〈SHARE WOODS.〉山崎正夫 木と人をつなぐ木材コーディネーター - KIDZUKI
Category木と作る
2025.02.28

〈SHARE WOODS.〉山崎正夫
木と人をつなぐ木材コーディネーター

兵庫県神戸市を拠点に、「木」を中心に活動を続ける実践者がいます。〈SHARE WOODS.(シェアウッズ)〉の山崎正夫さん。地域材を活用したものづくりをおこないながら、木材コーディネーターとして森や木にまつわる課題に取り組み、そして人と人をつなぐ街づくりをおこなうその活動に触れました。

独立のきっかけとなった「カホンプロジェクト」

住宅や商業・公共施設などの木質系内外装材の販売や建築資材や木製品の商品開発、そして国産地域材を使ったプロジェクトのプロデュースやイベント企画運営等、「木」のものづくりから社会活動まで〈シェアウッズ〉の事業は多岐にわたります。同社を主宰する山崎正夫さんが設立時に感じた想いは、12年目を迎えた今、どのように変化しているのでしょうか。

神戸のハーバーランド駅から約10分ほど。古くから造船所などの工場が連なる港に面した地帯にSHARE WOODS.はある。

「前職は日本オスモにて、木材の輸入や塗料の販売の仕事をしていました。本社のあるドイツは環境意識が高く、当時からエコの文脈で塗料を売り出していたので、そういった自然素材やエコロジーについての勉強もするようになりました。でも勉強していくうちに、取り扱う木材自体はエコだけど、世界中の銘木をドイツに集めるということは、それらをコンテナに積み込んで、赤道を通って船で運ぶというコストや燃料がかかるとうこと。それだと事業のシステム自体がエコロジーではない、という矛盾に気づいてしまったんです。自分たちは外材ばかりを扱っていて、山のことも日本の林業のこともまったく知らなかった。そこから日本の林業のことを調べ始めました。当時、今から20年くらい前は、ほとんどが輸入した外材で、国産材は手つかず状態だったので、林業は衰退していました。高齢化だし、若者はいないし、死亡リスクも高い。業界がどんよりしていて、これはまずいと思ったんです」

もともと造船所だったというSHARE WOODSの工房

と、日本の山や木のことを考え始めた時のことを振り返る山崎さん。「これはまずい」という彼の察知はすぐに行動にあらわれました。当時住んでいた大阪にて、森林組合や材木屋の知人とともに「出前木工教室」をおこなうなど、木を使ったものづくりの活動からスタート。その中のひとつである「カホン」というペルー発祥の打楽器づくりが、後の独立への大きなきっかけとなりました。

「カホンを手作りしたら面白いんじゃないかというアイデアが出て、まずは人の反応を探るためにも“手づくりフェア”みたいな街のイベントに出店していたんです。そしたらちょうど、そこに来ていた東急ハンズのバイヤーさんがイベントのネタ探しに焦っていて(笑)、急遽2ヶ月後くらいの店舗イベントでワークショップをすることになったんです。当時東急ハンズで3,000円のワークショップってハードルが高いと思っていました。とりあえずワークショップ用のキットを10セットくらい用意して、ふらっと1、2組が来るくらいかな、なんてのんびり構えていたら、毎日朝から大行列ができて、整理券が配られているほどに。イベントの4日間、もう死にそうでした(笑)。カホンって知る人ぞ知る楽器ではあったのですが、買うと3〜5万円くらいして、当時めちゃくちゃ高かったんですよ。でも構造はすごく簡単なので作れなくもない、みたいなところがちょうどはまったんじゃないかな。それで『これ、いけるんちゃう?』ってなって、いろんな場所で街と人をつなげるような仕組みを作るための活動として、『カホンプロジェクト』をスタートしました。そしたら全国各地からオファーがたくさん来たんです。行ったことのない都道府県はないですね。まだその時はサラリーマンだったので、平日は会社で働いて、毎週末はカホンプロジェクトで全国を訪れてという日々は忙しかったのですが、いろんな地域の山関係の人たちと仲良くなったことが、シェアウッズの仕事のきっかけになったと思ってます」

写真提供:SHARE WOODS.

実績が後押しした、木材コーディネーターへの道

イベントへの参加がなかったら、ワークショップという形態自体目指していなかったかもしれないという山崎さん。縁あって急遽始まったカホンづくりですが、プロジェクトとして目指すのはワークショップを通して、森林と地域のつながりを創生することでした。

「僕たちが呼ばれたら、まずは身ひとつで行ってワークショップのやり方を教えます。材料はできれば現地で調達してもらうのですが、意外と森林組合と工場がつながっていないことが多い。つまり、ものづくりの循環が生まれる仕組みがない地域が多いことがわかりました。だからそういう地域には、僕たちのつながりを紹介して、人と人をつなげる。そうやってワークショップの準備をしていくんです。地域ごとのカホンプロジェクトをフランチャイズ化してロイヤリティをもらうというような、ビジネス的な仕組みはまったく考えていません。このプロジェクトをきっかけに、各地域の山と木工と消費者をつなげるような仕組みを作れば、もうちょっと山から木が出てくるんじゃないかなと思って。そこから独立して、木材コーディネーターの講座を受講したんです」

木材コーディネーターとは、兵庫県丹波の〈サウンドウッズ〉が運営する資格認定制度。森から街までの木材の流れを把握し、山主、素材生産業者、製材所、工務店、建主など木材に関わるさまざまな業態に垣根を超えて関わり、健全な森林を持続させることを目指す新しい仕事です。山崎さんは、平成24年度の基礎講座を修了し、令和4年度に認定木材コーディネーターの資格を得ました。

神戸市立名谷図書館(神戸市須磨区) 写真提供:SHARE WOODS.
タオカコーヒー(神戸市東灘区)    
神戸市役所1号館ロビー(神戸市中央区)

「木材コーディネーターとして自分は何をベースにしていくか特に決めてはいなかったのですが、前職でもおこなっていた木材を扱うという立ち位置から、いろいろなことをつなぐ役割を目指しました。でも材料だけ出していてもそこに付加価値はつけられないので、製品を作るようになったんです。現在の経済活動的には、家具や什器、フローリングなどの内装材などの材料の相談や制作がメイン。僕は作り手ではないので、家具など制作の技術がいるものに関しては、業務委託しているメンバーに発注して作るというやり方に変わっていきました」

山崎さんの最初のコーディネートとなったカホンプロジェクトをきっかけに、今も持続している成功例も多いそう。

「木材コーディネーターの講座を一緒の時期に学んだ、川端くんていう木こりがいます。彼は現在高知県の本山町に移住して林業をやっています。その中で自分でカホンプロジェクトを立ち上げて、今も小学校などでワークショップを開催しています」

山崎さん自身も今はイベント出展こそおこなってはいないが、大学のプログラムや子ども向けのワークショップなど、教育の分野に広がってきているといいます。

自分なりに、山や木と関わっていく

現在神戸を拠点とする山崎さん。2014年には神戸市公園緑化協会、神戸スマイルプロジェクトとともに六甲山の樹木の有効活用を目指す「KOBEもりの木プロジェクト」を立ち上げました。六甲山は、大阪城の築城などで伐採が繰り返されてきたことから、明治後半までは禿山だったのだそう。その後、林学博士の本多静六の防災計画によって大規模な植林がおこなわれましたが、防災という観点だったこともあり、林業の仕組みは発達しなかったといいます。つまりは植林から100年が経過し間伐の時期を迎えても、手入れが行き届かないとまた山は荒廃してしまいます。そんな山林を再整備するために、立ち上がったこのプロジェクトでは、防災上の理由から間伐された六甲の樹木を使った木製品の開発や、市民を交えたミーティング、森づくりを子どもたちに伝えるワークショップなど、さまざまな活動をおこなっています。そしてこの「KOBEもりの木プロジェクト」は神戸市防災課とともに、六甲山の森林資源を活用した木材製品の「神戸ブランド」の創出プロジェクトを実施。オリジナルで作った家具や什器は神戸市役所や公共施設等にも設置されています。

また、神戸市には「こうべ森と木のプラットフォーム 」があり、地域の森を育みながら、さまざまな人が森林に関わる機会を創出し、ストック・流通支援や伐採木情報の共有や木材活用に関わる人材育成などをおこなっています。シェアウッズはもちろん、森林所有者、整備士、木材を活用したいと思う人、行政など多様な団体、個人が参画しており、現在94団体、個人219人にのぼります。(2025年1月末現在)

神戸市HPより

「神戸には元々林業がないので、こういった仕組みができたのでしょうね。神戸市は結構力を入れていると思います。現市長の久元(喜造)さんも里山の近くで育った方で山が好きですし、副市長の黒田(慶子)さんは神戸大学で森林の生態系や病理学を研究していた方。そういう方のおかげでさらに加速してる感じがしますね。やっぱり役所の人にどういう人がいるかって、大きいんですよね」

行政や地域のさまざまな人たちと関わりながら、山崎さんは自分の役割を見出し、時代や状況に合わせて自身の考え方も柔軟に変化していっているようです。

「木材自給率を上げればよいということではなく、山は保全しないといけないということ。林業からこぼれ落ちた放置されている山は結構あるから、そういった普通の里山にもうちょっと価値をつけることが大切だと思うんです。それが僕の考えであり役割かなと。六甲の山は90%が広葉樹。それをどう活用するかということで、今、神戸が備長炭を作って、六甲のキャンプ場とかに販売できたらというプロジェクトも動いているんです。もともと材木屋なんで、木を燃やして燃料にするなんて一切考えなかったんですけど(笑)、木材を板にしたら必ず使わない部分が出てくるし、それを使わないともったいないってね。すごく考えが変わりましたね」

薪用の材を作るために、乾燥用に新たにビニルハウスを設置した

当時の環境意識に矛盾を感じ、日本の森林そして地域における課題を知り、少しずつ実践を重ねていった山崎さん。そんな彼に木は好きかとたずねてみました。

「好きかと言われたら、”別に”と言いたくなる気持ちもあります(笑)。自然が好きで、だから木が好きという感じでもないですし、ホームセンターに並んでいるような、大量生産されたパイン材などを見たり扱ったりするのも好きではない。”好き”というよりは”おもしろい”かな。ひとつひとつ全然違っていて、”この木はこう使えるけど、この木は使えない”みたいな景色を見るのが好きなんだと思います。それぞれの考え方や決め方でいいと思う。僕も、自分なりの木との距離感や関わり方があるから、今みたいな仕事ができているのだと思います」

PEOPLE

山崎 正夫

山崎 正夫

Masao Yamasaki

住宅や商業・公共施設などの木質系内外装材の販売や建築資材や木製品の商品開発、国産地域材を使ったプロジェクトのプロデュースやイベント企画運営等、「木」のものづくりから社会活動までをおこなう木質建材プラットフォーム「SHARE WOODS.(シェアウッズ)」の代表。認定木材コーディネーターとして神戸市の六甲山森林整備戦略に参画し、六甲山の森と人とをつなぐべくワークショップやプロダクト開発、ブランディングを手掛け、 地域材の流通、経済循環の仕組み作りに取り組む。

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INFORMATION

Company SHARE WOODS.
Photos Mina Soma
Writing Mana Soda

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