街を起点に「木」の可能性を探るプロジェクト「KIDZUKI Local」。その最初の活動は、玉川大学芸術学部のゼミが取り組む、ある街の地域活性化のプランとともにはじまりました。2023年の春にそのプラン実現を目指し、KIDZUKIチームともセッションをおこないながら、学生たちによるリサーチと開発プロセスを追います。
郊外戸建住宅地に、多世代のつながりを築くために
2022年10月8日、玉川大学の母体である学校法人玉川学園が運営する、木の輪を広げるプラットフォーム「Tamagawa Mokurin Project」と「KIDZUKI」は、木を媒介とした取り組みにおいて相互の活動を協力し、推進することを目的とした協定を締結。その最初の活動が「KIDZUKI Local」にてはじまりました。玉川大学芸術学部のメディア・デザイン研究のゼミが取り組んでいる授業にて、ある街のにぎわいを創出するための施策とそのために開発が希望される木のプロダクトの検討がおこなわれ、KIDZUKIでは学生のアイデアを具現化するために材の選定や技術面、コミュニケーションデザインのサポートで参加。秋からリサーチを進めてきた学生たちによる中間報告発表が12月に開催されました。
対象は、自然豊かな環境で、市内1位の⾼齢化率を有しながら要介護認定率が最も低く、⾃治会・町内会加⼊率が市内で最も⾼いゆえ、地域活動にも積極的であるという特徴を持つ街。その中で「多世代間コミュニティを築き、郊外戸建住宅地の活性化をはかるべく、持続可能な住宅地を実現するための取り組み」を推進するため、玉川大学でもリサーチと議論が重ねられ、この街の風土を生かしたコンセプトがまとめられました。
学生たちからの中間発表:自然と人、プロダクトをつなぐコンセプト
街の風土を活かし、シニア層だけではなく次世代につなぐために必要なことはなんだろうか? 学生たちがたどり着いたのは、街の豊かな自然、地域活動を活かして、木の根っこのように広がるコミュニケーションを促すためのアイデア。「プロダクト」と「イベント」でチームを分け、そのふたつの軸から考えたプランが発表されました。
①プロダクトチーム:Pick stool(ピックスツール)の設計
「Pick =選ぶこと、持ち運ぶこと」という意味を持たせ、街の豊かな⾃然と親しみ、⼈と⼈がつながるためのスツールアイデア。 コミュニケーションツールとしての「座る」というスツールの機能だけでなく、 「つくる」という過程で⽣まれるコミュニケーションに焦点を当てた。ー学生のプレゼンテーションより
主に駅前の複合公共施設での利用を目的としたプロダクト開発アイデアです。文化活動やスポーツ、研修、集会、サークル活動などさまざまな目的で利用できるこの施設は、昼間はシニアを中心に囲碁や歓談等で、夕方は学生を中心に習い事や学習の場としてにぎわっています。まさに多世代のひとたちが行き交うこの場所にプロダクトを設置することで、コミュニケーションがより活発になることを狙いとしています。
②イベント:地域のお祭りに参加し実施するイベント企画
区内外から多くの人が訪れ、郊外⼾建住宅エリアを活気づける市⺠発の魅⼒的なイベントに注目。持続可能な住宅地を実現するために、この街の郊外⼾建住宅エリアをより魅⼒的に感じていただき、若年層の新規⼊居者の獲得や、多世代交流のあるコミュニティへとつなげるきっかけとなる場を計画する。ー学生のプレゼンテーションより
街のさまざまなイベントの中から選んだのは、紫陽花を通じた街おこしイベントへの参加アイデア。若年層や新規参入のひとびとにも楽しんでもらえるよう、地元のコーヒーショップと連携しておこなうフリーコーヒーのサービスや、竹を使ったデザインワークショップ等を企画し、そのイベントで駅前複合公共施設のために開発したプロダクトを活用することを想定。場所づくりをおこなうことで、本エリアの活性化を狙いとしています。
最終発表に向けたKIDZUKIによるアドバイスと展望
こうした学生の企画アイデアのプレゼンテーションを受け、KIDZUKIチームともセッションがおこなわれ、よりよくするための意見が飛び交います。老若男女が使用することに対するサイズ感や安全へのさらなる検証を踏まえたブラッシュアップの必要性とともに、KIDZUKIのコンセプトディレクターであるトラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんから、ものづくりにとってとても大切なアドバイスがありました。
「今回は施設のテラスという設置する場所がすでにありますが、ものをデザインする前に、“ここがどんな場所になればいいだろう?”ともっと想定することが必要だと思います。例えば、囲碁をさすシニアが多いということをせっかくリサーチできているのであれば、それに特化したプロダクトにするなど、コミュニケーションを促す家具を場所にあわせてもっと具体的に分析するといいですね。現状は、このスツールというプロダクトありきのアイデアになっているように感じたので、テラスの気持ちよさなどこの場所の印象からはじまり、次にプロダクトを置いた風景をイメージして最後にプロダクトを開発していくという順序で考えるとよいのではないでしょうか」
木のプロダクトを実際に使う人たちと、そんな彼らでにぎわう街の風景をもっと具体的に思い描き、そこから生まれるデザインを考えていく。この中間発表を経て、改めて学生たちが向き合う課題も明確になりました。次回2023年1月におこなわれるプロジェクトの最終発表会に向け、街を起点に考える「木」の可能性が、ようやくひとつの形へと結びます。