高知県安芸市を拠点に、古材や古物など古いものを活用した家具の製造販売や、古い雑貨の買取や販売、古民家の改装等をおこなう〈サルベージコウチ〉。リデュース・リユース・リサイクルといういわゆる「3R」の取り組みを大切にしながらも、その一歩先を行く彼らの理念と活動内容に迫ります。
古いものはその物語ごと引き取り、未来へつなぐ
元は段ボール工場だったという〈サルベージコウチ〉の倉庫に足を踏み入れると、100年以上昔の家のから解体した希少性の高い木材を使った梁や柱、箪笥や食器棚などの古家具、中には工事現場の足場板や瓦まで、地元高知近隣から集まってきた古材に圧倒されます。
「ただの古材ではなく、そこには物語があるんです。多くは古い家を解体するときに声がかって、引き取ったものですね。全部は難しいのですが、その中から歴史やエピソードに価値を感じられるものを引き取らせていただいています」
と〈サルベージコウチ〉の代表、安岡浩史さんは言います。古いものを捨てずに新たな価値を見出し、彼らのデザインやアイデアを加えて家具を作ったり、メンテナンスをしてホテルやカフェのインテリアに採用するなど、さまざまな形で古いものを活用する彼らの活動。その中で印象的なのが、安岡さんの言葉にもある、古いものの背景にある「物語」を大切にしているということ。
「どこでどういう人が使っていたものなのかをきちんとデータ化して、その物語を含めて引き取らせていただいています。お問い合わせの多くは、”これは歴史的価値があるものだからこのまま捨てるのは忍びないし、何かに使ってほしいからぜひ取りに来ませんか”というもの。自分で処分するのが大変だから引き取ってほしいということだけではないんです。僕らは古物商の免許も持っていますが、買い取りの依頼はほぼありません」
そう言って倉庫めぐりながら、そのひとつ一つのものにまつわる物語を教えてくれたのは同社の取締役であり営業・企画を担う小松一之さん。ここに集まってきたものが持つ歴史やエピソードとともに、これからどう新たな価値を見出そうかと楽しそうにアイデアを巡らすその姿に〈サルベージコウチ〉の活動への想いが表れています。
はじまりはポートランドでの出会い
リデュース・リユース・リサイクルといういわゆる「3R」の環境循環が謳われる昨今、それだけではなくもっと新しい価値を提供したい。〈サルベージコウチ〉のはじまりは、2015年に小松さんがアメリカ・オレゴン州ポートランドで出会った『SALVAGEWORKS(サルベージワークス)』(現在は閉鎖)がきっかけでした。
「建築家のきょうだいで構成されている『SALVAGEWORKS』は、歴史ある古い建物が解体される前にまずその建物の図面を起こして、柱など構成するすべてのパーツの記録を取ってストーリーブックを作るところからはじめるんです。それがその建物の証明書となり、当初はおもしろい木のパーツなどを若手の建築家に無料で提供し、使ってもらうという活動をおこなっていました。そのうち、その建築家がアメリカの建築賞を次々と取るようになって。当時は証明書付きの木材は高くて売れなかったみたいなんですけど、”このような意味のある木を使いたい”っていうことで、高級ホテルなどが注目しはじめて、一気にブレイクしました。そんな彼らの活動がめちゃくちゃおもしろいと思って、やり方を教えてほしいとお願いしたんです。そしたら“そんなに教えることはないけど知りたいことがあるなら勝手にどうぞ”みたいなかんじで受け入れてもらって(笑)。僕も『SALVAGEWORKS』のようなことをやりたいと思ってのことだったのですが、そのためには解体の現場を熟知している人が必要。そこで〈安岡重機〉の建設部門として家屋解体事業を行っていた安岡さんを誘って一緒にポートランドへ行ったんです。ポートランドに行った5年のうち、3回ほど訪問させてもらいました。僕自身古民家に住み、古民家のカフェも運営していますし、安岡社長も古民家に住んでいて。そういう趣味で古い建物や古材が好きな人たちが集まってスタートしました」
好きな人と集まり、一緒に作る
こうして〈サルベージコウチ〉が事業としてスタートして約3年。最近ではSNSから直接のオーダーも増えるほか、内装デザインや店舗プロデュースなどの依頼も増え、軌道に乗りはじめているといいます。そして「ものの背景にある物語を伝える」ことに加え、もうひとつ、「依頼主にもできるだけ参加してもらって作る」ことも大切にしています。
「例えばこの雑貨屋さんのモザイクパネルの壁は、オーナーさんご夫婦に実際に自分たちで作ってもらったんです。自分の手が加わるとやっぱり愛着がわきますし楽しいし、そこまで難しくなく作ることができるので、このモザイクパネルは僕たちのアイコン的なデザインになっていると思います。モザイクパネルを使ったワークショップも開催しています。大人も子どもも参加してくれて、幼稚園生くらいの小さな子どもがめちゃくちゃかっこいいものを作ったりするんですよ。僕らもすごく勉強になります」
そして現在、家を解体した後だけでなく、古い空き家そのもののあらたな活用の提案もおこなっています。
「高知県は空き家率が全国一位。人口は減っていますし、これからも空き家は絶対増えるんです。でも、僕らのように空き家を改装しても住む人は限られています。だからお店や工房にしたりと、家以外での使い方を提案しています。家として住むとなるとみなさん完璧にしたくなるからコストも手間もかかります。でも、週末過ごすだけの場所とか、アトリエやカフェとして使うとなると、あんまり細かいこと気にしなくなって、自分でも作れることがあります。だから僕らはできるだけやり方を教えて、施主さんと一緒に作るっていうやり方をとっています。いい意味であえてちょっと雑な作りもポイントかなと」
まだ住める家でも、持ち主のさまざまな事情により解体せざるを得ない物件も多いといいます。解体中の家を目の当たりにしたときの「もったいない」という想いから「サルベージしよう」(引き上げ、再利用しようの意)という行動につながっています。
「もったいないとか、環境を意識させるようなことは直接伝えることは特にしていません。ただそれがどういう木か、どういう歴史を持っているか、ここはすごい立派なおうちだったんだよと伝えることくらい。 ”こっち(古い方)の方がかっこいいよね”っていう感じ。環境にいいことをしているからというよりも、純粋に古材がいいなと思っている人たちが来てくれることがいいなと思うんです。全部古材でリフォームしてもただの古民家になっちゃうんで(笑)、新素材も上手く組み合わせながらやるのもいいなとか、広い視点で考えています」
「『SALVAGEWORKS』の皆さんが”めちゃくちゃ楽しそうに仕事をしていたのが印象的でした」と言うように、いままさに〈サルベージコウチ〉がその姿を体現し、そこからいきいきとしたコミュニティが広がりはじめています。時間が経つほどに味わいを増し、自分で手も加えられるからこそ長く愛されるのは、木だからこそ。この場所に集まったさまざまなものと彼らの言葉がそう確信させてくれます。
PEOPLE
サルベージコウチ
salvage kochi
解体される古民家から古材や古家具をサルベージ(引上げ)し、それらをアップサイクルした家具を製造したり、古材を活かしたリノベーションをおこなっています。歴史を刻んだ古材ならではの風合いを活かし、古材ならではの「カッコイイ」「カワイイ」を生み出すものづくりに取り組んでいます。