「木と暮らす」vol.1 住むほどに味わいの増す自然素材の家 - KIDZUKI
Category木のケーススタディ
2022.08.30

「木と暮らす」vol.1


住むほどに味わいの増す自然素材の家

「家時間」が見直され、ますます大切になっている昨今。人々が住まいに求めるものが多様化していく、その一方で、やすらぎやぬくもり、安心といった、家本来の普遍的な役割に改めて思いを致す機会もまた、多かったのではないでしょうか。やすらぎも、ぬくもりも、私たちが自然や樹木に触れたときに生じる素直な感覚と重なるものです。自分たちにふさわしい家と暮らしを求めた結果、「木」を選択したというご家族の住まいを紹介しましょう。

どんな家に住みたいか、たどり着いたのが「木」

都心ながら、歴史ある閑静な住宅街にあるAさんのお住まい。片流れの屋根にあたたかな土色の外壁のシンプルなファサードをオープン外構の木々が彩り、道行く人の目をひきます。ポーチの奥に見える玄関ドアはしっかりした木質。ポーチの天井も、イペ材を貼って仕上げました。

「木やアースカラーのこのイメージは、室内へと連続します。内装は、壁が珪藻土で床がナラ材のフローリング。外から内への流れを自然につなげたくて」

緑に彩られたAさんの家。木々が通りからの目隠しにもなっている

Aさんはご夫妻ともに美術や建築に造詣が深く、今回家を建てる際も、吉村順三など木造モダニズムの住宅への憧れが根底にあったそうです。「あの存在感を、今の新しい技術を取り入れながら再現できないものかと考えました」

そもそも木造モダニズムが好みなのは、そこに「住まい」としての心地よさを感じるから。ご自分たちの家をイメージしたときも、「マンションなどの謳い文句によくある“ホテルライク”ではない。ガラスやタイルなど硬く冷たい素材も違う。住んで心地いい家を求めていくと、自然と木の質感に行き着きました」とのことです。

ただ、木を使うといってもそこはやはりモダニズム、ご夫妻にとって「ナチュラル」や「ほっこり」はNGでした。「建築的なおさまりの美しさにはこだわって、木という自然素材を用いながら、細部がピシッと立った整った空間にしたいと思いました。今回依頼した三菱地所ホームの担当者も私たちの思いをよく理解してくれて、話し合いを重ねながら、丁寧で納得のいく家づくりができました」

木と珪藻土の内装で光と陰を楽しむ

光と陰影の妙。それがIさんの家の最大の魅力といってもいいかもしれません。まず、1階と2階の関係。1階は玄関を入るとホールの両側に個室や水まわりがありますが、全体に、外光の入り口を絞り込んだほの暗い空間です。天井もあえて低くして、落ち着いた雰囲気になるようにしました。こうした1階から折り返し階段を上がって2階に行くと、そこは三方から光が差し込む大空間のリビング。閉じて、開く。その効果を十二分に伝える設計なのです。陰影はまた、1階と2階のそれぞれにも設計されています。1階は、玄関を上がると袖壁越しに目に入る和室。

1階の下がり天井でダクトを隠し、個室に木製ハイドアを採用することで、あたたかみがありながらすっきりとした空間に
玄関脇の和室。建具を省いたので玄関が広く感じられる効果も。風呂上がりに休んだり、子どもが本を読んだり、用途を決めない部屋

「建具を省き、造作本棚の下部をあかり取りの窓にして、障子越しのやさしい光を取り込むようにしました。ほんのりと光が灯っているような印象です」

内装の美しさが際立つリビング。板張りの勾配天井が空間にダイナミズムと温もりの両方をもたらしている

ホールの内装も、珪藻土とナラ材、個室の木製ドアといった自然素材でしっとりと仕上げ、その内部に吸い込んだ光を含んでいます。そして2階は、リビングの壁がつくる陰影。素材となる珪藻土は骨材を調合して凹凸のニュアンスを強調し、光の反射を複雑にして表情を味わえるようにしました。

「この壁や壁にうつる光の模様を眺めていると、心が静まります」と、ご夫妻。壁の美しさはお二人のこだわり、つまり建築的な配慮にも支えられています。下地を厚くして目地をつくらないようにしたり、全館空調(エアロテック)の吹き出し口を目立たなくしたりと、「空間のノイズをなるべくなくす」工夫をしました。同時に、高さを抑えた造作棚と必要十分な家具のみを置き、壁面をたっぷりと見せる空間構成に。さらに、ここリビングではナラ材を床だけでなく天井にも使用しています。自然に包まれているような穏やかな空気は、この木質感によるところが大きいでしょう。

リビングで実現したかったのは「解放感と陰影の美しさ」だという

帰りたくなる、帰ると心がほどける「木の家」

入居して2年になりますが、ご夫妻は「今だにわが家を褒め合っている」と笑います。

「外から帰るとホッとします。無垢のフローリングが心地よくて、まず靴下を脱ぎたくなりますし。特にリビングは、暮らすほどに気持ち良さが深くなっている気がします。私は3階のアトリエで終日仕事をすることも多いのですが、一日中ずっと家にいても疲れません。木の効用は大きいですね」(夫)

「もともと樹脂は苦手なんです。新品のときがいちばんキレイで、それから後は劣化していく。でも、木材は時間とともに変化して、むしろ味わいを増していきます。経年変化と、肌ざわり。それらが私にとっての木の魅力です」(妻)

光の効果を考えて設けた小さな窓。室内から見ると窓に枝葉の揺れる陰が映り、つい見とれてしまうとか
2階バルコニーにも植栽スペースをつくり、いつも身近に緑を。これから育っていくのも楽しみ

妻が育った東京郊外は自然豊かな土地柄で、雑木林が身近でした。また、ご夫妻がそれまで住んでいたヴィンテージマンションも敷地内に200坪の庭があり、木々が日々の暮らしに潤いを与えてくれていたといいます。

「二人とも、きちっと刈り込まれた庭よりも雑木林のような自然な庭が好みです。この家の植栽も造園家にお願いして、四季折々の草木の自然な姿が楽しめるように計画してもらいました」

住むほどに風情豊かになる木のわが家を、Aさんご夫妻は心から慈しんでいます。

INFORMATION

Photo Yoshihiro Miyagawa
Writing Sachi Imai

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