木の糸から生まれた〈KINOF〉 それはやがてみんなの日常に - KIDZUKI
Category木と作る
2023.06.01

木の糸から生まれた〈KINOF〉

それはやがてみんなの日常に

豊かな山と水に囲まれた徳島県上勝町。「ゼロ・ウェイスト宣言」をした環境活動の先進地でもあり、人口1400人弱のちいさな町でありながら世界中から注目が集まっています。そんな上勝町で見つけたのは、手つかずの山の木を活用して生まれたファブリックブランド〈KINOF〉(キノフ)。日用品として手放せなくなるプロダクトの魅力とともに、その根底にある力強い想いを紹介します。

木の布を使った、日用品へのこだわり

「木の布」を由来とする〈KINOF(キノフ)〉というブランド名は、その名の通り原材料に「木」を使用。上勝町のスギから抽出した繊維をつかった糸からオリジナルの生地を作り、タオルやスポンジなどの日用品を生産しています。「木の布」と聞くと木のイメージからか硬い印象を受けがちですが、実際触れてみると想像以上に柔らかく軽やか。どれもシンプルで親しみやすいデザインと、天然素材ならではのやさしい触り心地で、乾きやすく洗うたびに柔らかさが増すことも特徴的です。

「ものづくりをしている人たちにはみんなそれぞれの想いがあり、さまざまな表現があります。でも、ものを買うときって、その物語を知りたいと思うより先に、見た瞬間に触りたいと思うかではないでしょうか。どれだけ“きゅん”とさせられるかということが大切だと思うんです」

そう語るのは、〈KINOF〉の創設からブランドの企画運営をおこなう杉山久実さん。珍しい「木の布」という素材のこと、上勝町が課題とする山のこと、ゼロ・ウェイスト宣言にならった無駄のないパッケージのことなど、このプロダクトの背景には私たちが知るべきたくさんのストーリーや想いが詰まっています。しかし〈KINOF〉にとってまず大切にしていることは、ストーリーを知らなくても、見た瞬間にいいなと思える魅力あるプロダクトであるかということ。素材の特性を最大限に活かし、あくまで「日用品」をつくることにこだわりを置いています。

「手に取ってもらった後は、ストーリーの出番」と杉山さんが自信をもって言うように、〈KINOF〉の魅力を後押しする背景に迫ります。

上勝町だからできること

〈KINOF〉の開発は、上勝町のスギをどう活用するかという観点からスタートしました。町の約9割が山という上勝町ですが、かつて栄えていた林業も現在は衰退。山は放置され、建材に向かない間伐材が増加するという課題に向き合う中で、多くの人が毎日使える日用品にスギを取り入れられないかというアイデアが生まれました。

「歪んでいてもコブがあっても、どんな状態のスギでも関係なくセルロースは抽出できます。立派なスギは家や家具に使われますが、それ以外は放ったらかしになってしまうので、だったらそれらを活用した方がいいんじゃないかというところからの発想です。そしてスギの木の糸は抗菌力がすごく高くて乾きやすいので、この性質を活かした水回りの商品を増やしていきました」

そしてそこに「ゼロ・ウェイスト宣言」をした上勝町だからこその気づきも加わります。上勝町では。ごみそのものを出さない社会を目指す活動のもと、町全体でごみを13品目45分別し、リサイクル率は約8割にのぼります。上勝町生まれの〈KINOF〉もその町の方針にも添って作られています。

紙とゴム紐のみで分解も簡単にできるシンプルなパッケージ。

「”上勝らしさ”と考えたときに、このゴミの問題に気づいたんです。”分解”というのは大きなテーマで、ゴミと資源を分けることを提案できるのは上勝町だからこそです。自分たちが何10年もやってきて分別の大切さを身に染みてわかっているから、異素材同士がくっついているパッケージは捨てるときにすごく面倒なんです。〈KINOF〉のパッケージも分解ありきで考えて、素材は多くても2つだけで簡単に取り外せるように作りました。手に取った方の町では45分別ができなかったとしても、知識にはなると思いますし、ゴミ以外の別のことで何か自分ができることを考えられるかもしれない。そんなふうに提案をしていけたらいいなと思っています」

アイデアが膨らむ、木の糸の可能性

〈KINOF〉のプロダクトは、ブランドサイトのオンラインストアでの販売のほか、全国各地での催事や展示会にて手にすることができます。

「今は木のナチュラルな色を生かしていて、それもいいけれど色を入れるのもいいなと思って、最近は地域の素材を使って染色も始めました。さまざまな織り方の表現も増やしていきたいですね」と、これからの〈KINOF〉の新たな企画も膨らみます。また、みんなのシンボルツリーとして大切にされてきたものの、老朽などの理由で切らざるを得なくなった木から布製品を作るといった、木を記念に残すための活用方法としての試みもあるそうです。

カーテンなど、日用品以外のプロダクトやその色や仕様のバリエーションの開発にも日々取りかかっている。

「切り倒さなくてはいけなくなったとあるお寺の木から布製品を作って檀家さんに配ったらとても喜ばれたそうです。そんなふうに、大切にされてきた意味のある木をメモリアルな布製品に変えるっていうストーリーが、とてもいいですよね」

地元の素材を選ぶということ。放ったままの木を活用すること。なるべく無駄を出さないこと。これを使いたいという魅力的なものを作ること。少しずつ着実に成長し続ける〈KINOF〉に触れると、今はまだ珍しい木の布が、私たちの暮らしに当たり前にある日もそう遠くないのではないでしょうか。最後に杉山さんが夢を語ってくれました。

「化学繊維はどんどん増えていますが、綿、絹、麻、ウール以外、自然素材の糸って増えていないんですよね。だから、木の糸が次の自然繊維として確立できたらいいなと思っています。ほころびた袖のボタンを付け替えるときに、『木綿糸取って』っていうように、『木糸(KEETO)取って』って言われるようになるのが、私のこれからの夢なんです」

PEOPLE

杉山 久実

杉山 久実

Kumi Sugiyama

徳島県徳島市生まれ。2018年、徳島県上勝町にある株式会社いろどり内でローカルファブリックブランドKINOFを立ち上げ、2020年4月に合同会社すぎとやま を設立、国産杉を使った糸「KEETO」の販売を始めた。身近にあるものとひと手間を意識して新しいものを生み出したいと考えている。

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INFORMATION

Brand KINOF
Photos Kohei Yamamoto
Writing KIDZUKI

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