2023年10月20日(金)に開催された、KIDZUKI主催の参加型イベント「KIDZUKI CARAVAN/木に集う人々会議」。爽やかな秋晴れの空の下、国内外から集まったゲストスピーカーが集い、「木」へのさまざまな視点を語り、交換した1日をレポートします。
これまでKIDZUKIが出会い、築いてきた木や森林に関わるネットワークをベースに、実際に情報やアイデアを交換する場を設けたいという想いからついに「KIDZUKI CARAVAN/木に集う人々会議」が開催へと至りました。
向かった先は、東京・小金井市にある東京学芸大学。キャンパス内に突如現れる、今年5月に完成したばかりだという幅約23mで迫力のある屋根のみのユニークな建築が会場です。「Explayground(エクスプレイグラウンド)」という同校が参画する未来の教育に向けた新しい学びを創造する産官学民の共同的な取り組みの拠点として建てられたもので、設計はVUILDが担当。最新のテクノロジーによってあらたな木の可能性を感じる、KIDZUKI CARAVANにふさわしい場所ではないでしょうか。
当日は雲ひとつない爽やかな秋晴れで、まさにKIDZUKI CARAVAN日和。周りの木々が風にそよぐ様を全身で感じながら、KIDZUKIのコンセプトディレクターであるトラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんの開会の言葉とMC山中タイキさんの進行のもと、ゆるやかにスタートしました。
9名のスピーカーによる「木」に関するキーノートプレゼンテーション
木と「KIDZUKI」 鈴野 浩一(トラフ建築設計事務所 / KIDZUKIコンセプトディレクター)
「KIDZUKIを通した約1年強のリサーチ活動で得た”気づき”は実際数え切れませんが、僕たちが全然知らなかった木や森の置かれている現実や市場に出回らない行き先の見つからない木の存在、木の価値の低下が森の循環を阻害していることなど多くの課題にも気づきました。その一方で、あたらしい木のアイデアやコミュニティづくり、イノベーションやテクノロジーなどものすごい熱量の手仕事をこの目で見てきました」と、KIDZUKIを通してこれまでの活動で出会った人やそこで感じたことを語ります。
「木や森に関する各々の進化を数多く見てきましたが、専門領域外で木に関わる人同士や地域外で木に関わる人同士となると、途端に交流が少なくなる印象を受けました。そこで、KIDZUKIが”メディア=媒介者”としてそれらのエクスチェンジ機能を担うことが将来の木や森林の課題を解決するきっかけづくりにとってとても重要で、それがKIDZUKIが担うことができる役割のひとつなんじゃないか? ということで思い切って実践に移してみたのが『KIDZUKI CARAVAN/木に集う人々会議』です。まだまだ実験的ではありますが、実際今日全国から集まってくれた方々はとても豪華。高知、岡山、京都、名古屋、そしてイタリア、フィンランド、さらに宇宙からも”木”というジャンルを軸にここに集ってくれました。さまざまな視点から行われる 皆さんの発表をお聞きすることがとても楽しみです」とオープニングのプレゼンテーションを締めくくりました。
木と「衛星と森林」 濱本 昂 (宇宙航空研究開発機構(JAXA) / 衛星利用運用センター(SAOC))
「観測史上もっとも暑かった今年の夏。その影響のひとつに温暖化があります。地球上における二酸化炭素排出量は年間約368億トンに対して、約76億トンが森林によって吸収されています。その森林は約40.6億ヘクタールあり全陸地の31%にあたりますが、この10年で470万ヘクタールずつ消滅していっています」という冒頭のデータの投げかけからはじまった濱本さんのプレゼンテーション。人工衛星が観測した画像やデータの中から、特に「森林管理」と「森林バイオマス測定」にポイントを置き、現在の JAXAの取り組みや未来への展望を語ってくれました。
木と「カームテクノロジー」 廣部 延安(クリエティブディレクター / mui Lab, Inc.)
「”わたしの家族が心地よく豊かにすごしていくために、自分たちのプロダクトを作りたい”という想いから、人と自然とテクノロジーをうまく調和させた、木のインターフェースのプロダクトを開発しています。目の前でごはんを食べている人よりも、PCやスマートフォンを通じてここにいない、遠くの誰かからの通知にわたしたちは心を奪われすぎてしまっていることを社会課題と捉えています」という考えのもと、”木に触れることで情報にふれる”という、mui Labのプロダクトのこと、そして彼らが大切にしている思想について語ってくれました。
木と「焚火」 寒川 一 (焚火カフェ 主宰 / アウトドアライフアドバイザー)
「東京から三浦半島に引っ越して、焚火カフェをはじめてまもなく20年。ずっと同じサービスをする中で気づいたことが、燃やす薪についてでした。今まではどこからやってきたかわからない薪をホームセンターで買って使っていたのですが、ある日海岸で足元に流れついている流木に注目するようになったんです」と焚火をきっかけに木を意識しはじめたという寒川さん。焚火をする中で気づいたこと、そして人間と木と自然の関係性についての考えを、自身の流木コレクションとともに紹介してくれました。
木と「Cambio」 アンドレア・トレマルキ、シモーネ・ファレジン(フォルマファンタズマ)
スペシャルゲストとして、この秋来日していたイタリアのデザインスタジオ、フォルマファンタズマの2人が登場。2020年にロンドンのサーペンタインギャラリーで開催した展覧会「Cambio」における考え方や、その展覧会をきっかけに協働へと至ったフィンランドのインテリアブランド〈アルテック〉との開発などについて、彼らの木や森に関するリサーチとともに語ってくれました。
「デザインをする際に、素材、調達、加工、流通といったすべてのプロセスにおけるあらゆる情報を把握することが重要だと考え、木材や木の業界をテーマにした展覧会『Cambio』を構想しました。しかし私たちがすべての知識を持っているわけではないので、哲学者、文化人類学者、アクティビスト、科学者。研究所、森林に住む原住民など、いろんな方々と協業し、話を聞きました。それはデザインの展覧会なの? と思われるかもしれませんが、デザイナーとして木や森に対して理解を深めるリサーチは必要。それが業界に知識をもたらすということだからです」
木と「困った木」 野中 あつみ(ナノメートルアーキテクチャー / “時木(とき)の積層”プロジェクト)
「私たちは今、2025年関西・大阪万博の中で必要な機能、テレビ局のためのサテライトスタジオの設計を担当しています。そこで”困った木”を使いたいと考えているんです。それは人の都合で切られてしまった木、災害によって倒れた木、大切にされてきた木、産業の中で出てくる木など、社会的にも意味がある木を集めています」と現在の活動を紹介するナノメートルアーキテクチャーの野本さん。彼らが”困った木”にフォーカスする理由、そしてこの活動のきっかけとなったあらたな木への気づきについてを語ってくれました。
木と「木育」 木育ガールキキちゃん (東京学芸大Explayground推進機構 木育研究所 代表)
「今日のお話のタイトルは、”キラキラな未来をつくる木を使った教育”です。『キキちゃんネルチャン』というYouTubeチャンネルや木に関するワークショップやイベントの実施など、木に関する教育をおこなっている女の子です。なんでそんなことやっているの? とよく聞かれますが、答えは『必要やと思うからです”』」と力強い言葉と明るい笑顔で登場したキキちゃん。木にまつわる課題を掲げながら、未来を生きる子どもたちのための教育に向き合う意義を、自身のさまざまな活動事例とともに語ってくれました。
木と「林業と木工」 高橋 成樹(木工作家 / 山師)
「おじいちゃんが製材業をしていたので、僕も子どもの頃からずっと当たり前に山に入っていました。小学生の時に”山は川や海と繋がっている。だから山師が山をきちんと手入れをしないと、美味しい野菜も美味しい魚も獲れないんだ”と教わったことが今でも心に残っています。今、手入れされていない山や持ち主がわからない山が増えていて悲しい気持ちになります。僕一人だけでは変えられないから、今日のこのよう場所で話せて嬉しいです」と高橋さん。山師であるかたわら、ウッドアーティストとして活動をはじめた理由やこれからの展望を語ってくれました。
木と「カルチャー」 井上 達哉(ちょうどいい材木ラジオ / VUILD株式会社取締役COO)
「20年間林業や木材に携わってきて、今、木を利用することのブームを感じています。いいことではありますが、そこにどんな貢献や課題解決策があるのか。その表現や活動を通じて人の心がどう動いて社会が変わっていくかということまで考えている人はどれだけいるんだろう? とも思うんです。木の作品を作って”すごいね”ってだけじゃおしまい。それは持続可能なのか、どう感じてもらって、どう行動してもらうのかということが重要」と井上さんは現在の木にまつわる課題を提示しつつ、自身のアイデアやさまざまな地域で実践している活動を紹介してくれました。
こうして全9名のスピーカーによるキーノートプレゼンテーションが終了。スピーカーからもそれぞれコメントをいただき、この場所を通じて初めて対面したさまざまなジャンルで活動するそれぞれの視点や想いに初めて気づきを得たり、互いに感銘を受けたようです。その後スピーカーと参加いただいた方が交流するミートアップパーティを開催。木を起点にしたあらたな出会いが生まれた1日になったのではないでしょうか。
はじめての参加型イベントとして実施したKIDZUKI CARAVANは、今後も続いていきます。これからも広い視野をもってさまざまな人や場所、できごととの出会いを重ねながら、多くの「気づき」や「築き」のきっかけになるような活動を発信していきます。
近日、KIDZUKI CARAVAN vol.1のアーカイブ視聴の公開を予定しています。日程については改めてWEB、SNSにてお知らせいたしますので、ぜひご覧ください。
PEOPLE
mui Lab
mui lab
mui Labは京都御所に程近い、400年以上続く家具街の夷川通に拠点を置くスタートアップです。テクノロジーを活用し、人と人、人と自然がより良くつながる暮らしを実現するための製品やサービスを開発しています。
高橋 成樹
Naruki Takahashi
高知県生まれ。健康な森を育て間伐し木材を生産する山師であり、木を加工して作品を作るwood artist。両軸の活動を通して真摯に山や木と向き合い、正しい知識や情報を伝えることを目指す。
寒川 一
Hajime Sangawa
香川県出身。災害時に役立つアウトドアの知識を書籍、キャンプ体験、防災訓練などを通じて伝えるアウトドアライフアドバイザー。三浦半島を拠点に焚火カフェなど独自のアウトドアサービスを展開。スカンジナビアのアウトドアカルチャーにも詳しい。著書に『新時代の防災術』『焚き火の作法』(学研プラス)などがある。
鈴野 浩一
Koichi Suzuno
トラフ建築設計事務所主宰、KIDZUKI クリエイティブチーム・コンセプトディレクター 。1973年神奈川県生まれ。1996年東京理科大学工学部建築学科卒業。98年横浜国立大学大学院工学部建築学専攻修士課程修了。シーラカンス K&H、Kerstin Thompson Architects(メルボルン)勤務を経て、2004年トラフ建築設計事務所を共同設立。
ナノメートルアーキテクチャー
nanometer architecture
野中あつみと三谷裕樹が2016年に設立した建築設計事務所。名古屋市に拠点を構える。主な作品に、リニモテラス公益施設、茶山台団地のリノベーションなど。現在、大阪・関西万博サテライトスタジオ、SOUPタウンプロジェクトなどが進行中。
井上 達哉
Tatsuya Inoue
1984年生まれ。岡山県西粟倉村在住。西粟倉村の地域材サプライチェーンを構築し間伐材プロダクトの製造販売事業を行う「西粟倉森の学校」の代表を経て、VUILDのCOOに就任。ライフワークとして、「ちょうどいい材木ラジオ」、「モクタンカン」や「山主」を面白がる会など、林業と建築分野を横断したプロジェクトを行う。