大谷塗料木の性能を高める塗料に挑み続ける - KIDZUKI
Category木と作る
2024.06.06

大谷塗料
木の性能を高める塗料に挑み続ける

大阪の市街地に拠点を構える大谷塗料は、まもなく創業90年を迎える木工塗料に特化した老舗メーカーです。家具や建築に不可欠な存在でありながら、ユーザーの多くがその存在に目を向けにくいのが塗料。色を与えるだけでなく多くの機能を付与する存在である塗料に着目し、その活動について話を聞きました。

住まいの本質は木にある

建築や家具を語る時、人は往々にしてそこに用いられる木の表情に言及します。しかしそこに欠かせない塗料の存在に目を向ける人はほとんどいません。塗料は着色剤と考えられがちですが、実際には木に特徴や機能を与えるという大きな役割を担います。木材の表情に奥行きや深みや色を与える一方で、材を傷や腐敗から守り、安全性をも与える存在です。

大阪の中心部からほど近い住宅街にある〈大谷塗料〉は、1936年創業の木工塗料メーカー。その製品はまさに機能性に富んだ幅広いラインアップを特徴とします。例えば、インフルエンザなどのウイルスによる感染症の流行を抑えようと、コロナ禍以前より開発を進めていた抗ウイルス機能をもつ塗料。近年注目される国産のスギやヒノキといった柔らかい針葉樹材の強度を高めることで、家具などへの利用を促す塗料。見る角度によって光沢の変化を抑えることで、木材本来の温かみを表現できる超高艶消し仕上げの塗料。このように幅広い製品の開発に力を入れています。

同社の創業者である大谷政晴氏は小さな木工塗料メーカーに在職中、工業化学や薬剤について学び、のちに独立した人物です。しかし事業の目処が付いたところで召集を受けて戦地へ。命からがらに帰国し、終戦後には「住まいの本質は木にある」と木工用塗料に特化したメーカーを目指します。彼は存命中、塗布の対象である木を知らねばならぬと世界各地の木々を見て回りました。木工塗料の優れた知識を蓄積してきた同社の製品はいわゆるプロ向けで、現在は、木工家具、フローリング、造作家具などの木工製品メーカーに幅広く使用されています。

木材をこう使いたい、こんな性能をつけたい、という希望に応える

メーカーを主なクライアントとすることから、多くの特注色に対応することも特徴のひとつ。たとえば建材メーカーは床や階段などの部位で塗装方法や塗装工程も異なることから、それらを含めて塗料を開発するといいます。さらに異なる材種を同色で塗装できる塗料が求められることも。当然ながら木材は材種で表情は違い、同じ材種でも生育環境や個体差で色は異なります。これらを同一の色に染められるような技術を大谷塗料は持っています。また、百貨店の売り場などに納品される陳列家具やディスプレイ、テーマパークの木部など、多様な現場から求められる少量多品種の塗料も作っています。

大谷塗料の大阪本社工場。日々塗料の開発や試作がおこなわれている

近年は、木材の表情を活かした薄塗り仕上げやオープン仕上げが主流です。そうした背景もあり、エンボス加工で木目を表現した本物の木材と見間違うような木目調化粧シートも登場しています。たとえば最近はグレーがかったオーク材調化粧シートをサンプルに、塗装で再現してほしいとのリクエストも多いそう。しかしこれを塗装で表現するには木材本来の色を消す工程が必要となります。せっかく木目がある天然素材を均質的な表情にしてしまうのであれば、化粧シートの方が理に適っているのでは。だからこそ天然木の使い方、化粧シートにはない塗装にできる表現を考えることが大谷塗料の課題であるといい、同時にデザイナーや施工会社の課題でもあるといいます。

「我々がお手伝いできるのは、木材をこう使いたい、こんな性能をつけたい、という希望へのさまざまな提案です。木はそれぞれに表情も違い、呼吸をして、動くもの。特殊な対応をしないことのほうが少なく、私たちは古くからクライアントとコラボレーションを重ねてきたという想いも強い。すべてに応えられるわけではないのですが、いろいろな配合によってお客さまに希望を叶えたい。日本の木工は特に、木材をきれいかつ長持ちさせようという精神が宿ります」と、同社営業部および資材部副部長の北橋信一さんはいいます。

今回お話をうかがった、大谷塗料の営業部および資材部副部長の北橋信一さん。

大谷塗料の主力製品である「バトン」は植物油を用いた着色剤です。面積が広くても塗りムラや刷毛ムラのない表現が可能で、なにより食品衛生法に合格するほどの高い安全性を誇ります。塗料特有の匂いを抑え、多くの人に使いやすい塗料を目指しました。

こうした製品で時代の変化に応えたいとの思いもあります。あらゆる業界で職人が高齢化し、塗装においても技術の継承は問題のひとつ。誰にでも使いやすい塗料を開発する一方、うまく仕上がらないという現場の声に応えるようにウェビナーを開催することも増えました。一般的なユーザーに限らず、建築家などのプロからも木材になるべく何も塗らず無塗装にしたいとの声があがるようになりました。それでは木材の劣化も早く、汚れがつきやすい。オイルの匂いが気になるとの声にも応えてきました。

時代の変化に応え、塗料で機能を付与していく

「塗装にも流行と変遷があります。ラッカー塗装に始まり、塗膜が厚くて光沢感のあるポリエステル仕上げが登場にした時には高級感があるとして人気が出ました。続いて薄塗りでも強度のあるウレタン塗装が登場し、どんどん薄い塗膜が求められるようになりました。いまは健康志向の高まりから昔ながらのオイル仕上げやソープフィニッシュなどが好まれる時代。木そのものの質感がいいと、塗装をしていないような表情が求められます。ただし何も塗らなければ保護されませんから、あたかも塗ってないように見える塗料に力をいれています。木の家具にはすべて基本的に塗料が塗布されているとご存じない方がずいぶん増えている印象もあります」

塗料が木を守るという意味では、木造建築の外装塗装を補修する「MOKリバ工法」もユニークな存在です。木材の外壁は経年によって、退色、苔の発生、腐食などが起こり、これに対して定期的なメンテナンスを必要とします。既存のメンテナンスは高圧の水や薬品で補修を行うことがほとんどですが、水は木材への負担が大きく、薬品は環境への影響が考えられます。しかしMOKリバ工法は微細に砕いたクルミの殻やモモの種を高圧で噴射することで、表面の劣化部分を短時間で削り取ります。手作業での研磨を必要とする複雑な凹凸面にも有効で、表面の汚れ、腐食、カビなどを除去できるといいます。また、これまでは塗装を重ねるたびに前回よりも濃色の塗料で塗布することで劣化部を覆い隠すことが一般的でした。MOKリバ工法は調整された木地に淡色の塗料を塗布することができ、木材本来の表情を活かすことができます。水を使わない乾式法なので処理後すぐに塗装ができ、飛散防止処置が必要ではあるものの天然の有機物なので基本的には無害です。

木材をいかに長く使い、その表情の魅力を引き出すか。それは木工塗料に特化してきた大谷塗料が長年取り組んできた課題でもあります。近年は木材そのものの状況が大きく変化し、かつて使われていた材は伐採や輸入が禁じられ、よく使われていた材も手に入りにくくなり、南洋材から国産の杉材への切り替えも進みます。新たに用いられるようになった生育の早い材種は表情に特徴が乏しく、塗料でのフォローが求められることも少なくありません。

「塗料はそうした補助的な役割を果たすひとつです。かつては木材自身に機能があったもののが、そうした材の流通が難しくなったことで機能を付与する塗料の開発も増えました。かつてのように適材適所に材が使えない状況も増えるなか、塗料はその手伝いが求められています」と北橋さん。時代に応える塗料のあり方を、大谷塗料はこれからも探り続けていきます。

大谷塗料(おおたにとりょう)

1936年創業の高級木工塗料専門技術メーカー。高い品質と数多い塗料製品数、そして家具から重要文化財まで幅広い施工実績をもつ。「人も地球も元気に!」キーワードに木工塗装における問題解決力と時代の流れに応える製品に力をいれる。

INFORMATION

Company 大谷塗料
Photos Manami Takahashi
Writing Yoshinao Yamada

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