2024年11月23日(土)に開催された、KIDZUKI主催の参加型イベント「KIDZUKI CARAVAN」Vol.3。今回は、東京・代官山の『アークテリクス トーキョークリエイションセンター』にて開催。アウトドア、ライフスタイル、デザイン、建築、レジャーなど、今回もさまざまな視点から「木」とのつながりを紐解きます。
第3回となるKIDZUKI CARAVAN。今回もゲストスピーカーはもちろん、その開催地からも木とのつながりやテーマを感じさせるべく、企画が進められました。第1回目の東京学芸大学、そして特別編となった第2回目のKarimoku Commons Tokyoを経て、第3回目開催地は、2024年5月に東京・代官山にオープンした『アークテリクス クリエーションセンター』。KIDZUKIでは天然魚梁瀬杉発掘プロジェクトとして協働。本施設の内外装を担当したトラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんのデザインによる、魚梁瀬杉で作ったベンチがこの施設の屋上に設置されています。世界で3つ目であり、北米以外では初となる同ブランドのクリエイションの拠点というこの場所で、木、山、自然といったキーワードと、登壇したスピーカーの皆さんの言葉が交差し、また多くのあらたな気づきが生まれた一日となりました。
今回のファシリテーターも、KIDZUKIのコンセプトディレクターである鈴野浩一さんと、MCであり「木の絵本」の連載を手がける山中タイキさん。オープニングトークでは、約2年半のKIDZUKIで出会った人や活動プロジェクトを振り返ります。そして今回は5名のゲストスピーカーが登壇し、それぞれの活動領域から考える木や自然のことを語り、対話がおこなわれました。
INDEX
KEYNOTE 01 「Arc’teryx Tokyo Creation Center」
ハワード・リヒター(アークテリクス トーキョークリエイションセンター バイスプレジデント)
『アークテリクス クリエーションセンター』のバイスプレジデントであり、本施設のプロジェクトのリードを担ったハワードさん。ブランドのフィロソフィや開発拠点を日本に置く意義を、アウトドアそして自然との関わりという視点とかけあわせながら語りました。
「この建物ができるまでの長い道のりを一緒に歩んでもらったKIDZUKIとこの会を開催できたことを嬉しく思います。アークテリクスの美学やデザインの言語は日本のものづくりへの考え方と共鳴するものがあると思っています。そして日本では山や自然をレジャーとしてだけではなく、もっと精神的なつながりを持っていることがユニークだと感じています。そういった考え方からも、ものづくりにおいて多くを学んでいます」
KEYNOTE 02 「木とカタチ」
太田 翔(Studio Sho Ota)
現在オランダを拠点に活動する、デザイナーの太田翔さんは、DESIGNTIDE TOKYOへの参加で帰国中のところ急遽参加が決定。日本で木製家具の量産に携わっていた経歴を経て、それとは逆でユニークピースのプロダクトを作る現在の活動の意義や楽しさを語りました。
「オランダで僕の仕事相手であるギャラリーに来るお客様は皆ユニークピース好き。日本の家具工場で働いていたときは、100個作るとしたら100個が全て揃っていないといけなかったけれど、今は全部違うことが個性になっていて、そのギャップを今は楽しんでいます。基本的には無垢の木をつかってきたので、この素材でしか表現できないようなことを今後もやっていきたいです」
KEYNOTE 03「木と作庭」
山口 陽介(西海園芸代表)
京都の庭師の元で修行後、イギリスに渡りガーデニングを学び帰国。現在は出身地である長崎を拠点にしながらも、国内外をフィールドに作庭をおこなう山口陽介さん。今回のキーノートでは庭の歴史をたどりながら、作庭とは何か、庭と自然、木とのつながりについて自身の考えを語りました。
「庭の歴史を勉強してきて、今現代でいろんな表現をやらせてもらって最近よく思うのは、やっぱり人は自然が好きで、欲しているんだろうなということ。だから、本来庭師という職業は、人と自然をつなげる役割で存在していたんじゃないかと思うんです。わたしたちが身近に感じられる木や自然ってなんだろう、ということを常に考えながら活動を続けています」
KEYNOTE 04「木と山と日本」
照井 大地(山岳ガイド)
公益社団法人 日本山岳ガイド協会の認定ガイドとなってからヨーロッパやアルプスで登山、スキーツーリングを経験し、現在はアークテリクス契約ガイドとしても活動する照井大地さん。多いときは年間約300日は山に入っているという彼だからこそ体感する自然や木、山の現状、そして私たちが考えるべきことを語りました。
「雪が少なくなって、高標高にも木が生えて広い斜面が侵食されるなど、昔からの山の景色がどんどんなくなっているのが現状。そして登山をする人は増えているのに、山を整備する人は減っている。そういったことを、自分はずっと山の中にいるので、肌身で感じています。その中でたとえばプロダクトづくりにどう反映するかなど、自分なりの木との関わり方で、これからもっと考えていくことになると思います」
KEYNOTE 05「木と循環」
佐野 文彦(Fumihiko Sano Studio)
数寄屋建築の名匠のもとで大工として弟子入りした後独立し、現在は建築家・美術家として独自の技術と感覚を活かし活動する佐野文彦さん。「銘木」と言われる高級木材を扱ってきたこと、そして幅広い領域でリサーチと実践を続けてきた経験から、今彼が考える「木」に関する現状と課題を、独自の多角的な視点から語りました。
「自分たちの目の前に広がっている山と、その山に実際に木を植えて育てている林業との間に、ものすごい距離があると感じています。その距離を埋めるためにも、あたらしい評価や価値が生まれる、夢のある林業みたいなもの考えていくべきなのかなと。そのために何をすべきかはまだ僕もはっきりは言えないけれど、そのための準備をしようと思っていますし、今日集まった皆さんの活動や、知っていることがあればぜひ教えていただきたいです」
こうして5名のキーノートプレゼンテーションが終了。そしてKIDZUKI CARAVANを締めくくるアフタートークに、今回はゲストが登壇。飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の代表取締役 CEOの岩岡孝太郎さんを交えて、一日を振り返ります。
「僕たちヒダクマでは曲がった広葉樹を活用していますが、年間数立米という量で、林業全体の量と比べると何も形になっていないような現状ではあるのですが、それでもその中で気づいて取り組む人たちがいます。そして彼らがまた別の場所で森林に向き合っているという話を聞くと、少しずつみんなの意識がアクションに変わっているという小さな手応えを感じています。”森は木材じゃない”というスローガンを掲げていますが、今日の話にもあったように、やはり木に触れてみるということは大切だと思いましたね。さまざまな課題への答えはまだなかったとしても、いろいろなことに気づくきっかけになるような話がとても多かったと感じています」
最後に現地参加者限定で、ハワードさんと鈴野さんによる、館内ツアーを実施。最初のキーノートプレゼンテーションでハワードさんが語ってくれたアークテリクスのフィロソフィと、日本、東京とのつながりを実際に館内を巡りながら体感する貴重な時間となりました。
改めて「木」に関わる人は多様で、だからこそおもしろいと感じられた今回のKIDZUKI CARAVAN。ゲストスピーカーの皆さんそれぞれの活動領域からの木や山、自然へのさまざまな視点や考え方は、きっと多くの気づきをもたらしたでしょう。プレゼンテーション後の懇親会では、参加者同士の会話も弾みこれまで以上に盛り上がりを見せました。今後も「木」をきっかけにあらたな場所や人のつながりを生む、KIDZUKI CARAVANの活動は続きます。
近日、KIDZUKI CARAVAN vol.3のアーカイブ視聴の公開を予定しています。日程については改めてWEB、SNSにてお知らせいたしますので、ぜひご覧ください。
PEOPLE
太田 翔
Sho Ota
オランダを拠点に活動する日本出身のデザイナー。飛騨高山で木製家具のデザインと制作に携わった後、さらなる知識と技術を求めてオランダに渡る。2018年にアイントホーフェン・デザインアカデミーで修士号を取得。同年に自身のスタジオを設立。日本で培った家具製作の経験を基盤に、効率性の枠を超え、美術的価値と収集対象としての魅力を備えた独創的なデザインを追求している。
鈴野 浩一
Koichi Suzuno
トラフ建築設計事務所主宰、KIDZUKI クリエイティブチーム・コンセプトディレクター 。1973年神奈川県生まれ。1996年東京理科大学工学部建築学科卒業。98年横浜国立大学大学院工学部建築学専攻修士課程修了。シーラカンス K&H、Kerstin Thompson Architects(メルボルン)勤務を経て、2004年トラフ建築設計事務所を共同設立。
山中タイキ
Taiki Yamanaka
1988年東京生まれ。専門学校卒業後にニューヨーク州立大学に留学。その後ロンドンの美術学校でイラストレーションを学ぶ。現在はラジオパーソナリティーやナレーターのほか、イラストレーションや絵本の制作を行っている。また、絵本専門店兼ブックレーベル「yackyackbooks」を立ち上げ、世界中の絵本やアート本を紹介している。