街を起点に「木」の可能性を探るプロジェクト「KIDZUKI Local」。玉川大学芸術学部のゼミが取り組む、ある街の地域活性化のプランとともにはじまり、KIDZUKIチームともセッションをおこないながら、学生たちによるリサーチと開発が実現へと至りました。そのプロセスを振り返るとともに、街の賑わいをつくるための「木」の役割、これからの可能性についてのアフタートークを収録しました。
玉川大学の「Tamagawa Mokurin Project」とおこなう木を媒介とした相互活動の協力のひとつとしてスタートした「KIDZUKI Local」。玉川大学芸術学部のメディア・デザイン研究のゼミの授業にて、ある街のにぎわいを創出するための施策とそのために木の家具の制作が企画され、KIDZUKIでは学生のアイデアを具現化するために材の選定や技術面、コミュニケーションデザインのサポートで参加してきました。
今年4月に家具「floow(フロー)」が完成し、街の駅前の複合公共施設内のウッドデッキテラスに設置。その後6月に同地域で開催されたお祭りの会場に移設し、そこで行う企画もゼミ生たちが考案・実施しました。このような多世代交流のあるコミュニティづくりの一端に、「木」がどう存在したのでしょうか。本プロジェクトを推進した玉川大学芸術学部アート・デザイン学科の講師、堀場絵吏先生と、堀場ゼミ生のひとり、吉田峻晟さんを迎え、KIDZUKIコンセプトディレクターの鈴野浩一さん、KIDZUKIプロジェクトチームの中村昭子さん(三菱地所ホーム)とともに振り返り、街と木の関係性や可能性を探ります。
INDEX
「この場所にあるから使いたい」と思ってもらえる、地域のための木製家具づくり
KIDZUKI/鈴野(以降S):「駅前の複合公共施設にはどのくらいの期間設置したのですか? 設置後の様子や利用者の声を聞きたいですね」
玉川大学/吉田(以降Y):「今年の4月に約2ヶ月ほど設置しました。設置後も何度か訪問した際に、利用している方からの”かわいい”という声や、施設の職員さんからは、常設してここで開催する展示などの什器としても活用したいという声もいただきました。今回は設置期間が限られていたのですが、この家具が、”この場所にあるから使いたい”と思ってもらえる地域のための家具になれたのではないかなと思い、すごく嬉しかったです」
玉川大学 / 堀場先生(以降H):「中高生が会話をしながら勉強したり、職員さん同士の打ち合わせやレクリエーションの場所としても活用されていました。手すりの高さのレベルで座ると景色が開けるので、気持ちよく休憩もできるみたいです。玉川学園の理事長など、関係者も見に行ってくださり、シット&スタンドデスクの教育環境構築の観点からも、座って使用する机と立って使用する机との組み合わせがおもしろいという話もあったようです。家具自体だけでなく、KIDZUKIと一緒に活動しているというところにも興味を持っていただいた方も多かったように感じました」
S:「教育の視点からも注目された家具になったのですね! お祭りの会場に設置した際はどうでしたか?」
Y:「お祭りで僕たちが企画したブースは、ずっと人が絶えなかったですね」
H:「ここでは竹炭のワークショップや消しゴムハンコづくり、甘茶の販売を行いました。その他に出ていたテントの中でも唯一座って休憩できる場所だったので、特にお客様が多かったように思います。ワークショップにはお子さんも参加いただけたので、家族連れも多かったですね。家具を利用いただいた方にもお話をうかがったのですが、『この街のシンボルでもある川がモチーフになっているのがうれしい』と言っていただいたり、その前に複合公共施設に設置していたことを覚えている方も結構いらっしゃったんです。2ヶ月複合公共施設に置いた効果はあったようですね」
S:「いい実績になりましたね。(ワークショップの写真をみながら)ワークショップの場所で占められているから、甘茶を飲む人のベンチが少し足りなかったかな。でもこの家具を使っていろんなことが行われたんですね。この家具は現在大学に置いているんですか?」
H:「一定の場所に常設はしていなくて、オープンキャンパスや教員の研修など、必要な用途、場所で使用しています。産学連携プロジェクトとしても、リレーショナルデザインの視点からも密度の高い提案となっているので、先生方からも好評で、広報関係の露出も多いみたいです」
ーそして、 一番最初のデザインから制作プロセスを振り返ります。
重なり合うことで、固定し合う家具「floow」ができるまで
KIDZUKI 中村(以降N):「最初のデザインと完成形を比べると、とても変わりましたね」
S:「最初のアイデアはスツールでしたよね」
Y:「はい。設置場所の広いウッドデッキの中で持ち運びながら使うことをベースに、そこから施設の外、たとえば川の周りなど街のさまざまな場所で使えるように広がっていけば面白いのではないかなと考えてデザインしました」
S:「でもこれだとあまり場所は変わらなそうだね、とか、持ち運んで手すりの方でこの上に乗ってしまうと危険ではないかとか、そういう議論がありましたね。設置する場所がどんな場所になればよいか、目的があるプロダクトのためのアドバイスをKIDZUKIではさせてもらいました。そこからブラッシュアップして、強いデザインになったとおもいます。頑張りましたね!」
Y:「正直、最初のデザイン段階では全然しっくりきてなかったんです。これでいいのかなって思いながらやっていました。企画の中間発表のときに、KIDZUKIの皆さんから、実際設置場所に半日とか1日行ってみたら? というアドバイスをもらって、個人的に何度か訪問したんです。その際に、施設を利用してる人たちのことを自分ごととして捉えていなかったということに気づいたんです。自分だったらここにどんな家具があったらよいか、どんな家具があればこのウッドデッキテラスに出たいか、考え直していったんです」
Y:「その中で、この設置場所に”角を作る”ということを考えました。リサーチでこの街を何度か訪れた際、川沿いの道の端でお母さんたちが集まっておしゃべりをしている光景を目にしたんです。この”角”=”道の隅っこ”がヒントになりました。設置場所の広いウッドデッキテラスにも道の隅っこのようなちょっと寄り集まりたくなるような引っ掛かりが作れたらなって思ったんです。このテラスでは真ん中に置いて、川の流れのようなデザインにしようなど、アイデアが出てきました」
H:「今回のプロジェクトを通して、木への取り組み、木工のスキル、人にどう寄り添って家具を作っていくかということを考えられましたね。あとはこの地域のお祭りをきっかけに、同区にある小学校の6年生に向けた探究型学習の授業のテーマのひとつ”地域活性化”にもヒントを与えることができたようなんです。その小学校の先生が授業のためのリサーチでお祭りを訪問した際に、玉川大学のブースのことを知り、、木の活動のよさを教えてほしいという問い合わせがあり、次の取り組みに繋がりました。自分たちが住む街のご高齢の方を元気にしたり、多世代間の交流を活発にするという課題は、小学6年生の子どもたちも到達していました。最初は地域の方々が集うための椅子を作るというアイデアがあったのですが、小学生にとって椅子を作るのはすこしハードルが高かったので、木を使った別の取り組みとして、玉川学園の木を提供して、モルックづくりを行うことになりました」
ー地域の活性化のための活動の中心に、木のものづくりが存在していることが興味深いです。こういった活動において、木にはどんな魅力や可能性があるでしょうか。
木を共通の素材にしたからこそ生まれる、街と人のコミュニケーション
H:「木の活動の話が小学生にまで繋がっていったということを考えると、木は誰もが扱える素材なんだと改めて思いました。素材がスチールやプラスチックだと、とたんにものづくりができなくなると思いますし、小学生が素材を理解するのは難しいと思うんです。構造にしてくと加工や成形など難しいかもしれないですが、木を彫ったり、細かくしたり、組み合わせて別の形にしたりと、木を共通の素材にしたからこそ生まれたコミュニケーションだということを感じました。そして子どもたちにとっても身近で、安全に扱いやすくて丈夫なことも魅力ですよね」
N:「なるほど、確かにそうですね。小学6年生だったらでもう木で工作したことはきっとありますよね。木だから加工しやすいんだって認識はもう持っていそうですね」
Y:「木ってやさしさが生まれる気がします。この『floow』を樹脂やステンレスなど別の素材で作っていたとしたら、こんなに人が集まるような家具にはならなかったのではないかと思っています。木は、人の拠りどころとして、すごく安心感のある素材だなと完成後に改めて感じました」
H:「生きてる感じがしなかった?」
Y:「しました! 木ってこんなにしなるんだとか、こんなに無茶しても割れないんだとか。木は生きていると感じましたね」
N:「最初のアイデアはスツールでしたが、”地域の人が集うこと”という当初のテーマを改めて考えて、人の流れを生むこの大きな家具ができたんですね」
S:「このテーマをもとに、うまくまとまってよかったですよね。プロダクトだけでなくて、グラフィックやイベント、ワークショップの企画なども重ねながらチームでできたということも、よい体験だったのではないかと思います。そういった領域が違う学生が集まっているゼミということもおもしろいですね。堀場さんのゼミでは、今後も木を扱うことは増えそうですか?」
H:「デザインによる地域振興をミッションにしていて、それを実施するということをベースにゼミ活動を行っています。木に限定しているわけではないのですが、別の街で計画的に伐採した木のその後を一緒に考えるなど、木のプロジェクトは増えていますね。3Dのプロダクトデザインができてなくても、小さなスケールでものづくりが叶うというのも、木の特徴なのだと思います」
今回の玉川大学とのプロジェクトを振り返って気づいたこと。それは「地域活性化」と「木」という、一見直接イコールでは結びつかなさそうなふたつが、実はとても密接であり、他の組み合わせでは実現できない成果を生むということ。木は、子どもから大人まで誰もが想像でき、身近であり、安心ややさしさを与える。そしてわたしたちの暮らしにごく自然に存在してくれる。これまで当たり前のようでいたことを、作る人も、使う人も今一度実感することができるのではないでしょうか。
街を起点に考える「木」の可能性ー「KIDZUKI Local」は、これからも場所や形を変えながら、さまざまな広がりを見せていきそうです。