美しさと力強さを兼ね備え、繊細でいておおらか。〈Crate〉の盛永省治さんの作品に触れると、原型こそ変わっていても”木”という素材そのものが持つ豊かな表情を感じられます。鹿児島県日置市のアトリエを訪れ、彼の木と向き合う日々、そして木工作家としての活動ストーリーを紹介します。
毎回あたらしい木と出会う日々
「大きさというより、おもしろい木目の木を選んで、その木の形や太さから何を作るか決めています。鹿児島はタブ科の木が多いのが特徴ですが、同じ樹種でも色味や木目が違うし、樹種が変わると作業性もまったく異なります。“本当に出会いだな”と木を探しにくるたびに感じますし、それが木の魅力だと思うんです」
〈Crate(クレート)〉の盛永省治さんは鹿児島に生まれ、現在も地元を拠点に活動を続ける木工作家です。ウッドターニングという木工旋盤を使って木材を回転させながら、ボウルやスツールなど大小さまざまな形に削り出した作品を制作しており、主に全国各地で開催する個展にて新作を発表・販売し、毎回好評を博しています。
実際に彼がいつも木を探しにくる場所のひとつ、アトリエからも程近い製材所へ。盛永さんが制作に使う木は、市場には出回らない広葉樹。そのままオブジェにもなり得るようなユニークな形状ですが、曲がりやふしのない根元から真っ直ぐな木材への需要がほとんどなため、実際はどれも粉砕されてチップになる木です。
「チップになる木は月末にまとめられるので、その頃に月に一度ほど探しにきています。お金がなくてまともに木が買えなかった頃は、製材所に行っては切れ端を買い漁っていたこともありました。最初は製材所と関係性を作るのが大変でしたが、今では僕のことをわかってくれる方があちこちにいて助かっています。木こりのおじさんが木を切って直接アトリエに持ってきてくれることもあるんです」
そう言った盛永さんのアトリエ前には大木がゴロゴロと転がっています。そしてその横には、木を削る作業で発生するチップを貯めた大きな袋も。
「丸太を輸送してもらうとコストもかなりかかります。でも鹿児島の木でも面白い木はたくさんある。ゴミはなるべく出したくないけど端材やチップは近所の農家さんが引き取りにきて、畑に撒いたり堆肥を作るために使っているようで。なんとなく自然にそうなっていった感じですね」
盛永さんが日々淡々と行ってきたことは、いつのまにかちいさな循環のコミュニティも生んでいるようです。
アメリカで影響を受けた、インテリアにおける「木」の存在
製材所で見つけた木の切れ端をはじめ、リサイクルショップで偶然みつけた昔の家を解体した際に出た床柱やついたてなどから作品を作ることも。
「普通の木工作家ではやらないような木の探し方をしていると思います(笑)。基本おもしろい木はなんでも使いたいんです」
大学時代はプロダクトデザインを専攻し、当時は深刻な就職氷河期だったこともあり、神奈川県から地元鹿児島に戻り、木造建築の大工のもとで2年間働いたのちに、かねてから希望していた地元の家具メーカーに頼み込み、見習いとして修行を開始。最初の1年は居酒屋のバイトとのかけもちしながら働いていたのだそう。作家として活動をはじめて16年目。その家具メーカーでの経験が今の盛永さんの活動に大きく影響を与えています。
「当時働いていたメーカーで作っていた家具は、ミッドセンチュリー系のモダンな木製家具でした。アメリカにも連れて行ってもらって、そのときに見たものの影響が大きいですね。例えば、ヴィンテージの家具屋さんで、キャビネットの上にさらりとかっこよくディスプレイされているウッドボウルとか。そいういうインテリアを見て、お椀とか道具ではなく、用途がありそうでない飾るための木工品の存在にとても惹かれたんです」
削りながら、作りたいものを作っていく
ひとつとして同じ形、風合いがない盛永さんの作品は、毎回木に触れ削りながら考えて作り上げられています。チェーンソーで円柱状に切った柔らかい状態の生木を回転旋盤に固定し、回転させながら削り出すウッドターニング。削り出した後に乾燥させる過程で木は歪み、それが作品の味となります。乾燥が完了した段階でオイルで仕上げていきます。
「デザインというよりは、自分の手をちゃんと動かしてものを作る仕事の方が自分には向いているんだろうな、とは思っていました。それで木工をはじめたのですが、他の素材を考えたことがなかったんです。でも家具だと自分だけで作ることはできても、配達の時などどうしても人手がいる。必要な時だけ人にお願いすることもありましたが、ちょっと行き詰まってしまって。だから、手に抱えられるぐらいで、いろんなところに送れるようなものを作ってもう少しお客さんを広げていこう、と考えてやっていくうちに、段々今みたいなスタイルになっていきました」
「僕自身、作りながら用途やシーンは全然考えていません。作りたい形を作って、手にした方が使いたいように使ってもらえればと思っています。自分がアメリカで影響を受けたように、今後もっと用途がないような彫刻や大きい作品も増やしていきたいです。個人宅にも置けたり、お店に飾って空間の象徴になるようなものとか、挑戦したいですね」
表情や形状、その完成系がよみづらい素材の特性を愛で、おもしろがり、ひとつずつ作品と向き合う盛永さん。そのストイックでありながら、その作品への解釈は受け取り手に委ねる姿勢は豊かな環境で伸び伸びと生きる大木のようにおおらかです。彼の手によって新たに吹き込まれた次の木の命は、日々の暮らしの真ん中で息づいています。
PEOPLE
盛永 省治
Shoji Morinaga
1976年鹿児島生まれ。家具メーカーで職人として勤務ののち、2007年に自身の工房を始める。同時にウッドターニングを独学にて開始。その後アメリカを代表するアーティスト、アルマ・アレンに師事。現在はウッドターニングによる作品を主に国内外での個展や合同展を中心に作品を発表している。