「木と暮らす」Vol.4 木のサウナ - KIDZUKI
Category木のケーススタディ
2025.05.23

「木と暮らす」Vol.4
木のサウナ

「サウナ」。それは高温の室内でおこなう蒸気浴・熱気浴で、もはや説明不要の温浴法です。サウナの発祥地であるフィンランドでは、2000年以上前から木造のサウナ小屋が建てられていたそうで、木と密接に関係する人々の暮らしがありました。日本は現在第3次サウナブームを迎えたといわれており、自宅や別荘地など、サウナを個人で所有する人も増えています。建築士であり、サウナ企画・設計をおこなう〈サウナイデア〉代表の島田大輔さんとともに、「木」に視点をおいたサウナについて深堀りします。

進化し続ける、日本のサウナカルチャー

KIDZUKI(以降K):日本ではここ数年サウナが大人気ですよね。KIDZUKIのコンセプトディレクターである鈴野浩一さんの連載でも以前、徳島県神山町の『森のサウナ』をたずねました。全国各地でいろいろな新しいサウナが誕生していますが、まずは、日本における現在のサウナブームについて知りたいです。

鈴野さんとともにおとずれた『森のサウナ』(徳島県神山町)

日本におけるサウナブーム:日本に初めて本格的なサウナが設置されたのは1951年。東京・銀座にできた「東京温泉」に導入され、その後1964年の東京五輪で選手村に設置されたサウナ施設が話題となったのが、第1次サウナブーム。その後1990年代の健康志向ブームにのって、スーパー銭湯や健康ランドなどの大型温浴施設への導入が第2次サウナブームと言われている。

島田(以降S):ここ5~6年で「第3次サウナブーム」が来たと言われています。タナカカツキさんの漫画「サ道」やそのドラマ化も大きなきっかけとなり、サウナだけの施設が増えました。最近では「サウナ×朝ごはん」や「サウナ×ワーク」など、サウナと別の何かをかけ合わせるムーブメントもあり、また新たな変化が出てきているので、すでに「3.5次ブーム」に突入しているように思います。さらに、テントサウナをはじめ、手が届きやすい価格で個人所有できるサウナや、自分の嗜好にあったオリジナルのサウナを作りたいという人も増えてきているので、そこから先はもう「第4次ブーム」かもしれません。

K:今の時代、みなさん自分流のサウナの楽しみ方を覚え始めているんですね。

S:そうですね。個人で所有する場合は、簡易的であるかということだけでなく、いかにサウナが生活に寄り添っているかということでも大事だと思うんです。実際に毎日の生活の中でテントサウナを立てるのは、ちょっと無理があるじゃないですか。だから、ご飯を食べたりお風呂に入ったりする普段の生活の延長上にあるかということも、これからのサウナを導入する際に考えるべきポイントになってきていると思います。

K:なるほど、おもしろいですね! 調べていくと、マンションに導入できるサウナや、別荘や宿泊施設の部屋ごとにサウナが併設するなど、よりプライベートな空間で楽しむサウナが増えてきていますよね。どんなサウナがあるのでしょうか。そして、木製バレルサウナについても掘り下げていきたいです。

最新の木製バレルサウナブランドにも注目

S:〈ワンサウナ〉は、地産地消を目指すサウナメーカーです。日本の各地の木材で、その土地の作り手と連携しながらサウナを作っています。その土地ごとに使う木材に特色があることもおもしろい。〈バロウ〉は、木材製品の製造や加工を長年行っていた〈茨城木工〉が地元のヒノキで作っているサウナで、でプロダクトとしての完成度がとても高いですね。〈トトノウ〉はエストニアのサウナメーカー。設備はエストニアで作っていて、僕もお客さんに導入したことがありますが、日本に設置する際のこちらの要望もしっかり聞いてもらえました。

「サウナの宝石」とは!? サウナに適した木材のはなし

K:「サウナと木」についてさらにうかがっていきたいと思います。ご紹介いただいたサウナでもすでにさまざまな木材を使っていますが、サウナ用の木材というのがあるのでしょうか?

S:サウナ室で使われる木材には、熱や湿気に強く、熱くなりづらいなどの特徴を持った「サウナ材」と呼ばれる素材がいくつかあります。なかでも、「ケロ材」ってご存知ですか? フィンランドのラップランド地方のパイン材のことなのですが、樹齢300〜400年の木が立ち枯れて100年くらい経った木材なんです。このケロ材はフィンランドでも貴重で「サウナの宝石」とも言われています。最近では日本にもケロ材を輸入して作ったサウナも増えていますよ。

K:樹齢300年からさらに100年の立ち枯れ!? すごい木ですね。

S:フィンランドのような寒冷な土地だからできるものですね。高温多湿の日本では腐ってしまうので、絶対にできません。ケロ材はとにかく香りが良いのですが、貴重で高級な材でもあります。じゃあ、そもそもサウナにとってどの木がいいんだ? ということで、サウナに使用される木材とそれらが適しているかを検証する数値を出してみたんです。まずは種類。アスペン(ポプラ)、アルダー(ハンノキ)、ヘムロック(米つが)、スプルスはヨーロッパでよく使われている材。レッドシダー、パイン、ヒノキ、ヒダはよく耳にする木材だと思います。日本のサウナでよく使われているのは、アバチというアフリカ産の木材でなんです。

樹種特徴
アスペン(ポプラ)非アレルギー性でヤニが少なく、湿度に強い。節が少ない。よく割り箸に使われる。
アルダー(ハンノキ)木肌が美しく、温かみのある色合いが特徴。
アバチ日本の桐と似た性質で軽く、加工性に優れ、狂いや反りが少ない。
ヘムロック(米つが)湿度や耐久性に優れ、香りがほとんどない。
スプルス手に入りやすい。軽量ながら強度と柔軟性に優れている。
レッドシダー香りが強く良い。耐久性に優れている。
パイン強度や耐久性が低く、曲がったり反ったりしやすい。
ケロ材(パイン)木の宝石と言われ、芳香がとても良い。
ヒノキ針葉樹の中で特に水や湿度に強い。
ヒダ(国産ヒバ)強く殺菌・防腐効果や消臭効果が特徴。
さまざまなサウナ材について(資料提供:島田大輔)

K:アバチは初めて聞きました。

S:アバチは桐にも似て木目があまり目立たなく、吸湿効果があって軽くて加工しやすい。そしてサウナの木材としてとても重要なポイント「身体に触れたときに熱くない」素材でもあります。それを検証したのが木ごとの「気乾比重」の数値です。要はどれだけ木の中に空気を含んでいるかという数値なのですが、軽ければ軽いほど空気を含んでいて、つまりは断熱性が高いということ。見た目のよさから気乾比重の高い広葉樹を使ったサウナもあるのですが、座面にすると熱すぎるというケースもあるんです。

樹種気乾比重
アスペン(ポプラ)約0.40
アルダー(ハンノキ)約0.41
アバチ約0.35
ヘムロック(米つが)約0.45
スプルス約0.40
レッドシダー約0.32
パイン約0.35〜0.50
ヒノキ約0.41
ヒダ(国産ヒバ)約0.45
イベ ※サウナ用ではない(比較のため記載)約0.85〜1.05
ウォルナット ※サウナ用ではない(比較のため記載)約0.55〜0.65
チーク ※サウナ用ではない(比較のため記載)約0.65〜0.75
オーク ※サウナ用ではない(比較のため記載)約0.60〜0.75
サウナの気乾比重にについて
※各木材の気乾比重(含水率5%の状態での比重)を記載。気乾比重は木材の種類や産地、個体差によって変動する。上記の数値は一般的な参考値であり、アルダー以外は針葉樹。一般的に広葉樹の方が気乾比重が高いとされている。
気乾比重が低い(0.3〜0.5)木材は、軽量で柔らかく、断熱性が高いという特徴を持つ。この断熱性の高さにより、木材の表面が高温になりにくく、サウナ室内の熱を適度に調整す役割を果たす。また、熱伝導率が低いため、直接触れても熱くなりにくく、肌に優しいというメリットがある。(資料提供:島田大輔)

K:木であれば何でもいいわけではないことが、とてもよくわかりますね。さらにサウナに適していると言える特徴的なポイントはあるのでしょうか?

S:気乾比重を考慮すると、軽い針葉樹が適していますが、軽すぎると割れてしまいます。また、日本は高温多湿ですから、カビにくく清潔で、耐久性が高い素材を使うことも重要ですね。それでいうと、アバチほど気乾比重が低くないヒノキがサウナに多く使われているのは、香りのよさや、ヒノキチオールという成分に含まれる殺菌・抗菌作用が高いことにもあると思います。サウナの安全性はもちろんなのですが、長持ちしてほしいし、身体に害を与えてはいけないということを考えていくと、表層的ではなく、もっと深い部分を意識をした木材選びが必要じゃないかなというのが、僕なりの持論です。

K:個人所有の場合は、よりいっそう意識したいところですね。これからサウナに行くたびに、どんな木を使っているかチェックしてみたくなりました。

「マイサウナ」がネクストブームに?

K:話を聞けば聞くほど、自分好みのサウナを作るのは楽しそうですね。個人で所有することが第4次サウナブームになりそうな気がします。やはり木材選びが重要ですか?

S:そうですね。自分でサウナを作るなら、絶対木材で遊んでもらいたいですね。人が触れるところには気乾比重の高い材料は使わない方がいいとは思いますが、香りだけでも、爽やかなものから強めなものまでたくさんありますし、そうやって選んでいくとおもしろいと思います。初心者の方だと、「サーモウッド」という加工木材もおすすめです。木材を180〜230℃で高熱処理をしているので、耐久性があって気乾比重も低く、膨張や収縮も少ないので扱いやすい。塗装もしないので安全性も高いです。塗装すると、VOC(揮発性有機化合物)がどうしても発生してしまいますし。

K:そんな便利な材もあるのですね! 島田さんが手がけた個人邸のサウナも見てみたいです。

S:最近は個人邸のサウナを作ることも多いですね。例えば、この料理家の自宅に作ったサウナはおもしろかったです。サウナでは基本ガラスは全面にはしないのですが、このご自宅はサウナの隣にキッチンがあって、料理をする姿を楽しみながらサウナに入るっていうコンセプト。いわゆる「サ飯」(サウナ後に食べるご飯)を作る過程から見られたらさらに楽しめるんじゃないかという発想で、かなりこだわりの強い楽しみ方ですね(笑)。

サウナ用木材の未来

K:今後のサウナブームの発展によって、使用する木材もあらたな視点で注目が集まりそうです。手がけるサウナも多い中で、島田さんは「木のサウナ」をどう捉えているのでしょうか。

S:やはり木材をちゃんと選定していく必要性を感じます。国産材も外国産材も使いますし、そこは適材適所なのですが、僕自身としてはやはり、国産材のヒノキやヒバで作るサウナが最高だと思っています。特に国産ヒバがすごく良い。米ヒバと国産ヒバって同じ名前だけど、ヒノキ科ヒノキ属とヒノキ科アスナロ属で、樹種が違うんです。国産ヒバというと「青森ヒバ」が有名で、ヒノキよりもヒノキチオールの成分が多く含まれていて、殺菌・抗菌・消臭の効果が高く完璧なのですが、高いので、あまり使われていないのが現状です。調べていくと「能登ヒバ」というヒバもあり、成分を調べると青森ヒバと変わらずに、価格は安いことがわかりました。ヒバは香りが強いので、サウナのような高温の環境下だとより香りが立って、目が痛くなることもあるので、一度熱を入れて落ち着かせるという作業はあるのですが、とてもおもしろい素材なので、これから使っていきたいなと思っています。第4次サウナブームが来ている中で、日本の木材を使ってその地域を盛り上げていくとか、そういったことも考えていきたい。そういう意味でも「能登ヒバ」は、震災の復興支援にもつながりますし、使っていく意味があるんじゃないかと。

石川県小松市滝ケ原の里山集落にある文化施設「TAKIGAHARA CRAFT&STAY」でもサウナ監修をさせてもらっていて、そこでも能登ヒバを実験的に導入しています。

K:確かに、あらゆる領域で木造・木質化の推進がおこなわれている中、島田さんの仰るように表層的な部分ではなく、本当に意味のある国産材や地域材の活用を改めて考えるフェーズにあると思います。サウナも、単なるブームではなく、進化し続ける文化になったと感じましたし、サウナ視点で木を考えることで、木への興味が一層高まりました。

S:サウナは約2000年前にフィンランドで生まれたと言われています。初期から一部に木が使われており、それがやがて「木でつくるサウナ」へと発展していったんです。建国以前から続く文化というのも興味深いですよね。なぜ木かというと、フィンランドにたくさんある素材であるということと、熱の伝導率が低いということが大きな理由だと思います。やっぱり「木で作る」ということがサウナの基本の基本ですね。

島田 大輔 しまだ だいすけ
サウナ専門設計事務所:サウナイデア代表 / 一級建築士/フィンランド政府観光局サウナアンバサダー

サウナデザイン、サウナプロダクトデザイン、サウナ企画・開発・コンサルティングまで幅広く担当。自身の家にもサウナを設計・施工し「サウナのある暮らし」を体現している。フォルテック一級建築士事務所、自由大学:サウナ創造学教授、扶桑社:日刊sumaiライター、住宅建築コーディネーター協会アドバイザリー
https://saunaidea.tokyo/
https://www.instagram.com/okuyuki.inc


PEOPLE

島田 大輔

島田 大輔

Daisuke Shimada

サウナ専門設計事務所:サウナイデア代表 / 一級建築士/フィンランド政府観光局サウナアンバサダー。サウナデザイン、サウナプロダクトデザイン、サウナ企画・開発・コンサルティングまで幅広く担当。自身の家にもサウナを設計・施工し「サウナのある暮らし」を体現している。フォルテック一級建築士事務所、自由大学:サウナ創造学教授、扶桑社 日刊sumaiライター、住宅建築コーディネーター協会アドバイザリー

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