連載:木の建築を歩く Vol.1 銘建工業:50年目からのスタート - KIDZUKI
Category木のケーススタディ
2022.11.24

連載:木の建築を歩く

Vol.1
銘建工業:50年目からのスタート

木造・木質化をテーマに建築を巡る連載「木の建築を歩く」。建築物としての美しさやそこに込められたコンセプト、関わる人たちの想いに触れながら、これからの木造建築へのさまざまな可能性を見出します。第1回は岡山県真庭市の〈銘建工業本社事務所〉。CLTを使ったデザインコンペをきっかけに建設の実現へと至ったという同社の新社屋は、社員のアイデアとともに作り上げられたもの。この場所を起点に、未来に残すべき木造建築像、そして会社という場所の在り方など、またあらたな見解が広がります。

きっかけは、CLTを活用したデザインコンペ

岡山駅から車で北上すること約1時間半。鳥取県に隣接する真庭市に入り、国道313号線・通称「ロマンチック街道313」沿いに突如、一面のガラス窓とそこに配された斜め格子状の木がひときわ目を引く建物が現れます。ここが同市に本社と工場を構える〈銘建工業株式会社〉です。同社の創業は1923年。製材所として事業をスタートし、現在は「集成材やCLTを中心とする構造材の製造・販売」、「大規模木造建築の構造設計~施工までの一環対応」、「バイオマス発電等による材の有効活用」という3つの事業を主におこなっています。

2020年に完成した〈銘建工業株式会社〉の本社事務所外観。斜め格子とV字型の梁と屋根による架構システムが目を引くデザインは、真庭市のランドマーク的存在だ。Photo:すえひろフォトスタジオ 野上仙一郎

この新社屋は、まさに同社が手がける事業と理念が詰まった建築物であり、事実、訪問者やクライアントに木造建築の魅力を直接伝えられる場としても活用しているのだそう。同社が集成材の製造を開始した1970年から、ちょうど50年目という節目にあたる2020年に竣工したという本建築にまつわるストーリーは、一般社団法人 日本CLT協会が主催する「CLTデザインコンペ2017」をきっかけにはじまりました。同協会は、CLT(Cross Laminated Timber)やCLTを用いた建築物の普及を通じて、木造建築物の可能性を広げるとともに、森林資源の有効活用や循環型社会の実現に向け、さまざまな活動をおこなっています。2014年の設立から3年、国産のCLTの基準化や法制度も整ってきた頃、さらなるCLTの発展のためデザインコンペを開催。「事業所部門」の募集概要となったのが、このコンペの協賛企業でもあった〈銘建工業株式会社〉の本社事務所の設計プランでした。

最優秀賞を受賞したプランの模型。末廣 宣子((有)エヌ・ケイ・エス・アーキテクツ)/桝田 洋子((有)桃李舎)

「1,000㎡前後の中規模オフィス」「CLT長尺材の活用」というテーマ設定のもと、35チームから応募があり、4名の審査員の審査のもと最終選考に残った6チームの中から〈NKSアーキテクツ+桃季舎〉が最優秀賞を受賞。彼らのプランが設計契約へと至りました。そしてこのコンペをきっかけに、社内の各部署から若手社員を選抜したプロジェクトチームが発足。社外パートナーと連携しながら、新しい素材を使った新しいオフィスづくりが実現したのです。

「100年後も使い続ける」オフィスのための多様なアイデア

オフィスの外観を一目見るだけで伝わってくる、ダイナミックかつユニークな印象と「木」の存在感。そのディテールには、素材と構造を知りつくした〈銘建工業〉だからこそのこだわりと、社内プロジェクトチームによるオフィス環境にふさわしい機能、そして働き方へのアイデアが詰まっています。

シンボリックな菱組と呼ばれるアカマツ集成材の斜め格子の窓。
常に自然光が入る南側の窓から、自然豊かな山々を望む。

「今まではお客様に来社いただいても、”こんなことができます”というのは写真でご紹介することしかできませんでしたが、この新社屋ができてからは、ショールーム的な役割で実際に見てもらえるようになりました。例えばこの剥き出しのボルトも、デザイン的には見えない方がよいと思われがちです。でもうちは基本木の骨組みを作る会社ですし、構造材がそのままデザインになっている空間の方が自然です。そんなふうに構造をわかりやすくお話しできるようになりました」

そう語るのは同社の中島洋さん。コンペの発足時、CLT協会に出向中だったということもあり、ゼロ地点の段階から本プロジェクトに携わってきました。

構造材であるCLTを前面にあらわしたオフィス空間。3×12mの大判のCLTを最小枚数で構成し、その接合部分の金物もそのまま露出。デザインの魅力と将来的にメンテナンスしやすい空間であることが表現されている。

「月に1回、社内のプロジェクトチームと社外のプロジェクトマネージャー、設計チームが集まって進めていきました。当初社員は“自分の部署の席はここがいい”とか“会議室の椅子は何脚”といったように、ただ指示をするような打ち合わせだったのですが、他のオフィス見学に行ったりチームで合宿をしたり、建築のことについて学んでいくうちに、もっと自分たちの思うような建物を建てていいんだという気持ちに変わっていきました。その中で“100年間使い続けられるようなオフィスにしよう”というコンセプトが生まれ、自分たちの未来を考えながら楽しく会話ができるようになっていったんです」

建てる前に、運用の面も見据えて何度も会話を重ねたことで、新社屋に引っ越し後、空間とともに働き方もよい方向に変化していったのだそう。実際に使用する社員も快適に過ごしているようです。

「外の様子がわかり、天気や季節を感じられるようになり、気持ちよく仕事をすることができる」「広くて洗練された空間で、心にゆとりを感じることができる」といった声が多く、この木材が織りなす空間が自然と快適な働き方に導いてくれています。

トップライトからも自然光が入る開放的な吹き抜け空間で、天気のよい日中はほぼ照明は不要。デスクライトと使い分けている。
2F大会議室の暖色系のライン照明。調光が可能で居心地の良さを優先。場所によって光の取り込み方も工夫されている。

また、「個人のデスクの他にフリーアドレスのスペースもあるので、ちょっとした打ち合わせができて便利」「オリジナルで制作した1,800mmという幅の広いデスクのおかげで、前よりも仕事がしやすい」という声もあがっています。このように、オフィス構造はもちろん、細部へのさまざまなこだわりが、社員一人ひとりの働き方にポジティブな変化を与えられたのは、社内プロジェクトチームの存在と成長があったからこそ。「木をつなぐ・人をつなぐ」というテーマが体現されています。

2Fまで吹き抜けた一体的な大空間でありながら、菱組の仕切りや段差の付け方で、個の作業の集中も妨げないオフィススペースが実現。
2Fの大会議室もガラスで仕切り、北側の窓からの開放的なつながりをキープ。2Fはフロアを回遊できるようになっている。

未来の木造建築への想い

このプロジェクトをきっかけに、CLTを扱う会社だからこそのこれからのCLTの活用を含めた木造化の今、そして未来へ向けた課題や展望も具体的に捉えています。

「CLTの需要は増えてきていますが、数字でいうとまだまだこれからというところです。でも、ここ1、2年で高層の木造建築の高層も増えてきていますし、民間の大きい企業も木造に意識を置きはじめています。今まで集成材の活用は住宅がメインでしたが、人口も減り、住宅が減っていく日本の現状を考えると、住宅以外の建築の部門にウェイトをかけていくべきかなというところです。高層の木造建築というのはこれまでなかったものなので、設計できる人が少ないことも課題だとは思いますが、SDGsや脱炭素の観点からもCLTは非常にフィットしている素材。バイオマス事業も20年以上前から地道にやってきて今、地域とも連動してさまざまな取り組みにつながっています。だからこそ、“コストや時間がかけて、頑張った”と1回だけで終わらないように、いかに形にし続けていくかが我々の頑張りどころではないかと思っています」

〈銘建工業〉の主となる3つの事業の比重は、時代や環境に合わせて変容をし続けます。「新しい価値を提供する」というスローガンを掲げる同社の活動は、50年目を節目にまた革新的な一歩を踏み出したようです。

INFORMATION

Company 銘建工業株式会社
Photo Ko Tsuchiya
Writing KIDZUKI

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