天然素材の生き様を見、記憶に残す辰野しずか “a moment in time-trees-“ - KIDZUKI
Category木と作る
2023.01.26

天然素材の生き様を見、記憶に残す
辰野しずか 
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moment
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time-trees-“

そこに広がるのは、まるで一足早い春の訪れ。現在東京、西麻布にある『Karimoku Commons Tokyo 』の1F ギャラリースペースにて、デザイナーの辰野しずかによる展覧会「a moment in time –trees-」が開催中です。彼女の初の書籍の出版を記念した本展では、樹齢 60 年ほどの梅の木からインスパイアされた草木染めの技法で染められた上の作品の展示とともに、この会場をきっかけに出会った〈カリモク家具〉とのコラボレーション作品も実現しました。美しくも儚い天然素材だからこそ、記憶にずっと留めてきたい。そんなふうに観るものの心に響く景色が広がります。

はじまりは、樹齢60年の梅の木との出会い

ガラス張りのエントランスを前に真っ先に目に入ってくるのは、会場に吊るされた柔らかい色彩で透明感あふれるオブジェと、その周りに配された大きな丸いテーブルの上に並ぶ、キューブや円柱状のオブジェたち。美しく瑞々しくありながら、こってりとした不思議な存在感も放つそれらは、辰野しずかさんによる草木染めの技法で染められた飴のオリジナル作品です。そのインスピレーションから制作ストーリーまでを知れば知るほど、彼女が捉えた「木」という素材の未知なる世界へ引き込まれていきます。

Photo:Aya Kawachi

梅の飴の作品は、2021年に開催された辰野さんの独立10周年を記念して開催された展覧会のために制作されました。当時関連会場の庭に生えていた、数ヶ月後に建物の解体と共に切られてしまう運命の樹齢60年ほどの梅の木からインスパイアされ、以前から興味を持っていた草木染めの技法で抽出された梅の色を、砂糖と水を煮詰めて閉じ込めて作られています。

Photo:Aya Kawachi

「植物が刻一刻と異なる色に変化するように、飴も溶けたり結晶化したりと同じ姿をとどめることはありません。この飴の作品が持つ “コントロールすることができないうつろい”は、同じ事象にとどまり続けることのない私たちの日常と共通しており、どちらも今、“その瞬間”を感じられる体験だと考えられます」と辰野さんは、作品にこのような言葉を寄せています。そして“その瞬間”を記録に残した本「a moment in time –ume-」の出版を記念して開催されたのが本展。今回新たな作品も生まれました。

自然と向き合うものづくり

『Karimoku Commons Tokyo』が会場となったことが縁で、辰野さんと〈カリモク家具〉のコラボレーション作品が実現。ここにも作品同様、“その瞬間”が閉じ込められています。制作の依頼を受ける少し前の2022年の夏に、〈カリモク家具〉の工場を訪れた辰野さんが注目したのは、小径木や端材などの小さな木材を「継ぐ」という技術。ナラやクリ、サクラなど家具作りに使用する木材と同じ樹種の枝から抽出した色を閉じ込めた飴を、同じ木材で作られた造形物と繋いだ作品が完成しました。

ローマテリアルを使った枝とその樹木からとれる色で着色した飴を継いだ作品。採用した樹種は左からホウ、クリ、サクラ、ナラ、ウメ。

「“カリモク家具らしさ”とは何かを私なりに追求しました。木材加工は何でもできると思わせるほどに幅広い加工ができるとても大きな工場を持つ会社という印象で、ひとつひとつのものづくりの工程がとても丁寧で、人の手による仕事が最大限に生かされるよう、適材適所に機械を入れるなどして、工夫をされています。そして作るだけではなく素材や森のことも考えていることにも好感を持ちました。 せっかく展示をさせていただくので、カリモク家具にとってもプラスになるような展示にできると良いなとも考え、その要素が上手く反映される作品を目指しました。 枝と飴を繋げた作品は、普段カリモク家具が家具製作で使う木から採れる色が分かるようにするためのプレゼンテーションの役割もあります。見慣れている木の家具は、当たり前すぎて忘れていますが、生きていた木である天然素材から生まれている事を再度認識してもらうきっかけになればと思っています」

ローマテリアルを使った作品に対して、本作品は加工した素材を採用。「使いにくいとされる小径木や端材をジョイントして材として使う取り組みが木を大切にしていて素敵だと思った」と辰野さん。その技術を使用した加工品と、その樹木からとれる色で着色した飴を、循環をイメージした造形で継ぎ合わされている。樹種は左からナラ、サクラ、クリ。

天然素材が教えてくれたさまざまな気づき

いつかは土に還る時がくると捉えられた、飴と木というふたつの天然素材が織りなす本展。中でも木の個性と奥深さに触れたという辰野さん。

「木は奥深く、知れば知るほどまだあまり理解できていない自分に気づく素材です。今回の作品制作では、まだ水分を含んでいる枝から草木染めの技法で色を抽出しました。言い換えるなら、木が生きていた時に枝の中で作っていた色を頂戴した感じです。 加工前の木は木目ひとつとっても全く同じものが存在せず、木材は木のそれまでの生き様が見える天然素材なので、色と同様に“頂戴する”ような尊ぶ気持ちが作品づくりを通して強まったように感じます」

Photo:Aya Kawachi

そしてこの作品の制作を通して、辰野さん自身、デザイナーとしてのさまざまな気づきやものづくりについて改めて考えるきっかけとなったようです。「はかなくも作品が消えてしまった後にも、人の心に、記憶の片隅に残るもの」というテーマから生み出された作品は、ほんの“瞬間”でありながらも、私たちが本来大切にすべき価値や選択のあり方へ導いてくれるのかもしれません。

「この世に存在しているものはプラスチックであれ、天然素材からの加工品とも言えます。一方で植物の色は今日採取した色と明日の色は変わり、全く同じ色は採れない程に刻一刻と変化しています。本来揺らぎのある天然素材をコントロールして同じものを一度にたくさん作る事が出来るようになった人類の努力と発展も感慨深いものがあります。私が育った時代では長らく、全く同じものが安定的にたくさん作れ、長くいつまでも使えるものが良品とされ、そのこと自体に多くの人が疑わずにいました。しかしマテリアルによっては、その耐久性が、今の時代には自然環境を脅かすものと言われるようになりました。同じものをたくさん作ることや耐久性のあるものが人々を助ける面も多くあるので、決して否定的な訳ではないのですが、変化し消えて無くなってしまうものへの価値も受け入れられる世の中になると、何かが変わる気がしています。この作品づくりを通して、見ていただいた人の多くが共感してくださり、自分の中でもこの思いは確信に変わってきました。この気づきがいずれ何かにつながっていくと思っています」

Photo:Aya Kawachi

辰野しずか / Shizuka Tatsuno
Shizuka Tatsuno Studio 代表 クリエイティブディレクター / デザイナー
1983 年生まれ。ロンドンのキングストン大学プロダクト& 家具科を卒業。デザイン事務所を経て、2011 年に独立。2017 年より株式会社ShizukaTatsuno Studio を設立。家具、生活用品、ファッション小物のプロダクトデザインを中心に、企画からディレクション、ブランディング、付随するグラフィックデザインなど様々な活動を国内外で行っている。2021 年からは実験的なアート制作もスタートし活動の幅を広げている。
Photo:Aya Kawachi

[展覧会概要]
タイトル:exhibition「a moment in time –trees-」

デザイナー 辰野しずか 初めての書籍「a moment in time –ume-」上梓記念展示 
会期:2022年12月17日(土)~ 2023年2月5日(日)12:00-18:00 (日曜定休) ※2月5日は開場
会場:Karimoku Commons Tokyo 1F ギャラリースペース(東京都港区西麻布2 丁目22-5)
主催: Shizuka Tatsuno Studio
協賛: カリモク家具株式会社 
協力: LUFTZUG、Hayashi Takuma Design Office、uraku、 T THREE FARM、草木工房、山本真澄、にちようひん、松本摩耶、本多希久子
[書籍情報 ]
タイトル:a moment in time –ume– 

著者:辰野しずか 
初版第1刷発行:2022年12月16日 
定価:7,920 円(税込) ※表紙2バージョン 
発行:株式会社Shizuka Tatsuno Studio 
執筆:筏久美子(TOTO ギャラリー・間)、皆川明(ミナ ペルホネン)、土田貴宏、辰野しずか
翻訳:野見山桜 
翻訳補佐:朴加代子
写真:ゴッティンガム
クリエイティブディレクション:辰野しずか、林琢真(Hayashi Takuma Design Office)
グラフィックデザイン:林琢真(Hayashi Takuma Design Office)
編集:株式会社Shizuka Tatsuno Studio
校正:阿部田美樹、三條陽平(ORDINARY BOOKS Co.,Ltd)、石崎由子

INFORMATION

Designer Shizuka Tatsuno
Writing KIDZUKI

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