淺沼組の循環型プロジェクトから考える持続可能な、人と建物の関係性 - KIDZUKI
Category木のケーススタディ
2023.10.24

淺沼組の循環型プロジェクトから考える
持続可能な、人と建物の関係性

築30年の支店ビルの改修に際し、脱炭素、循環型プロジェクトに挑戦した淺沼組。木や土といった自然素材をふんだんに使ったビルは、その外観から圧倒的な存在感を放ちます。建築に施されたディテールを巡りながら、自然のその先に見える建築のあり方と価値の向上を探ります。

緩やかに時を刻む、吉野杉の列柱

大阪に本社を構える創業131年のゼネコン、淺沼組。全国各所に点在する支店の一つである名古屋支店は、JR名古屋駅の南側に地上8階地下1階のビルを構えています。同社屋竣工から30年が経ち、改修工事を検討するにあたり、建設の専門企業としてなにかしら独自性と発展性のあるプランが考えられないだろうか。社内で話し合いを重ねるなか、たどり着いたのが、躯体をそのまま生かして、可能な限り環境負荷が少なく、居心地が良いものを自らの手で作り上げることでした。

デザインパートナーである川島範久さんの設計により、建物の構造はそのままに、ファサードを2.5メートルセットバック。ベランダ空間を増設し、前面に植栽を設けました。現在では、公共施設や高速道路、大規模な商業施設など幅広い分野のプロジェクトを手掛ける淺沼組ですが、創業の経緯を辿れば、奈良の宮大工として学校や寺院など、多数の木造建築に関わっていた会社。その歴史を振り返るように、会社と同じ年数を生きた樹齢130年の吉野杉を列柱のようにファサードに並べています。

この吉野杉をよく見ると、天に向かってだんだん太さが細くなっているのがわかります。これは、一本の木をそのままカットして転用しているため。山から切り出したものを、そのまま無乾燥・無塗装で使用することで、静かに経年変化を重ね、次第に趣のある風景が生まれることを考慮しています。

木と土に包まれた、穏やかな環境

中に足を踏み入れると、さらに印象的な空間が広がります。来客を迎え入れるエントランスは、2階まで吹き抜けになった開放的なスペースに。床や壁にはベンガラを使用した深い赤みをおびた土を使用。天井には心地よい吉野杉の板が張り巡らされています。

ベンガラの床や壁の仕上げは、左官の名工、久住有生(なおき)さんの監修のもと、社員120名が施工に参加。素材のあり方や可能性をより身近に知るとともに、自らが使用する社屋への親しみも増したといいます。さらに原料に混ぜた土は、12トンもの建築残土をアップサイクル。会議室に置かれた大きな楕円テーブルのベースは、リノベに建材として用いた吉野杉の樹皮を再利用するなど、徹底して持続可能なデザインのあり方を追求しています。

ホワイエ奥の天然ヒノキの階段を上がると、2階には、カジュアルミーティングや仕事間の小休止に利用できるフリースペースが現れます。こちらで使われている端材を集積した什器も、後に再利用できるように接着剤を使わずに組み立てたもの。また、狩野佑真さんがデザインする木片を用いた新素材「Forest Bank」のテーブル天板、鳥取の因州和紙に落ち葉を漉き込んだ照明、吉野杉のスピーカーなど、木や自然の風合いを体で感じ取る、穏やかなしつらえが揃います。 また、3〜6階までの執務室、7階の大会議室、そして8階の多目的ホールまで、全フロア共通で屋外緑化を設けたことで、風にそよぐ草花の様子をワークスペースに居ながらにして眺めることもできるのです。

人のために、そして地球のために

建物と人の持続可能な関係性を探求しながら、素材の再利用を軸に設計、工法、仕上げにいたるまで、ありとあらゆるパートの環境負荷を最小限に抑えた結果、本改修計画では二酸化炭素の排出量を同規模の建物を建て直した場合と比べ、85%減に抑えることに成功しています。また、木と土を中心とした自然由来の素材を多用し、積極的に緑化を取り入れたことにより、社員のヘルス&メンタルケアにも配慮しました。

その証として、人々の健康とウェルビーイングに影響を与えるさまざまな機能を評価するアメリカの「WELL認証」で、築30年以上の全体改修プロジェクトとしては国内初となるGOLDを獲得。さらに省エネルギーの性能評価「ZEB Ready」の認証も取得し、その快適性と機能性の高さを実証しています。

この改修で得た気づきをさらに伸ばすべく、同社は大阪公立大学・健康科学イノベーションセンターの水野敬さんとともに、共同研究をスタート。環境がいかに労働の質や疲労の回復、心のケアに役立つかを科学的に検証しています。

「名古屋支店のビルでは追いかけられる範囲で可能性を追求しましたが、ところ変われば、それぞれに条件も変わります。日本には改修のときを待つオフィスビルが数えられないほどありますが、私たちが出した答えは100%正しいものではないかもしれません。それでも、人や歴史を丁寧に読み解けば、おのずと答えは見えてくるものだと信じています」

たしかに手間も時間もかかるかもしれないと、淺沼組の名古屋支店長の長谷川清さんは話します。ただ、一歩立ち止まり、自分たちの居場所を見つめ直すことが、のちに働く人の意識となり、都市の景観を活性化し、未来の地球を創るのだと教えてくれます。

淺沼組
1892年淺沼幸吉が奈良県大和郡山市で創業。「和の精神」「誠意・熱意・創意」という創業理念のもと、官公庁から大型商業施設まで、幅広い設計、施工事業を行う。大阪本社・本店のほか、東京、名古屋など21ヶ所、海外にはグアム、ASEAN地域に拠点を構える。https://www.asanuma.co.jp

淺沼組名古屋支店
所在地:愛知県名古屋市中村区名駅南3-3-44
https://www.goodcycle.pro/
構造:鉄骨造
規模:地上8階、地下1階
建築面積:381.29㎡
延床面積:2,779.64㎡
設計:川島範久建築設計事務所+淺沼組
家具デザイン:TAKT PROJECT
木テラゾー丸テーブルマテリアルデザイン(ForestBankTM):狩野佑真[studio yumakano]
竣工:2021年9月

INFORMATION

Company 淺沼組名古屋支店
Photos Mina Soma
Writing Hisashi Ikai

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