愛媛県伊予市に本社と工場を構える共栄木材。木材の加工や製造、販売を手がける材木屋であり、日本で最初に焼杉の工場生産を始めたメーカーとしても知られています。「ここにしかないもの」を理念に掲げる同社は、「人と人」とのコミュニケーションを大切にしながら、木材業界はもちろん地域社会にとっても意義のある活動を続けています。
木造建築を体感できるオープンな環境づくり
共栄木材を訪れてまず案内された先は、敷地内にある木造建築『三秋ホール』と『三秋アトリエ』。その建築の美しさと開口部の先に広がる空と美しい伊予の山々に一瞬にして魅せられ、木材の加工・製造工場のイメージが覆されました。
「当社は“環境とデザイン”を経営テーマに掲げています。この『三秋ホール』と『三秋アトリエ』は、材木屋として、環境やデザインのことをしっかり考え、発信していこうという想いのもと建てたものです。街中と比べてこの自然に恵まれた美しい環境にこういったデザインが入るからこそ、私たちの想いがより伝わるのではないでしょうか」
そう語るのは株式会社共栄木材の代表取締役の西下文平さん。このホールとアトリエはどちらも建築家・手嶋保さんの設計で、同社が扱う木材を活用し、ショールームとしての役割を果たすとともに、社内だけでなく地域の多目的な場所として利用されています。
天井:米栂 ラフソーン&スリット仕上 フローリング:イペ ラフソーン仕上 屋根:セランガンバツ 枠材:ニヤトー(撮影:楠瀬友将)
このふたつの建築だけでなく、敷地内の工場、事務所、そして下灘駅に近接する焼杉工場もすべて見学が可能できるという「オープンな会社」も強みのひとつとする共栄木材。これらの建築ツアーを入り口に、同社の考える木、そしてその先の人との関わりへのこだわりをさらに紐解きます。
商品力と提案力が両立する、共栄木材の強み
共栄木材は1948年に製材所として創業しました。1978年、日本で最初に「焼杉」の工場生産をはじめたメーカーとして、50年もの間改善を重ね高く評価され続け、1990年には海外からの木材輸入もスタート。さまざまな構造躯体の供給から、焼杉などの外壁、フローリング、ウッドデッキ、構造計算までひとつの建物ができるまでに必要な木材、サービスを一貫して行なっています。
加工から、設計、流通までを一貫しておこなうコンポーネント会社であり、焼杉のように50年もの間、素材や技術と向き合い改善を重ねてきながらも、「つくるシリーズ」のように常にあたらしい発想でチャレンジをつづけるものづくりをおこなう共栄木材。その独自の理念に基づいた事業展開に加え、市場競争に負けない自社の提案力もまた同社の強みです。
「ブランディングとしては、インターネットを通して広く弊社の事業を発信していきたいのですが、大手のECと同じことをやっていると、最安値を競い価格でしか比べられない世界になってしまいます。ですから共栄木材としては、お客さんが本当に欲しいものは何か? その材を求める意図や使い方は何か? などというコミュニケーションを大切にしています。ただ安いから共栄木材の材料が欲しいという人と仕事をするのと、共栄木材の提案が聞きたいという人と仕事をするのでは、働く人のモチベーションも全然違いますよね。この場所でより楽しく仕事をするために、極力当社を好きになって、選んでくれるような努力が必要だと思うんです」
そんな西下さんの言葉を受け、同社のコーディネーターである西岡英治さんも続ける。
「それがうちの強みですよね。メール1本で終わりではなく、やっぱり電話や実際に会うコミュニケーションを経て提案させてもらいたい。何かの真似であれば、どこでも作れると思うんです。でも、たとえば国産材で問い合わせがきても、フローリングなのか外壁なのかなど、お客さんの求める内容を聞き、そこから機転を効かせて外国産材を提案したり、希望する材の実際に経年劣化した状態を見せたり。他のメーカーさんはあまりやらないかもしれないですね」
木の“適材適所”という考え方
お客さんとのコミュニケーションをはかり、希望を実現するにふさわしい、共栄木材だからこそできる木の提案をする。そこで大切なのが「適材適所」の考え方と西下さんは言います。同社の国産材と外国産材の需要の割合はほぼ半々。それぞれの木の性質を理解し、フラットな視点で捉え適切に提供しています。
「素晴らしい国産材があるからといって、何もかも国産材にすればいいわけではないしその逆もそう。適材適所があると考えています。プロジェクトによって、強度やコストなど求められるポイントは違います。自分たちがこれだと決め打ちで提案するのは、結果お客さんためにはならないと思うんです」
「商売をしているわけですから、当然自社のことばかり考えていますが、自己認識していた強みや魅力も、人から見たら普通なこともある。そうやって全体を俯瞰して見たら、それぞれの特化している点や、ブランディングのアプローチ、ECの事例など、地域の木材利用者の共通項や違いが抽出されると思うんです。このKIDZUKIのネットワークやプロジェクトのようにいろんな会社さんの状況を聞いて、お互いの問題をシェアし合うみたいなことが本当に大事だと考えています」
自社の商品や提案力など「ここにしかないもの」にこだわりながらも、木材を取り巻く状況や課題を他者と共有し相対化することで、また次の可能性や強みが生まれることを期待するという姿勢。まだはじまったばかりの彼らとの対話は、やがて多くの人々を巻き込み、木材に関わる人や環境、社会の好循環を生む未来のきっかけとなりそうです。