森と市庭 遊びで活かす、林業のカタチ - KIDZUKI
Category木と作る
2024.01.30

森と市庭

遊びで活かす、林業のカタチ

「森とあそび 木とくらす」というスローガンを掲げ、東京・奥多摩を拠点とする〈森と市庭(いちば)〉。子どもたちに「センスオブワンダー(自然の未知を感じる心)」を磨いてほしいという想いのもと、東京の木で幼稚園や保育園の庭の緑化から遊具や玩具といった木育に関連したものづくりを行うほか、森を守り、木を学ぶ環境づくりも大切にしています。同社の立ち上げから在籍する取締役の菅原和利さんと森を歩き、彼らの活動への想いをうかがいました。

東京の森を活用する、森と市庭

「林業を柱にして、奥多摩の森林資源をどう活かしていくかということをこの10年やり続けてきました。創業当初は自社の製材所も社有林もまだなかったので、地域の方と連携しながらイベントやツアープログラムを作って、とにかくまずはいろんな人たちに奥多摩の森に来てもらうところからスタートしました」

そう語る〈森と市庭〉の取締役・営業部長である菅原和利さん。大学時代からサークル活動の一貫でまちづくりや環境活動など奥多摩のフィールドワークに携わっていたことをきっかけに、卒業とともに奥多摩に移住し起業。アウトドアウェディングのプロデュースや、別荘のシェアハウスの企画などを請け負って事業を行っていた実績もあり、「林業再生」をテーマとした〈森と市庭〉の立ち上げで声がかかり、参加することに。他にも木育クリエイターや木育デザイナー、製材士や伐採士、木工家などのメンバーで構成されています。現在は木育遊具の制作を主軸としていますが、立ち上げから3-4年の間はオフィスの木質化を軸に活動をおこなっていたのだそう。

「内装から家具にまで奥多摩産材のスギやヒノキを使って、木の家のようなオフィスを提案してきました。僕らが使う多摩産材はスギ・ヒノキに限られていますが、産地としてのブランド力の高いものではないんです」と菅原さん。

もともと多摩産材は、足場丸太の生産需要があり、10-20年というまだ細い小径木の状態の間伐材をメインに、比較的に短いサイクルで木を伐ってきたという歴史があります。そして急峻な地形という地理的条件もあり、大きく育てるのには向いていない上に、林業が衰退して森林の管理が行き届かなくなると、死に節(枯れた枝が幹の中に巻き込まれたもので、まわりの木材質とつながっておらず、養分がいきわたらず抜け落ちてしまう節)が増え、穴だらけの材料になってしまいます。そんな材の活用方法を〈森と市庭〉は模索していたのです。

「死に節の穴を埋めて活用はするのですが、木材の価値としては低い。この地の林業再生をはかるのであれば、住宅用の無節の建材が一番価値が高いですが、そのランクでは闘えない。それで、無機質なオフィス環境を木質化するという、これまで馴染みのなかったひとつの方向性を見出したという経緯がありました」

このような死に節は、穴を埋めて活用するも、木材としてその価値が低いのが現状。

オフィスの木質化に取り組む中で、どうしたら木の良さを活かせるかという課題と常に向き合っていました。

「軽やかさや質感といったスギ・ヒノキの良さがある一方で、柔らかいが故に、キャスターのついた椅子だと床材に跡が残ってしまったり、デスクで書物をした際に天板がへこみやすい、エアコンによる収縮などの問題もあり、もっとスギ・ヒノキの本来の良さを活かせないか、その可能性を模索し続けていました。そんな中、たまたま2016年頃保育園や幼稚園からのお仕事を単発でいただく機会があり、お客様の反応がこれまでとちょっと違うことに気づいたんです。子どもが転んだときに怪我をしないように柔らかい木の床がいいとか、木目が落ち着くとか、保育環境と木の相性の良さを実感し始めました。ちょうど”木育”という言葉が出始めたのがこの頃だったこともあり、これにかけて木育遊具メーカーとしてやっていくことになりました」

木育遊具メーカーとしての再出発

こうして〈森と市庭〉は、木育遊具メーカーとして、保育園・幼稚園にフォーカスした事業として新たなスタートを切りました。当初は保育園や幼稚園とのネットワークもなく、ひたすら飛び込み営業を続ける日々の中、保育商社を通しての依頼などいくつかの事例をきっかけに、教育と木製品、木遊具という形で一つひとつの仕事を丁寧におこない、少しずつ評判を高めていったのだそう。積み木から遊具、園庭づくりまで、木で大小さまざまなものづくりをおこなう彼らですが、”木育”遊具メーカーとして大切にしていることがあります。

「現在の活動で多いのは木育を目的としたワークショップで、子どもたちが気軽に木に触れられる体験をいろんな形で提供しています。たとえば製材過程でたくさん出る木っ端を山盛り持って行って、グルーガンやカラーペンを使ってものづくりをしたり。何か作ろうというよりも、子どもたちがその日に作りたいものを自分で形にしていくという過程を大切にしています。うちのスタッフが木工道具も持っていくので、”こことここをくっつけてほしい”とか作業の発注をしてもらうようにもしています。まず自分は何を作りたいのかを理解し、どうしたら実現するかを考える。そしてそれを人に説明して自分が欲しいものに仕上げていく、といった大人の世界でも将来必要になるようなコミュニケーション能力を、この活動を通して養っています。ただ単に”木っていいよね”とか、”木に触れると気持ちいいよね”という以上に、教育的な要素もしっかり含ませることができるということがわかってきたので、僕らは木製遊具メーカーではなく、”木育”遊具メーカーとしてやっていきたいんです」

彼らが実践するあたらしい林業

〈森と市庭〉では園に出向くワークショップだけではなく、社有林をフィールドにした遠足や体験イベント、先生や企業の研修なども行っています。森で間伐体験をして伐採した丸太を観察したり、製材所でその丸太がどうやって板になって、使えるようになるのかを見学したり、最後にはそこでものづくりをして帰るという楽しみながらできるプログラムもできるようになってきたといいます。彼らなりの林業の再生の形として、今後も伸ばしていきたい活動なのだそう。

〈森と市庭〉の社有林「おくたまの森」。奥多摩エリアはじめ全国では、山の管理が行き届かず、山主や林業従事者の後継者不足は深刻な課題のひとつ。この場所はは、森と市庭の林業再生を目指すタイミングと合致し、地元の山主に出資してもらい実現した。足を踏み入れた途端、「道を挟んで左が間伐が行われていないヒノキの森で右が間伐が行われているスギの森」と、その生態や特徴について早速学びの時間に。ツリーハウスや、モダールくずの遊び場など、楽しいスポットも点在し、春に向けてさらにさまざまなも計画も進行中なのだとか。

「木材=住宅というイメージが強いと思いますが、僕たちは遊びに活かせるということに気づいたんです。木材=遊びで考えると、端材も木くずも、すべての素材を活かすことができる。木材を市場に出して収益が出るのだったら、他の山主さんもとっくにやっているはずです。今それができていないということは、既存の仕組みに乗っかるだけでは無理ということなんです。森と市庭は林業を再生するためにできた会社です。しかし、林業の入口である森林を整理しても、その出口がないと意味がない。だからここでは、この地域なりの木材の”出口”を先に作って、違う林業の形を実践しています。僕らは完全に”木育”というジャンルに絞り込んで、スギやヒノキを空間のコンセプトに入れてこんでいますが、その地域を拠点とした時に、どういうプレーヤーがいてどんな加工ができるか。その地域の木を活かす方法は、地域や会社のあり方によって全然違ってくると思います」

〈森と市庭〉の菅原和利さん

〈森と市庭〉の木育に触れた子どもたちがやがて大人になり、この地域の森、街をまもっていく。そんな未来が自然と思い描けるような活動がここにはあります。この奥多摩の地だけでなく、自分にとって身近な森を意識することで得る気付きもきっとあるはずです。

(プロフィール)
菅原 和利 /すがわら かずとし
㈱東京・森と市庭 取締役
木育インストラクター養成講座 公認講師

1987年神奈川県小田原市出身、東京都西多摩郡奥多摩町在住。法政大学人間環境学部在学時から奥多摩町でまちづくりに取り組み、卒業後に移住・起業を経て2013年に㈱東京・森と市庭の立ち上げに参画。保育施設向けに木育事業を立ち上げ、黒字化。現在は東京だけではなく全国の保育施設で木育事業を展開。

PEOPLE

菅原 和利

菅原 和利

Kazutoshi Sugawara

㈱東京・森と市庭 取締役 木育インストラクター養成講座 公認講師 1987年神奈川県小田原市出身、東京都西多摩郡奥多摩町在住。法政大学人間環境学部在学時から奥多摩町でまちづくりに取り組み、卒業後に移住・起業を経て2013年に㈱東京・森と市庭の立ち上げに参画。保育施設向けに木育事業を立ち上げ、黒字化。現在は東京だけではなく全国の保育施設で木育事業を展開。

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Company 東京・森と市庭
Photos Mina Soma
Writing KIDZUKI

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