石巻工房 Made in Localの持続性と未来 - KIDZUKI
Category木と作る
2022.08.30

石巻工房

Made
in
Localの持続性と未来

地域のものづくりの場として、2011年に宮城県石巻市で誕生した家具ブランド〈石巻工房〉。東日本大震災の復旧・復興を背景に、DIYを通して地元の人々の支援をおこなうとともに、デザインの力でDIYの可能性を広げる活動をおこなってきました。そして設立から10年が過ぎた現在、その活動はこの地に根ざし、プロダクトはもちろん彼らの思想は石巻を超え、幅広い場所、領域で求められています。彼らが積み上げてきたものを確かめながら、これからの「木」との向き合い方に考えをめぐらせます。

石巻工房のアイデンティティ

ショップやカフェ、オフィスや公共施設など、全国各地のさまざまな場所で目にする機会が増えた〈石巻工房〉の木製家具。シンプルで機能的、そして愛着がもてる素朴なデザインのプロダクトの数々は、業態を選ばず幅広い用途で活用されていますが、その素材やデザインの根底にある〈石巻工房〉のアイデンティティを忘れてはなりません。私たちが今改めて考えるべき木のこと、暮らしのことに結びつく、思想が込められているからです。

石巻の街が一望できる日和山の山頂からの眺め。石巻湾に面した旧北上川の河口付近で津波の被害を多大に受けたこの場所も、現在は堤防が新設され復興されている。中洲にある『石ノ森萬画館』は奇跡的に建物が残り、旧内海橋(現在は撤去されている)が津波に流された人や家をせき止めたという
震災後、堤防が新設された旧北上川の河口部。散歩や運動など人々が集うこの場所にも〈石巻工房〉のピクニックテーブルが設置されている。

〈石巻工房〉が生まれた宮城県石巻市の沿岸部は、2011年の東日本大震災の津波で大きな被害を受けたエリア。その復興・復旧のためにものを提供するのではなく、被災者が「DIY(Do It Yourself)」を通して自らの手で暮らしに必要なものをつくり、自立運営できる産業を取り戻すための「ものづくりの場」を提供するという形で支援を開始。建築家の芦沢啓治さんをはじめデザイナーなどの有志が補修道具や木材などを提供、そしてDIYのワークショップを通して技術を習得した人々によって、被災した店舗や施設、仮設住宅などのための家具がつくられていきました。

DIYの木の家具をブランドに

「耐久性と汎用性が高い材料で、なるべく簡単に加工、組み立てができる」。材料と技術に制約が生じた震災直後のものづくりの現場を背景に、地元の人々とワークショップを重ね、必然的にたどりついた〈石巻工房〉が考えるDIY家具の考え方です。そしてその精神をもちながら、「手づくり」に「デザイン」という付加価値を吹き込んだ木製のプロダクトを販売することで自立を目指し、国内外のデザイナーが参画する〈石巻工房〉ブランドが立ち上がります。

石巻市のカフェとシェアオフィスが併設したコミュニティスペース『IRORI』。2011年、被災したビルのガレージを改修してできた場所で、復興に向けた新たな街づくり活動の拠点になっている。ここにも〈石巻工房〉のピクニックテーブルやスツール、ベンチ等が使われている。irori.ishinomaki2.com
〈石巻工房〉が設立10年を節目に、工房から徒歩2分の場所にオープンした『石巻ホームベース』。 1Fがカフェとショールームを兼ねたスペースで。2Fは〈石巻工房〉にゆかりのあるデザイナーが手がけた宿泊施設。石巻の人々が集い、学び、食し、遊べる複合施設であり、同時に自社のショールームとしての機能を兼ね備えている。 https://ishinomaki-hb.com/

「僕らが手がけるDIY家具は今ある材料でなんとかしようというところから始まったから、創造力が必要になる。『誰でもすぐ作れそう』ともよく言われるんです。でもその感覚が大事で。まずは真似して作ってみる。それができるようになれば、何かあったときにきっと対応できるようになると思うんです」

そう語るのは石巻工房の代表、千葉隆博さん。石巻で生まれ育ち〈石巻工房〉の立ち上げから復興支援、家具づくりに携わっています。限られた材料とシンプルな加工で作る家具。それはデザイナーにとっては時に厳しい制約となりますが、同時にあらたな発想やチャレンジのきっかけにもなり得ます。〈石巻工房〉の背景にある揺るがないDIYの精神によって、ここでしか実現しないデザインが生まれ、現在約20組のデザイナーのプロダクトがラインナップしています。

木と向き合うための教育、創造力

そしていま、さまざまな社会要因への順応も常に求められています。耐久性と強度の高いツーバイ材規格の中から、これまでウェスタンレッドシダーを採用していましたが、入手が困難になったことから、2022年8月より使用樹種を国産材に変更。現在主に、宮城県くりこま産の燻煙乾燥杉、屋久島地杉、ノンフィンガージョイント集成材という3種類が採用されており、国産材を使用することでサスティナブルなものづくりに貢献するという意識も高まっています。

「使用する樹種が変わったことをお客様にお伝えしたところ、『レッドシダーだったの?』という反応が多くて。樹種にこだわる人って10人中1人か2人なんです。日本て木の国なのに、木の種類や性質をわかっている人はまだまだ少ない」と、生活者と木の関係における現状を千葉さんは考察します。

「木の家具をジーンズに例えることがよくあります。どちらも、新品好きな人とビンテージやダメージ好きな人がいますよね。石巻工房の家具を選ぶ人って、ダメージジーンズ好きみたいな人。ふしは気にならないし、傷がつきやすいけど、気にせずに使い倒すことがよかったり」

オープン当初から約10年『IRORI』で使用されているピクニックテーブル。経年変化で木の風合いや色が味わい深いものに。

ふしを好み、さらにその場所にもこだわる人もいるそうですが、作る側の視点からするとふしの入ったいわゆるB材にランク付けされる木は、A材(角材がとれる真っ直ぐな木材)と比べて価格は安価ではあるものの、扱いづらく、時間と手間がかかってしまうという現実もあるといいます。

「ふしの入った材を効率よく使うとなると、直角を出さない加工になるんです。でもそうすると今度は、お客様にそれがどんな加工なのか説明して、木のことをよく知ってもらわないといけない。木の価値を定量化するのは難しい。だからこそもっと、木と向き合うための教育や創造力が必要で、それが石巻工房にとっても大切なことなんです」

“ふしを活かしたプロダクトデザインもおもしろそう” “丸太一本を99%無駄なく使って家具は作れるか?” “森に行き、そこで拾った木片でつくるワークショップの方が、より木を身近に感じられるのでは?” など、木を中心にKIDZUKIとの対話も次々と弾んでいきます。

震災の復興支援からはじまり、人や地域とのさまざまな経験を経てスケールアップを重ねている〈石巻工房〉。工房で家具をつくる職人は現在3名。国内外からの注文対応で多忙な日々を送っています。木の家具を作る側と使う側、その両者をつなぐ木への意識が、彼らのDIY家具を通して深まり、そして私たちの暮らしを豊かなものにしてくれるのでしょう。

INFORMATION

Company 石巻工房
Photo Kohei Shikama
Writing KIDZUKI

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