「木と暮らす」Vol.3 木のキッチン - KIDZUKI
Category木のケーススタディ
2024.12.10

「木と暮らす」Vol.3
木のキッチン

生活者の視点で木を捉え、実際に暮らしの中に木を取り入れている人々とその事例を紹介する連載「木と暮らす」。今回は木のキッチンにフォーカスしました。周囲を森に囲まれた北海道・中川町にて、木を愛する家族が実現した理想のダイニングキッチンを通して、木の魅力はもちろん、手をかけながら木と暮らすことの豊かさに気づかされました。そんなオーダーメイドのキッチンをはじめ、「木」を取り入れたさまざまなキッチンを紹介します。

プロデューサーは奥さま!
“木を楽しんで使う人たち”と作ったキッチン

「これぞ木のキッチン」と言うべき事例があるということで、訪れたのは北海道の上川地方最北部に位置する町、中川町。人口約1,300人ほどの小さな町ですが、周囲を森に囲まれた林業が盛んな町で、森の再生力や更新力を生かした森づくりなど、森と人が共生するためのさまざまな取り組みも活発におこなわれています。そんな町に、入舩さん一家の家はありました。夫の基さんは中川町にある林業会社勤務、妻の絵美さんは樹皮細工のアーティストという、木ととても身近なご夫婦。4歳の娘さんと猫と一緒に暮らしています。2022年に完成したご自宅は、各所にふんだんに木が使われており見どころが満載ですが、まずはさっそくキッチンへ。

足を一歩踏み入れた瞬間から、優しくあたたか。リビングとともに2Fにダイニングキッチンがあるため、階段を上がりきった途端、窓の外に広がる豊かな自然と広い空という絶景と、この木のキッチンがシームレスにつながり、なんとも贅沢な気分になります。ガスコンロと食洗機がビルドインされたシステムキッチンの向かいには、キッチンと同じ高さの作業台とそこからすこし下がってダイニングテーブルにつながっています。水道まわりと機器の部分を除き、すべてが木製です。

「キッチンは自分が長くいる場所だし家族の中心となる場所なので、そこが好きなもので埋め尽くされている方が気分が上がるし、いいなと思って」と絵美さん。キッチンをはじめ、この木の家づくりには強い想いがありました。

「もともと祖父が大工で、実家も祖父が建てました。前職は住宅リフォームの会社に勤めていたこともあり、”家を建てたい”っていう願望が小さい時からずっとあったんです。それから森林に関わる仕事がしたいと北海道に移住してきて、自分も山に関わる樹皮細工の仕事をさせてもらうようになって、地元の木を使って”自分が建てたい家を建てたい”と思うようになったんです。地元の木だから特別ということではないとは思うのですが、この土地で育ったものが同じ土地で活かされるということに関心があって、私もそういう仕事をしていきたいなっていう想いがあったことがきっかけですね」

こうして家への構想が膨らむ中、基さんが勤める林業会社の社長さんが趣味で集めていたという、大量な木のストックの一部を譲り受けることで、家づくりが具体化。そして自分たちで使いたい材を選び、調達したというのはかなり稀なケースですが、そこから誰に設計・施工をお願いするかという点では、絵美さんのリサーチ力が光ります。設計は札幌を拠点に、北海道全域で活動するHOUSE&HOUSE 一級建築士事務所の代表・須貝 日出海さんに、施工は隣町の下川町を拠点にするキタ・クラフトの代表・加藤 滋さんに依頼。そして須貝さん経由で、ガージーカームワークスの木村 亮三さんにキッチンの制作を依頼しました。

「加藤さんは拠点が近いこともあり、もともと知ってはいたのですが、ちょうどキタ・クラフトさんのオープンハウスで実際に手がけた家を見て、”本当に木が好きでやっているんだな”と感じ、依頼を決めました。そして設計士さんを入れたいということもずっと夢だったんです。須貝さんはSNSで見ていて”この方に頼んでみたいな”と思っていた方(笑)。遠いからエリア外かなと思いつつも連絡してみました。どうしても地元の木を使いたいというのはかなり変わった要望だとは思うのですが、それを受け入れて、木を楽しんで使ってくれる方にお願いしたかったんです。実際に皆さんが楽しんで作っている感覚がすごくあって、それがとても嬉しかったです」と絵美さん。彼女の木へのこだわりと見事なプロデュース力によって、長年の夢が現実へと至りました。

“自分で手入れができること”こそが
最大のメリット

「北海道の樹種見本キッチン」と名づけられたこのキッチン。その名の通り、イタヤカエデ、サクラ、カバ、クルミ、キハダ、ホウという6種類の広葉樹を使って作られており、すべて中川町産材。制作は旭川を拠点とするオーダーメイドファニチャーブランド〈ガージーカームワークス〉がおこないました。担当した木村さんは、入舩さんが選んだ家づくり用のさまざまな樹種の中から真っ先にこの6種を選択。通常の家具づくりでは樹種を混ぜませんが、今回は入舩さんの想いも汲み取り、より多くの樹種を使ってダイニングキッチンにまとめあげるという異例のプランを出しました。

「とにかく材料優先で有効に活用できるように設計をしましたが、木材は水分が出入りすると膨張したり伸縮したりと動くので、反りを止めるために裏側に一部天板を入れるなど、あちこちに木の動きを逃がしてあげるような工夫をしています。木の特性を考えて作ることが面倒だという人もいるかもしれませんが、ここはこういう材料を使うから、それに合わせてどういう構造にして、どう意匠に落とし込んでいくか、それを考えて作ることが面白いんですよね。私たちの工場のメンバーもみんなものづくりが好きなので、すごく楽しそうに作っていました」とガージーカームワークスの木村さん。

「リビングと一体的に、家具の延長で作っていけることが木で作るメリットでもありますよね。そして木だと作業中の音もすごくいい」と木村さんに依頼した設計士の須貝さんも続けます。

竣工時のキッチン。色の違いからも樹種の違いが見て取れる(提供:ガージーカームワークス)
作業台の前後は収納棚に。真鍮の引手やビスなどに、ガージーカームワークスならではのデザインが施されている。
食洗機の蒸気や熱による劣化を回避するために天板の裏側にステンレスを張り、緻密に計算された隙間を作るなどの工夫が随所に。

入舩さんがこのキッチンを使い始めてから丸2年が経ち、その実際の使い心地をうかがいました。

「木なので、もっとメンテナンスに手をかけないといけないかと思っていたのですが、意外と普通に使えていますね。水気をそのまま置いておくとシミになってしまうことはあるので、なるべくすぐ拭きとるようにしています。だからいつもキレイに保つことができるので、かえってよいですね(笑)。コンロ周りははねた油が染み込んで少し色が濃くなっていますが、オイルでメンテナンスをすれば汚れている感じもないし、問題ないですね」と絵美さん。

木村さんも、木を自分でメンテナンスすることをポジティブに捉えています。
「キッチンにはオイル塗装をかけています。メンテナンスフリーな木材塗装でいうと、一般的にウレタン塗装が主流ですが少しお手入れは必要ですけれど、オイル塗装をおすすめしています。具体的には天板にだけはオイルの他にセラミック系の塗料も混ぜて強度を上げています。お手入れをしなくてはいけないというのは、一見面倒だしデメリットなのですが、ポジティブに考えるとご自身でお手入れができるという利点があるんです。ウレタン塗装だと、切れた塗装の下に水が入ったらあっというまに傷んでしまいますし、自身でのメンテナンスが難しく塗装屋さんに頼まなくてはなりません。ですので、自身でのお手入れを前提とした上でオイル系の塗装にしたほうが、長く使えると考えています」

お気に入りはこのイタヤカエデの天板。繊細かつ不規則な木目が特徴的ですが、狂いやねじれも起こりやすいということから、天板に使いたいけれど向いていないのではという懸念がありましたが、木村さんに相談のもと、実現。

「特に作業台を使うことが多く、ここをよく拭いているからか、一番ツルツルしている感じがします。来客があると”オイルをかけよう!” というタイミングにもなりますし、また表情が変わった木目を見つけたりして。経年変化を楽しんでいます」と、入舩家も、まさにメンテナンスそのものを楽しんでいるようです。

身近な木で作り上げた完全なるオーダーメイドのこのキッチンは、特に都会に住む人にとってはなかなかハードルが高いプランかもしれません。しかし、その魅力や実際の使い心地の声をうかがうと、木を取り入れることをもっと楽しく、もっとポジティブなものに捉えることができそうです。



まるで大きな「木の家具」
KIDZUKIが注目する多様な木のキッチン

使い勝手や機能を追求すればするほど、装置や器具などの存在感も際立つキッチンですが、木をコンセプトにインテリアや家具の一部と捉えると、選択肢がいっそう広がりそうです。マンションにも取り入れやすいメーカーの規格型から、こだわりを詰め込んだ職人によるオーダーメイドまで、さまざまな木のキッチンの一部をご紹介。

高い技術を持った職人工房〈gauzy calm works〉のオーダーキッチン

今回の取材で訪れた入舩さんのご自宅のキッチンも手掛けた〈ガージーカームワークス〉。旭川市内にショールームと工房があるほか東京都内に事務所を開設し、一般住宅から店舗の内装計画まで幅広い製作を行っています。個人工房として創業した同社だからこそ、技術の高い職人によるものづくりによって、理想のキッチンをとことん追求できそう。


ガージーカームワークスのオーダーキッチン制作事例

豊富なサイズで取り入れやすい〈toolbox〉の木製システムキッチン

「自分らしい家づくり」のヒントになるようなユニークなアイデアを発信したり、オリジナル商品の開発・販売をおこなう〈ツールボックス〉のオリジナル木製のシステムキッチンシリーズ。面材はラワンとバーチ、シナから選べ、シンプルできっちりし過ぎない設計が特徴。ファミリーでも二人暮らしでもシングルでも選びやすい豊富なサイズ展開も嬉しい。


(写真左撮影:長谷川健太 提供:須藤剛建築設計事務所)
ツールボックスの木製システムキッチン

オーダーメイドから規格型までが揃う〈WOODONE〉の木のキッチン

広島県廿日市市に本社を置き、全国にショールームを開設する木質総合建材メーカー〈ウッドワン〉。自社で木を育て、木のある暮らしを通して自然と人と社会の循環をつくるためさまざまな活動も積極的に行っています。無垢の木を使い、キッチンを通して考える心地よい暮らしとそこに必要な最適な機能を追求したキッチンは、現代のさまざまな生活スタイルにもフィットしそうです。


ウッドワンの木のキッチン

INFORMATION

Photos Ryoichi Kawajiri
Writing Mana Soda

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