[コラム]山中タイキが選ぶ「木の絵本」vol.1:名作絵本 - KIDZUKI
Category木を知る
2024.04.04

[コラム]山中タイキが選ぶ「木の絵本」
vol.1:名作絵本

あなたが仲良くしている木はありますか?直接話しかけたり触れていなくとも、形が好みだったり、葉っぱや木の実を拾ったり、時に手入れをしたり。日々気にかけている木がありますか。移り変わる季節のなかで、ふと木の姿が目に入ることもありますよね。木はいつだって変わらずその場所にいます。おそらく、ひとと違って心変わりすることもなく。

「名作絵本」から感じとる、木の愛情

「木の絵本」の連載をはじめるにあたり、各回にテーマを設けることにしました。最初は「名作絵本」を。僕が10代の時に出会い、とても感銘を受けた一冊です。タイトルは『おおきな木』。

物語に出てくるのは、少年と一本のおおきな木。彼は木から葉っぱやりんごをもらったり、木登りをして楽しく遊んでいましたが、大人になるにつれて関係性が変わっていきます。木から遠ざかるようになる一方で、木は変わらず無償の愛を与えつづけます。少年がお金が欲しいと言えば、町で売るためのりんごを。家が欲しいと言えば、木の枝を。船が欲しいといえば、木の幹を。木はすべてを捧げ、切り株となってしまいます。少年が年老いて戻ってきたときには、木があげられるものは何もなく、切り株に腰掛けることができるだけ。それでも「それで木はしあわせでした」の言葉で物語が締めくくられる、木の惜しみない愛情を描いた作品です。

ひとと木の世界

いまでは世界的なベストセラーの『おおきな木』ですが、「すてきなお話だけど、短すぎる」「物語が悲しすぎる」「児童文学でもないし、大人向けでもないから売るのが難しい」など、大衆向けの”ハッピーエンド”な物語ではないため、受け入れてくれる出版社が見つかるまで4年ほどかかったなんてエピソードもあるんです。もしかしたら、子供の時にこの本を読んでもいまいちピンとこないかもしれません。大人になると、色々なものに線引きや区切りをつけてしまい世界が細かく分かれていきます。子供のときの切れ目のないシームレスな世界。木に対して友情を感じることは、特別なことではないのです。

けれど、大人になってからの木との関係は少し距離があるかもしれません。同じようで、どこか異なる世界。原題が『The Giving Tree』とあるように、木は私たちに食べものや道具、豊かな景観などたくさんのものを与えてくれています。自らの生活を見渡してみると、驚くほどに木から生まれたものばかり。異なる世界どころか、木に支えてもらっている世界に自分が生きていることを実感しています。(前回のコラムでも書きましたが、本も木からできているんです!) そして同時に、枝や幹が切られてしまえば簡単には元通りにはならない生き物だということも。隔てる壁を壊しひとつの世界へと戻すのは、やはり私たちですよね。

物語をきっかけに、木の未来を想像してみる

ぜひ訳者である村上春樹さんのあとがきも読んでみてください。同じ作家という目線でこの物語を読み解き、「おおきな木」のもつ余白や奥行きを語ってくれています。そして物語は何のためにあるのかということも。絵本は何度でも読み返すといいということは、このあとがきから教えてもらったことでもあるんです。冒頭でこの本に10代のころに出会ったと書きましたが、わかりやすいストーリーにもかかわらず、はっきりとした言葉には表せない読後感がありました。そんな時、村上春樹さんの綴る言葉で靄が晴れてくるようなところがあったんです。冒頭でこの本に10代のころに出会ったと書きましたが、わかりやすい物語にもかかわらず、はっきりとした言葉には表せない読後感がありました。それが村上春樹さんの綴る言葉で靄が晴れてくるようなところがあります。

いまあらためて読み返して感じたことがあります。一見悲しくもみえる物語も、もし続きがあるとしたら、切り株から新しい芽が生えてくるなんていうこともあるかもしれないと。そして美味しいりんごを実らせる、おおきな木に再びなるかもしれないと。その時には、木がもっと幸せを感じてくれるようになったらいいなと願わずにはいられません。

おおきな木 / シェル・シルヴァスタイン 村上春樹訳
出版社:あすなろ書房  
価格:1,320円(税込)

山中 タイキ(やまなか たいき)

1988年東京生まれ。専門学校卒業後にニューヨーク州立大学に留学。その後ロンドンの美術学校でイラストレーションを学ぶ。現在はラジオパーソナリティーやナレーターのほか、イラストレーションや絵本の制作を行っている。また、絵本専門店兼ブックレーベル「yackyackbooks」を立ち上げ、世界中の絵本やアート本を紹介している。

yackyack books https://www.yackyackbooks.com/

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山中タイキ

山中タイキ

Taiki Yamanaka

1988年東京生まれ。専門学校卒業後にニューヨーク州立大学に留学。その後ロンドンの美術学校でイラストレーションを学ぶ。現在はラジオパーソナリティーやナレーターのほか、イラストレーションや絵本の制作を行っている。また、絵本専門店兼ブックレーベル「yackyackbooks」を立ち上げ、世界中の絵本やアート本を紹介している。

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Photos Kohei Yamamoto
Writing Taiki Yamanaka

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