寒川一の防災教育から知る「木」のこと KIDZUKI×TamagawaMokurinProject - KIDZUKI
Category木を知る
2024.08.26

寒川一の防災教育から知る「木」のこと
KIDZUKI×TamagawaMokurinProject

自然の尊重を教育信条に掲げる玉川学園(東京都町田市)による樹木にまつわる活動と学びのプラットフォーム「Tamagawa Mokurin Project」と協定を結ぶKIDZUKIは、この夏、学園内の豊かな自然をフィールドに、中学生を対象としたサマーキャンプのプログラムをプロデュースしました。アウトドアライフアドバイザーの寒川一さんをゲスト講師に迎え、”自然の中で生き抜くためのキャンプスキル”をテーマに、防災教育の観点から木への理解を育む一日となりました。

私たちにいま必要な「防災×アウトドア」のスキル

玉川学園がおこなう、木の循環を促すための考察や実践である「Tamagawa Mokurin Project」。この思想と活動にKIDZUKIが共鳴し2022年に結んだ協定では、「木を素材とした、ものづくりに関すること」、「森林や木に関する理解を深めるための学校教育や教育プログラムに関すること」、「木を使ったソリューションに関すること」、「SDGsへの取り組み、及び環境課題に対する取り組みに関すること」など、木にまつわるさまざまな取り組みの連携、協力を目指しており、昨年おこなわれた労作活動にも参加しました。今回は同学園内でおこなわれる取り組みの第二弾、サマーキャンプの教育プログラムをKIDZUKIがプロデュースしました。

夏休みに入ったばかりの7月下旬。玉川学園の敷地内で開催されたテントを張り一泊するサマーキャンプは、毎年多種多様の講座が実施されるサマースクールの中でも人気のプログラムです。今年のテーマは「自然の中で生き抜くためのキャンプスキル」。中学1年生を対象に、24名の生徒が集まりました。自然への興味・関心を高め、そして人間と自然の望ましい在り方を理解することを教育目的とし、自然の中で自分たちの力で身を守るための「想像力」「協調性」「防災力」を学ぶ体験を、座学とフィールドワークの両アプローチから実施しました。
このプログラムのゲスト講師に依頼したのが、アウトドアライフスタイルアドバイザーの寒川一さん。これまでKIDZUKIのインタビューやKIDZUKI CARAVANへの登壇でも、日常におけるアウトドアスキルの必要性や、焚火を通じて自然、そして木と関わることの大切さを教えてくれました。
今回は「Tamagawa Mokurin Project」が目指す「森林や木に関する理解を深めるための学校教育や教育プログラム」に重点を置いた防災教育ということで、生徒たちにとっては日頃から身近な存在である学園内の豊かな自然環境をフィールドに、寒川さんのプログラムを通してどんな気づきがもたらされるのでしょうか。

「僕は皆さんと同じ年の頃、14歳の時に、自転車で2週間かけて地元四国を一周したことがあります。当時はアウトドアの道具も今ほどないから、友達からテントを借りたり、家で使っているお茶碗をそのままタオルにくるんで持ち出したり、寝袋の代わりに普段使っている毛布を詰め込んだりして、約1000キロの一人旅をしました。知らないことばかりだったけれど、自分のアイデアやひらめきだけで行動した当時の体験が、現在アウトドアライフアドバイザーという仕事をしている僕の原点だと思っています。今日は短い時間ではありますが、僕が14歳に体験したことのエッセンスを皆さんにお渡しするので、ぜひそれを受け取っていただき、今後何かのヒントにつながればとても嬉しいです」という寒川さんのエピソードから始まったプログラム。そしてこのサマーキャンプで「アウトドアの感覚を身につけてほしい」と伝えます。

「昔の人は、アウトドアの暮らしだったはず。そこからどんどん便利になり、今のようなインドアの暮らしが日常になっていきました。しかし災害が起きると、快適な部屋の中の暮らしは壊れ、外で暮らすことを余儀なくされる場合もあります。外には何も用意されていないから、自分で組み立てていくしかありません。そんな時のために、アウトドアの感覚を日常にインストールしてほしいんです。そうすると皆さんの日常生活が、もっと力強くなるのではないかと思っています」

酸素は3分、体温は3時間、飲料水は3日、食料は30日といった人間のリミットであるサバイバルの”3″の法則を学びます。

「いざという時、何が必要だと思いますか?」という問いかけからはじまり、人間にとって必要なライフラインのこと、サバイバルにおいて覚えておくべき「”3″の法則」など、寒川さんが実践する「防災×アウトドア」について、生徒たちと対話をしながら座学が進んでいきました。アウトドアや災害時に役立つ便利な道具の紹介もありましたが、何より大切なのはマインドだと言います。

「誰でも忘れ物をすると思いますが、そんな時は、自分の身の回りにあるものでなんとかしてみてほしい。忘れ物って創意工夫のチャンスなんです。”ないものを嘆くのではなく、ないものをどうやって埋めるか”というポジティブな精神を学んでほしいです。そして今何をすべきか、目的と手段を分けて考え、”臨機応変”に行動することがアウトドアの暮らしでは重要。この言葉は僕の座右の銘でもあるんです」

森で採り、森に還す「焚火」という行為

創意工夫の精神で、臨機応変に行動することの大切さを学んだ後は、いざフィールドへ。「水を汲み、火を起こし、お湯を沸かす」というインドアでは当たり前にすぐできる行為を、アウトドアで実践します。

玉川学園には井戸水が通っており、地下から汲み上げ浄水したものを学園内で使用しています。敷地内にある井戸水の浄水場を訪れ、水について学び、その場でタンクに汲んでいきます。

続いては、お湯を沸かすための焚火づくり。森へ入り、焚火の土台となる土と、燃料となる木を採取します。今回は、既存のかまどを必要とせずとも簡単にでき、自然のダメージを最小限にとどめ、終了後はまた土と灰を森へ還す「マウンドファイヤー」に挑戦。針葉樹、特に乾燥したスギの枝葉や、ヤシ科であるシュロの皮の部分は燃えやすく燃料に適していることなど、アウトドアの視点で森を捉え、作業行程を学びます。

採取した土と木の枝。石は取り除き、燃えやすい乾燥した木の枝や葉を選びました。
防火シートの上に土を盛り上げ真ん中を掘って土台作り。
くぼみに枝をしき、鍋でお湯を沸かすため、レンガと五徳をセット。
火の起こし方について、枝を置く順番や風の方向に燃料を置くことなど、寒川さんから丁寧に学びます。
採取した井戸水は煮沸前にペーパーフィルターでろ過。
”指で台形を作って吹くとよい”という空気を送るコツも学びました。

こうしてお湯が沸いたら、各自持参したインスタントのスープやヌードルなどを作って食べる昼食タイムです。普段家の中にいると5分ほどで食べられる簡単な食事ですが、電気もガスもないアウトドアの環境では1時間以上の作業。いざという時の大変さを実感するとともに、さまざまな知識と技術を得たはずです。何よりこのカップ一杯の美味しさは、ひとしおだったのではないでしょうか。

そして焚火が終わったあとも大切な行程が待っています。すべての木を灰になるまで燃やし、土と混ぜて中和させ、土を採取した場所にまた還すという作業です。

「ここで育った木の枝を燃やして灰にし、土と混ぜて元あった場所に還す。炭は土中分解されないので、必ず灰になるまで燃やすのが僕の焚火で大切にしていること。この灰が土の養分となり森が循環し、10年、15年後にはきっとあたらしい緑が育つはずです。今日私たちは井戸水を汲んで飲めるようにろ過をし、薪を採取し、焚火をつくり、そこで沸かしたお湯で食事をしました。自然を利用して終わりではなく、自然からもらったエネルギーをお返しする。ここまでの作業を含めて、焚火なんです」

関わり合う自然のエレメント

午後から行われたテントを張るワークショップでは、風向きや日の出時間など外気情報の確認と土のコンディションの重要性とともに、焚火とはまた違った視点で木を捉えます。

「周りに木があるか、そしてそれは健全な木であるかという確認が重要です。健全な木が近くにあれば心地よいですが、そうでなければ倒木などが起きる可能性があるので怖い存在であることも知ってほしい。そしてあまり近すぎるとハチに刺されたり、落雷の恐れもあるので、木の真下にテントを張らないようにしたほうがよいでしょう」

途中ペグ(テント用の杭)が足りないという事態に、拾ってきた枝で即席ペグを作る寒川さん。まさに臨機応変、創意工夫の精神です。

こうして自然環境に身を置き、関わりながらさまざまな体験をした一日が終了。

「焚火の後始末が自然に恩返しできているということが知れてよかったです。みんなで頑張って創意工夫ができたと思います」「焚火を通して、森林のことや水のこと、環境のことはすべて循環しているんだということを学びました」と、生徒たちは体験を通して感じたことや学んだことを発表し、最後に寒川さんによるまとめの座学が行われました。

寒川さんは今日一日のプログラムを総括し、地球にあるあらゆるものは「木」「火」「土」「金」「水」の5つの要素から成り立っているという思想「五行説」について教えてくれました。

「今日一日、自然の中でいろんなものを得ました。みんなの暮らしにある『曜日』と同じ、この『木』『火』『土』『金(鉱物、石)』『水』は、地球上の自然界における要素のこと。『日』『月』は太陽と月で地球上のものではないですが、時間を与えてくれています。この5つの要素をうまく循環させるために、時間を使うべきだと僕は解釈しています。それぞれの要素はそれぞれを活かし、そして制していて、ひとつでも欠けてしまうと成り立ちません。それをコントロールするのが私たち人間の役目です。今日私たちは『木』『火』『土』『金』『水』すべての恩恵を受け、一杯の水を作ることができ、それが全員のエネルギーとなりました。そしてお金も使わず、損得もなく、次の木の養分となるお返しをしました。今日体験した臨機応変と創意工夫の精神があれば、きっとみんなかっこいい大人になると思っています。玉川学園は特に木の恩恵をたくさん受けている環境です。森の中やテントを張る時に感じてもらったと思いますが、木がなかったら涼しさもありません。その存在の大切さをしっかり覚えておいてもらいたいです」

本プログラムの目的「想像力」「協調性」「防災力」を身につけられたことは、生徒たちの言葉のとおり。そしてさまざまな目的から木を捉え、自然界における役割を理解した上で改めて森、木を循環させることの大切さを学びました。寒川さんが「体験の中でも言葉にできることとできないことがあります。でも今日のように、みんなで同じ体験をしたということがとても大切なんです」と言うように、場所を同じくして見聞きし学ぶこと、実際にフィールドに出て実践したからこそわかることがあります。毎日見る、身近にある木への視点が「防災×アウトドア」の観点によってきっとアップデートされたはず。たった一日の体験が、一生の糧のひとかけらとなったのではないでしょうか。

Tamagawa Mokurin Project
玉川学園×KIDZUKI

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PEOPLE

寒川 一

寒川 一

Hajime Sangawa

香川県出身。災害時に役立つアウトドアの知識を書籍、キャンプ体験、防災訓練などを通じて伝えるアウトドアライフアドバイザー。三浦半島を拠点に焚火カフェなど独自のアウトドアサービスを展開。スカンジナビアのアウトドアカルチャーにも詳しい。著書に『新時代の防災術』『焚き火の作法』(学研プラス)などがある。

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Photos Kohei Yamamoto
Writing Mana Soda

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