知っているようで知らなかった木のこと、そして木の魅力をより多くの人たちへ伝えたい。そんな想いがひとつの形になりました。木と暮らしの制作所との協働プロジェクトによって、広葉樹の個性を活かしたKIDZUKIのオリジナルプロダクトが完成。岐阜にある彼らの工房を再訪し、その制作プロセスを振り返ります。
KIDZUKIが伝えたい
木の個性・木の可能性
「KIDZUKI」のロゴが入った、手のひら大の小さな輪切りの木。この夏、KIDZUKIのオリジナルプロダクトとして、岐阜県高山市の家具工房〈木と暮らしの制作所〉と協働で作った木製の卓上クリップホルダーです。KIDZUKIが伝えたい木への想いを込めたこのアイテムの企画・開発にたずさわったKIDZUKIクリエイティブチームの中村昭子さん(三菱地所ホーム)、そして制作を担った木と暮らしの制作所の松原千明さんとともに、本プロジェクトに込めた想いや、その中で得た気づきを聞きました。
ーこのプロジェクトは、どのようなコンセプトのもとはじまったのでしょうか?
中村(以降AN):「前回(2022年11月)木と暮らしの制作所さんを訪問したときに、りんごの木の間伐材が倉庫にたくさんあって、”細いからなかなか家具には向かないけれど、なにかに使えたら”というお話をうかがいました。飛騨高山周辺の広葉樹は、最終的に燃料などの使い道が必ずあるということを聞いていましたが、それでも、個性豊かな木が燃料になってしまうのはもったいないな、とか、なにかに活用できたらいいな、という想いをずっと持っていたことが、今回のプロジェクトに結びつきました」
松原(以降CM):「そうですね。家具づくりには使えない細すぎる木や曲がっている広葉樹でも、現状は、きのこの菌床チップや燃料、紙など樹種によってそれぞれ売り先や活用先があります。捨てるものは一切ないのですが、私たちもそういった小径木を何か製品にできないかということをずっと課題に感じていたので、今回の取り組みはあたらしいチャレンジになりました」
ーKIDZUKIとして、どんなプロダクトを目指しましたか?
AN:「”加工しすぎない”ということを最初にお伝えしていましたね。たとえば、美しさや安全性のために木をきれいに磨くことは、木製の家具にとって必要な技術ですが、今回のプロジェクトでは、そこは重視しませんでした。樹皮を残し多少の割れや節も活かしながら、もっと木そのものの個性を感じられるものを作りたかったんです。松原さんが最初のリモート会議で、サンプルとしていろんな広葉樹をデスクに並べて画面越しに紹介してくださった時、そのいろんな種類の木が置いてある光景がとても素敵で、印象的でした。それで、小径木をそのまま輪切りにするアイデアに至ったと思います。木の特性を知っていて、すぐに工房内でトライしてオンライン上で見せてくれるというプロセスも、イメージしやすくてとてもありがたかったです。アイテムとしては、ドアストッパーなど別の案も色々と出たのですが、手軽でたくさんの人が使えて、でも使わずに置いておくだけで素敵なものがいいなと。材を無駄なく使うことや、パッケージしやすいことなども考慮して、この卓上クリップホルダーになりました」
飛騨高山で育った
豊かな広葉樹を知る
ー今回、全部で16種類の広葉樹からクリップホルダーが完成しました。樹種はどのように決定したのでしょうか?
AN:「樹種の選定はすべて木と暮らしの制作所さんにお任せしました。樹種やそのバリエーションを指定するのではなく、その時期にそこにある木から活用することも、このプロジェクトにおいて大切なコンセプトです」
CM:「今回はたまたま16種類でしたが、これだけの種類の広葉樹が育っていることは、標高差のある飛騨の山の特徴ですね。そして、使い道があるからこそ、建材にはならない細い木も切り出す体制の林業があり、さらにこれらの樹種を見分けられる人がいるということも重要です」
AN:「確かに。初めて聞いた木の名前もありました。これだけの樹種を選木できる人がいらっしゃるということなんですよね。ちなみに今回使用した中で特徴的な木はありましたか?」
CM:「ハンは、切ったらボソボソになりがちで、クマみたいな毛並みなんです(笑)。乾燥した中では一番反りが強かったですね。コナラは輪切りの断面がお花みたいな模様に見えますし、シデの断面は放射状の線が入っているのが不思議。ソヨゴは唯一の常緑樹で、神様の木とも言われています。神事で使う榊が、冬季になるとこのあたりでは生息していないので、その代わりとして使われているんです」
AN:「こういうお話を聞くと、もっと木に興味がわくし、自分の好みの木も見つけられて楽しいですよね。社内では、クリが人気でした! 絵本の中に出てくる木の切り株みたいだからかな。樹皮がついたものは都会の人にとって特別な印象だったのかもしれません。公園や街路樹で木を”見る”ことはあっても、”触る”ことは、大人になるほどに実はなかなかないんですよね」
CM:「私たちも、16種類の木をいつもの板状ではなく、輪切りの状態で見ることはなかなかないので、今回のプロジェクトでより木のことを知ることができました」
ー制作の過程の中で、今回、はじめて水中乾燥を取り入れたそうですね。ひとつひとつ手作業だったともうかがいました。
CM:「小径木を乾燥する過程の中で、本来は活かしたい樹皮が剥がれてしまったり、割れてしまわないかという不安がありました。普段の家具づくりにおいては天然乾燥でおよそ1年ある程度水分を抜いてから人工乾燥を2週間おこなってやっと材料として使えるといった目安があるのですが、今回小径木で製品を作ること自体が初めてだったので、乾燥のスピードも読めず、手探りの状態でした。その中で水中乾燥だと割れを防げるらしい、というところまでは調べていたので、まずはやってみようという感じでトライしました。工房の横を流れている灌漑用水路から水を汲んで、輪切りに切断するブースの横にその水の入ったバケツを置いて、という流れ作業で(笑)」
AN:「ものすごいアナログな作業!」
CM:「はい(笑)。乾燥時の割れに対する検証は少量でクリアしていたのですが、実際実施してみて、1500個くらい挽いたなかで割れたのはたった2個だったんです。水中乾燥だったからという明確な裏付けはないのですが、水中乾燥の過程で水の色が変わって、木に含まれている成分が抜けたという目でわかる結果がありました。それが割れを防ぐことに直結したかは正確にはわからないのですが、自分たちと木の間に対話があったことは確かだなと思いましたね」
木のことをもっと知り
もっと好きになる
ー互いにはじめての試みが多かった今回のプロジェクトだったと思います。木へのあらたな可能性なども感じられたのでしょうか?
CM:「今回小径木を取り扱ってみて初めて、小さい木にもコブが結構あることがわかったんです。それでこんなものも作ってみました」
AN:「わっ かわいい!!」
CM:「これはまさに、KIDZUKIのプロジェクトの気づきから生まれたアイテムですね。これから製品化できたらと思っています」
AN:「協業いただいた方に新しい木への気づきを与えられたということは、わたしたちがプロジェクトにおいて目指すところなので、そのように言っていただいてとても嬉しいです。”木それぞれが持つ個性を活かす”ことにこだわった、私たちの考え方に共感してくれたのは、飛騨の地でさまざまな広葉樹を使って制作活動をしている木と暮らしの制作所さんだからこそだなと感じました。私たちにもたくさんの気づきがあって、今回プロダクト化はしなかったけれど面白そうなアイデアも生まれているので、次回また一緒に木の良さや個性を活かしたモノづくりができることも楽しみにしています」
土場や木をチップに粉砕する工場と併設する木と暮らしの制作所を訪れると、それまで漠然と見ていた森や木の個性や表情が浮き上がり、そこらに転がっているひとかけらの木っ端でも「何かが作れるんじゃないか」と思わずにはいられません。そんな想いがひとつのプロダクトに結びついた今回のプロジェクト。さりげなくも、見て、触って、香って感じられるこの小さな木が、手にした人の新たな気づきにつながることを願います。
PEOPLE
木と暮らしの制作所
kitokurashi
森の木を使う事で生まれるゆるやかな循環。木を切ることで、元気で生き生きとした森を作り、空気や水が良くなり、森にかかわる人たちの仕事も続いていく。そして私たちは家具をつくることができ、安全で良質な家具や暮らしを届けることが出来る。「森と木と暮らしをつなぐ」の理念のもと森の木を使い、家具をつくることで森と人とが共生できる社会づくりに貢献する事をわたしたちの理念としています。