆さんを前に『YAMANASHI BASE』への想いを伝えます。木のサイクルから考えると、今できることはささやかでありとてつもなく長い年月を要すること。そのことを手を動かしながら、何度も言葉にしていたことがとても印象的でした。
この日植林したのは、カラマツ、コブシ、ヤマザクラ、クリの4種類、合計800本の苗木。皆伐がおこなわれた『YAMANASHI BASE』敷地に新たな生命を吹き込みます。パートナーである藤原造林のスタッフからレクチャーを受け、植林がはじまりました。
今日の木を想い続け、働く
藤原造林の管理のもと、敷地には4種類の木がまんべんなく植えられるように、印がついた所定の場所に所定の苗を植えていきます。穴を掘り、苗を植え、土をかぶせ、その土をまんべんなく踏み固める。一定の作業ながらも常に低姿勢でおこなうかなりの重労働。初めての植林という方も多く、互いに協力し合いながら作業が進みます。
「最高のコンディションでよい体験ができました。今日植えた木がCO2を固定し、いずれ家や家具になっていくことを想像すると嬉しくなります」と参加者も充実感を得ていた様子です。
藤原造林の代表取締役、藤原正志さんも参加者のサポートをしながら、企業の森づくりへの想いを語ります。
「三菱地所ホームとの活動以前、4年前くらいから企業の協力のもと森の再生活動をはじめました。活動を続けていく中で、私たちと林業以外の企業の方たちとの交流が生まれたことが一番のメリットだと感じています。自分たちの領域以外の情報を知ることができるし、今日のように植林活動を共におこなうことでうちのスタッフも、皆さんにしっかりアドバイスできるようより知識を高めていくようになりました」
こうして無事にスタートを切ることができた『YAMANASHI BASE』の第一歩。これからのより活動が活発になることに期待が寄せられます。今回植えた木々は、年内にまた三菱地所ホームの社員も参加のもと、夏に除草、秋には2回目の植林が行われる予定です。
森に身を置いた働き方ではないけれど、今日植えた木の成長を想像し、ここで得た体験が学びとなり次の事業を想像するヒントとなる。そんなふうに、あたらしい思想を持った木との働き方で、木に寄与できることもきっとあるはずです。