「100歳の木を使うなら、その年輪にふさわしい家具をつくりたい」という想いのもと、木製家具国内生産トップを誇る〈カリモク家具〉。品質はもちろん、森林、加工、製造までの管理体制、そして環境や人への配慮に至るまで、徹底的にこだわる姿勢で日々家具づくりと向き合っています。そして、2022年「自然と共生し、人生100年時代を意識した循環型社会」を目指したサステナビリティ方針を策定。事業を通じて社会課題の解決や、経済性・社会性の両軸からの価値の創出に積極的に取り組んでいます。1940年の創業以来、日本の家具業界をリードし続ける彼らの木に対するビジョンは、時代の変化にあわせながら、KIDZUKIのフィロソフィーとも共鳴します。
コラボレーションから広がる、木の可能性
「僕らは1家具メーカーに過ぎないですし、1社でできることには限界があります。最近では”木づかい運動”や、建築における木質化などさまざまな取り組みが各所でおこなわれていますが、それだけではなく、もっと広いビジョンを持って木や森林の大切さや可能性を見出したり、その新しい気づきから何かを生み出すためのネットワークの創出が重要だと考えています」そう語るのは〈カリモク家具〉副社長の加藤洋さん。
常に意識しているのは「どのようにして木を上手に活用していくか」ということ。そのための取り組みのひとつにあるのが、10年以上前から重ねてきた異業種とのコラボレーションプロジェクト。暮らしをより豊かにしたいという想いのもと、家具づくりで培ってきた〈カリモク家具〉の技術やノウハウは、あたらしい木の可能性を見出し、家具の枠を超えてさまざまなプロダクトに展開されています。
「KIDZUKIのように、木への大きなビジョンを持ったネットワークの中に参加することで、僕たちの得意なこと、やりたいことをもっと加速できればと思っています」(加藤)
そんな想いのもと、今年6月に三菱地所ホームが発表したKIDZUKI構想においても、トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんのデザインのもと、建築端材を使ったオフィス家具の製作を〈カリモク家具〉が担当。KIDZUKIのフィロソフィーを象徴するプロダクトが完成しました。
家具メーカーとして木の価値を高める
「異業種との取り組みをはじめ、新たな領域のものづくりへのチャレンジには多くの気づきがあります。それが本業である家具づくりの進化に繋がっているのですが、それ以上に、木には心を寄せてしまう“何か”があるということが、チャレンジへの動機付けの原点のように思うんです。僕らメーカーからすると、木は原材料のひとつですが、たとえば、短い端材は繋ぎ直すよりも燃料材として使った方が生産性は高く、経済的視点では正しい考えではある。でもそれよりもまず、“短くても燃料にするにはもったいない”とか、“何か他のものに活かせないか?” と思ってしまう。それは社員皆が感じていることなんです」(加藤)
その思想は〈石巻工房 by Karimoku〉のブランドの活動にも表れているように、〈カリモク家具〉では40年以上前から、幅広い樹種や一定の規格から外れてしまう木材を、ものづくりのシステムを磨き上げることで活かす取り組みを続けています。「木を無駄なく、できれば家具として付加価値をつけて、木が育ってきた歳月以上に、長く愛着持って使ってもらえるような変換をしたい」という想いのもとに、自社ブランド〈KARIMOKU NEW STANDARD〉や〈MAS〉があります。
KARIMOKU NEW STANDARD(2009~)
職人が培ってきたユニークな視点と、国内外から選ばれた有数のデザイナーたちが手を組み、先進的なアイデアと優れた製造技術を融合した〈カリモク家具〉のブランド。広葉樹のサスティナブルな活用、森林保全や林業地域の活性化など、日本の森が抱えるさまざまな問題と向き合い、森から工場、そしてその先まで、生産工程すべてにおいて高いクオリティを追求し、日本の家具デザインの新たなスタンダードとなるべく取り組んでいる。
www.karimoku-newstandard.jp
MAS(2018~)
誰もが親しみを感じる「枡」をモチーフに、ヒノキやスギなどの国産針葉樹からつくる〈カリモク家具〉のブランド。針葉樹は広葉樹に比べて柔らかく軽く、堅牢さが求められる家具づくりには適さないとされてきたが、〈カリモク家具〉の技術と構造の工夫により、素材の特長を巧みに引き出したコレクションは、まさに日本の森の恵みと、現代の創造性の結晶。無垢の木を組む職人技と、無駄のない構造に裏づけられた枡のように、印象的な素の色合いや木目が印象的で、清潔感ある佇まいの家具が実現した。
https://mas.karimoku.com
椅子、テーブル、キャビネット……などあらゆる家具の制作行程ではさまざまなサイズや形の端材が出ます。その種類や豊富さを利用し、子どもから大人までを対象とした「アニマルカリモク」のワークショップは、〈カリモク家具〉の想いを直接人に伝えるための大切な活動です。
様々なかたちをした木という素材を見て、触って、選んで、積み木のように組み合わせることで個性豊かな動物をつくるワークショップ。木に触れる経験が、木と人との共生や、木材の個性について考えるきっかけとなり、より多くの方々に木の魅力が広まってほしいという考えから、〈カリモク家具〉では子どもから大人まで参加できるワークショップを定期的に実施。アニマルカリモクはのこぎりや釘などは一切使用しないので安全性が高く、幅広い世代から共感が得られる社会性を持った取り組みとして高く評価されている。
チャレンジを動機づける、木のチカラ
「カリモクは“ハイテック&ハイタッチ”というコンセプトのもと、ものづくりをおこなっています。テクノロジーとクラフトのバランスをどう取ってよい家具を作るか。高度な機械の技術と職人の技を融合させて、高品質でありながら工芸的な技術や価値観を併せ持ったプロダクトを生み出したい」という加藤さんの言葉は、ものづくりの現場、カリモクの製造工場にも表れています。
木材加工や切り出しなど機械による工程、組付や塗装、張込みなど熟練の職人の手仕事による工程、パーツの研磨などアームロボットから最終的には人の手で調整する工程というように、広大な工場では常にすべての工程が最適化・効率化されています。この徹底的な管理体制が、あたらしいチャレンジを支える礎になっていることを感じさせます。
木に触れ、木を扱うプロフェッショナルに改めてたずねる、木の魅力とは。
「木の魅力って、温かみや香りなど五感に訴えかけるものとよく言われますが、それにプラスして、厳しい自然界で競争と協調を繰り返しながら50年、100年生きたからこそのたくましさや強さという点にもあると思うんです。それが、木に触れたときに心が安らぐ要素のひとつなのではないでしょうか。無意識に感じ取れる何かというか……。人間とも親和性の高い木は、暮らしを豊かにしてくれます」と加藤さんは続けます。
「ただ、家具は大きいものが多いし、新たに買ったり入れ替えたりすることは大変ではありますよね。押し付けがましく、木の家具をもっと使いましょうと言うつもりはありません。もちろんそうなるといいとは思いますけど(笑)、小さくても身近に木で作られた何かがあるだけで、豊かな気持ちになる。木ってそういうチカラを持ち合わせているんじゃないかということです。僕らがよい家具を作ろうと思う背景には、その家具を使う人たちに幸せやエネルギーを感じてもらうことなんです。人々の生き方に貢献できるような家具を作りたい。そのためにはまず、安心して長く使ってもらえるいいものを作ることが前提です。そしてそこに愛着を持ってもらう必要があるので、デザインや機能性を追求する。それが“木と幸せな暮らしをつくる”というカリモクのビジョンにつながっているんです」
誰もが毎日目にし、触れ、使用しているであろう「木」の家具は、私たちがもっとも身近に感じる「木」の存在だとも言えます。“愛着を持って永く使い続けたい”。ものを選ぶ時に当たり前にそう思えるということはつまり、〈カリモク家具〉のような木を愛し、木と真摯に向かい合いものづくりを続けてきた人たちがいるからにほかならない。